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あいたい
しおりを挟む遥斗は『りーくんの恋日記』のエピソードすべてに応える『るーくんの恋小説』を書きあげた。
熱でぼうっとする夜が、熱でくらくらな朝になっていた。
いや、ぐらんぐらんかもしれない。
目が、しぱしぱする。
頭が、いたい。
もうすぐ梅雨の季節がやってくる。これから、ありがたくなるのだろう、今はきびしい陽の光にまぶしく目を細めながら、遥斗はすべてのお話を一気に公開した。
ふるえる指で、『✨🎀💕りーくんの恋💖日記💕🎀 ✨』に感想を送る。
『りーくんの恋日記が、あんまり可愛くて、きゅんきゅんしたので、僕も『るーくんの恋小説』を書いてみました。もしよかったら、ちょっとだけでも見てくれたら、すごくうれしいです』
自分のお話の宣伝って思われるかもしれない……!
心配しながら、それでも遥斗は『投稿する』ボタンを押した。
もしかしてもしかすると通報されて削除されちゃったりとかあるかもしれないけれど、その前に、りーくんにだけは届くはずだ。ブロックされていない限り『承認』か『却下』を選ぶのは、りーくんなのだから。
一瞬でいい、りーくんが見て、気づいてくれたら……!
一睡もしていないのに、遥斗の目は恐ろしいほど覚めていた。
目が痛くなってきたのに、頭もぐらぐらするのに、ふるえる指で、スマートフォンを見るのを止められない。
『お気に入り1、お願いします……!』
『りーくんの感想、お願い……!』
泣きそうになりながら遥斗はスマートフォンを抱きしめる。
通知が来るのか、来ないのかもわからない。
10年、ずっとだいすきだったりょーくんと、両想いになりたい。
今までは絶対に叶わない夢だったけれど、もし、もしもりーくんが、りょーくんなら。
どうか、どうか、おねがい……!
どきどきが限界を超えたんだと思う。
祈るようにスマートフォンを抱きしめた遥斗は熱にのまれ、こと切れるよように意識を失った。
「はる……! だいじょうぶ!? すごい熱……!」
おかあさんの声が聞こえる。
「病院に行くからな、しっかりするんだぞ!」
おとうさんが、抱きあげてくれる。
『ぎっくりしちゃうよ、だいじょうぶ?』
笑って軽口をたたく余裕も、遥斗にはなかった。
「……すま、ほ……」
「何言ってるの、こんなときに!」
叱るおかあさんが、涙目だ。
「ぐぅ……! 遥斗、重くなったなあ……!」
『失礼な。太ってないよ。5歳のときと比べると3倍くらいだよ』
いつもならあふれる言葉は、熱に揺れる荒い息になるだけだ。
「すぐ点滴を打ってもらおうな。がんばるんだぞ、はる……!」
涙目なおとうさんに、遥斗の目にも涙がにじむ。
りょーくんじゃなく、おとうさんに運ばれて、がっかりしてごめんね、おとうちゃん。
病院に連れていってもらったけれど、血液検査ではやっぱり炎症反応とか、何もなかったらしい。
健康そのものの血をしているのに、熱だけが高い。
「心因性の発熱だと思われますが、あまり続くようなら大きな病院に紹介します」
言われた両親は青い顔をしていた。
『りょーくんが、だいすきすぎて、熱がでちゃっただけだよ』
『恋小説を書いちゃったから、だいすきがあふれて、熱ももっとあがっちゃったみたい』
『りょーくんが、だいすきなの』
『りょーくんに、あいたい』
言えない唇が、もごもご動いた。
遥斗の腕には、点滴の針が刺さる。
「もう飛んだらだめです」
おごそかに告げる看護師さんに、こっくりうなずいた。
りょーくんが飛んできて、おひめさまだっこしてくれたらいいのに。
そのためなら、何度だって、熱をだすのに。
もうろうとする頭で、くりかえし、くりかえし流れるのは、りょーくんだ。
こくりとうなずいてくれるときに揺れる夜空の髪が、ふるふる首をふるときに流れる切れ長のまなじりが、ふうわり口の端をあげて笑ってくれる微笑みが、まるで走馬灯のようにくるくる回る。
「……りょーくん……」
あいたいよ。
りょーくん。
点滴で熱をさげてもらい、りょーくんが来てくれなかったので、おとうさんがまた遥斗を運んでくれた。
「ぐぅ……!」
うなってた。ごめんよ。
熱に浮かされながらも、自分の部屋の自分のベッドに横になった遥斗がいちばんにしたことは、スマートフォンを起動することだった。
「……──!」
【 『るーくんの恋小説』に感想があります! 】
マイページに通知がある。
ぶるぶるふるえる指で、そうっと、そうっと押した。
『……るーくんは、はーくんなの……?』
何の絵文字も顔文字もない、りーくんの感想が書かれていた。
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