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抱っこ?
しおりを挟む………………ねむい。
満員電車で、ちゃんと立っているはずなのに、今にも寝ちゃいそうなくらい、眠い。
秋がはじまったと思ったら急に寒くなったからだろう、車内に入れられた暖房が、さらに俺を、ねむねむにする……!
「おい、あき、愛希!
揺れてるぞ!」
同じ男子高校の制服に包まれた腕を伸ばして心配してくれる幼なじみの友樹に
「……うー……」
答えられたかどうかも分からないくらい、ねむい。
──昨夜は、やばかった。
大すきなオンラインBL小説を書いている人が、21万字の新作を一気に投稿したのだ。
スマートフォンの小さな画面をタップする手を止められなかった……!
最高だった──!
明け方にようやく読み終わって、寝ようと思ったのに興奮しすぎて眠れなかった。
あんな風に、『あいしてる』言われてみたいよ──!
きゃ──♡
とか思ってたら、眠れない。
わかってる。
限界がきて墜落するように意識を失ったのは、ほんのさっきだった気がする。
叩き起こされて、食パンをくわえて駅まで自転車で爆走して、いつもの電車の時間に間にあったのは奇跡だと思う。
でも食パンをくわえて、遅刻しそうになりながら爆走したのに、ぶつかって恋がはじまらなかったのは納得いかない。
……おかしいよね?
俺が首をかしげているあいだに
「愛希!」
腕を伸ばしてくれる友樹が、人の波の向こうに消えてゆく。
そう、満員電車は、流れに逆らおうとすると大変な目に遭う。
『降ります! 通してください!』なとき以外は流されてゆくのが、ただしい満員電車の乗り方だと思う。……たぶん!
俺が流れついた先は、めちゃくちゃいい匂いのする胸だった。
頭の芯が、しびれるような
心の奥まで、とろけるような
「……ぃーにぉぃ……」
カクっ
「……え……? だ、だいじょうぶか……!?」
戸惑ったような声が降った気がする。
俺は寝た。
ぐうぐう寝た。
めちゃくちゃいい匂いにつつまれて、あったかい腕と胸にくるまれて、こんなに気持ちよく眠れたことなんて今までかつてなかったと思うくらい、至高の眠りを味わった。
「青城ー、青城です。右の扉が開きます。扉にご注意ください」
車掌さんの素晴らしくいい声に飛び起きた俺は、目の前にある白いシャツが、べっしょりになっている事態に目をむいた。
──まちがいない。
俺の、よだれだ──!
「うわ──! す、すすすすみません……! こ、こここれから仕事ですよね……!」
泣きそうな目で見あげた瞬間、背がふるえた。
つややかな夜の髪に彩られた切れ長の瞳が、ふわふわの栗色の髪の俺を映した。
背が高い。
藍のスーツに包まれた広い胸のぬくもりを、もう知ってる。
桜の唇が、ほのかな笑みをえがく。
「気分は、わるくない? 寝てただけ?」
「は、はい、すみません、クリーニング代、お支払いします──!」
あわてて鞄から財布を出そうとする俺の向こうで、電車の扉が開いてく。
「ぎゃあ──!」
ここで降りられなくて、次の駅まで行って折り返したら、絶対に遅刻する……!
「青城高校? 降りないと。
平気だから、気にするな」
やさしく背を押してくれた。
……めちゃくちゃ、いい匂いがする。
頭の芯を、とかすような
心の奥に、刺さるような
「あ、あの、明日もこの電車に乗りますか!?
俺、愛希です! 片白愛希!」
かすかに見開かれた瞳が、ひらめいた。
「東城真紀」
開いた扉の向こうから、秋のはじまりの風が吹きこんだ。
夜の髪が、舞いあがる。
とくん
鼓動が、音をたてる。
頬が、あつい。
とくん
あなたに落ちる、音がする。
────────────────
はじめましての方も、他のお話も見てくださった方も、ぜんぶ読んでくださった方も(もし、いらっしゃったら大歓喜です!(笑))ありがとうございます!
BL大賞さまで皆さま、がんばっていらっしゃるのに申しわけないのですが、たぶん現代ものだから、そんなにお邪魔にならないかな、と……(笑)すぐ終わる短編なのですー!(笑)
というわけで、ご容赦たまわれたら、さいわいです……!
可愛くて元気な高校生の愛希ちゃんと、かっこいい社会人の真紀ちゃんのお話です!
愛希ちゃんと真紀ちゃんの動画が、インスタとYouTubeにあがっています。プロフのwebサイトから、どちらにも飛べるので、もしよかったら!
BLoveさまのコンテストに応募するためにお書きしたお話なのですが、字数増量なアルファポリスさま限定版をお送りします!
さくっと読んでいただける短編の予定なので、もしよかったら、楽しんでくださったら、とても、とてもうれしいです!
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