【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ

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「おい、愛希!」

 通学路で友樹に肩を揺さぶられた俺は、瞬いた。
 耳をくすぐる冷たい風に、首をすくめる。

 ふわふわの栗色の髪に、おっきな栗色の瞳に、ちっちゃい背丈の俺と、まるで反対な幼なじみの友樹は、つんつんの短い髪に、するどい瞳に、がっしりでっかい背丈だ。

 幼い頃は、俺のほうがおっきかったのに。

 納得いかない!



「どした、友樹」

 見あげたら、あきれたような友樹の視線が降ってくる。

「こっちの台詞だ。ずっとぼーっとして、どうしたんだ? 眠い?」

 めちゃくちゃ眠かったことさえ、忘れていた。

 頭の芯がとろけてゆくような香りを、ほんのり微笑んでくれた唇がえがく弓を、忘れられない。

 脳内で延々ループ再生される微笑みと、風に真紀の髪が舞うさまに、うっとりしていたら、青城高校について、授業がはじまって、一日が終わったらしい。

 びっくりした。


 真紀のことしか、考えられない。


「あきちゃん、どしたの、今日、ぼーっとして」

「おひめさまが元気ないと、俺らもしょんぼりだよ」

「何かあったの?」

「だいじょうぶ?」

 顔をのぞきこんで心配してくれるのは、1年2組のクラスメイトたちだ。

「平気。ありがと」

 答えた俺を守るように、友樹が前に立ってくれる。

「愛希、帰るぞ」

「じゃあ皆、また明日」

 笑って手をふる。

「あきちゃん、かわいー!」

「ほんとに、ひめだよな」

「青城のひめ!」

 歓声がおきて、俺はちょっと眉をさげる。



 男性がすきだと気づいたのは、小学校の頃だったと思う。

 堂々と自分のジェンダーを誇っていいのに、差別されちゃうかもとか、腐ってるって言われちゃうかもとか、家族が哀しく思うかもとか、恐くなって、言えなかった。
 中学でも、息をひそめるように隠してた。

 スマートフォンで読む、全年齢のオンラインBL小説が、俺の最大の楽しみで、最高のひみつだった。

 でも高校は、絶滅危惧種な男子校にしようと思った。
 同じジェンダーの人に逢える確率が、もしかしたら上がるかもしれないと。


 高校でびゅう……!

 わくわくして校門をくぐった俺を待っていたのは、謎の『おひめさま』扱いだった。

 ふわふわの栗色の髪も、おっきな栗色の目も、筋肉がなかなかつかない、華奢にみえる手足も、ちっちゃな背丈も『ひめ』らしい。

 男ばかりの高校で、俺は、うるおいになってしまったらしい。


 で、でも、『ひめ』なら、告白してくれる人がいるかも……!

 わくわく待った。

 めちゃくちゃ待った。



 靴箱にラブレターが入ってたりとか、しちゃうんだよ!

『片白くん、ちょっといいかな?』

 赤い頬で呼び出しとか!

 きっと、きっとあるに違いない──!
 だって『ひめ』になっちゃったよ。男子校だよ──!?

 きゃ──♡



 めちゃくちゃ、待った、のに……!


 …………………………。


 ……オンラインBL小説の読みすぎだったっぽい……



「ひめは、皆のひめだから」

「あきちゃん、かわいー♡」

 それはマスコットや、ゆるキャラを愛でるような気もちらしい。


 恋じゃない。


 ……誰にも言えないまま、大人になってゆくのかな。

 すてきな彼氏ができるなんて、やっぱりオンラインBL小説の世界のお話で。

 ごくふつうな……いや、ちょっぴりひめだけど、まあまあふつうな俺には無縁のお話なのかなと、涙ぐんでいたのに。



 胸が、とくとく音をたてる。

 頬が、あつい。

 真紀のことしか、考えられない。



 きもちわるがられるかもとか、避けられるかもとか、迷惑かもしれないとか、いやな顔をされちゃうかもとか、哀しいことを思う余裕さえなかった。


 だって、高校1年生と、社会人だ。
 接点なんて、電車のなかだけ。

 今、手をのばさなければ、もう、きっと、とどかない。


 だから、翌朝の満員電車で微笑んでくれるあなたに、燃える頬で告げる。



「すきです。つきあってください!」


 切れ長の夜の瞳が、まるくなる。







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