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恋
しおりを挟む「おい、愛希!」
通学路で友樹に肩を揺さぶられた俺は、瞬いた。
耳をくすぐる冷たい風に、首をすくめる。
ふわふわの栗色の髪に、おっきな栗色の瞳に、ちっちゃい背丈の俺と、まるで反対な幼なじみの友樹は、つんつんの短い髪に、するどい瞳に、がっしりでっかい背丈だ。
幼い頃は、俺のほうがおっきかったのに。
納得いかない!
「どした、友樹」
見あげたら、あきれたような友樹の視線が降ってくる。
「こっちの台詞だ。ずっとぼーっとして、どうしたんだ? 眠い?」
めちゃくちゃ眠かったことさえ、忘れていた。
頭の芯がとろけてゆくような香りを、ほんのり微笑んでくれた唇がえがく弓を、忘れられない。
脳内で延々ループ再生される微笑みと、風に真紀の髪が舞うさまに、うっとりしていたら、青城高校について、授業がはじまって、一日が終わったらしい。
びっくりした。
真紀のことしか、考えられない。
「あきちゃん、どしたの、今日、ぼーっとして」
「おひめさまが元気ないと、俺らもしょんぼりだよ」
「何かあったの?」
「だいじょうぶ?」
顔をのぞきこんで心配してくれるのは、1年2組のクラスメイトたちだ。
「平気。ありがと」
答えた俺を守るように、友樹が前に立ってくれる。
「愛希、帰るぞ」
「じゃあ皆、また明日」
笑って手をふる。
「あきちゃん、かわいー!」
「ほんとに、ひめだよな」
「青城のひめ!」
歓声がおきて、俺はちょっと眉をさげる。
男性がすきだと気づいたのは、小学校の頃だったと思う。
堂々と自分のジェンダーを誇っていいのに、差別されちゃうかもとか、腐ってるって言われちゃうかもとか、家族が哀しく思うかもとか、恐くなって、言えなかった。
中学でも、息をひそめるように隠してた。
スマートフォンで読む、全年齢のオンラインBL小説が、俺の最大の楽しみで、最高のひみつだった。
でも高校は、絶滅危惧種な男子校にしようと思った。
同じジェンダーの人に逢える確率が、もしかしたら上がるかもしれないと。
高校でびゅう……!
わくわくして校門をくぐった俺を待っていたのは、謎の『おひめさま』扱いだった。
ふわふわの栗色の髪も、おっきな栗色の目も、筋肉がなかなかつかない、華奢にみえる手足も、ちっちゃな背丈も『ひめ』らしい。
男ばかりの高校で、俺は、うるおいになってしまったらしい。
で、でも、『ひめ』なら、告白してくれる人がいるかも……!
わくわく待った。
めちゃくちゃ待った。
靴箱にラブレターが入ってたりとか、しちゃうんだよ!
『片白くん、ちょっといいかな?』
赤い頬で呼び出しとか!
きっと、きっとあるに違いない──!
だって『ひめ』になっちゃったよ。男子校だよ──!?
きゃ──♡
めちゃくちゃ、待った、のに……!
…………………………。
……オンラインBL小説の読みすぎだったっぽい……
「ひめは、皆のひめだから」
「あきちゃん、かわいー♡」
それはマスコットや、ゆるキャラを愛でるような気もちらしい。
恋じゃない。
……誰にも言えないまま、大人になってゆくのかな。
すてきな彼氏ができるなんて、やっぱりオンラインBL小説の世界のお話で。
ごくふつうな……いや、ちょっぴりひめだけど、まあまあふつうな俺には無縁のお話なのかなと、涙ぐんでいたのに。
胸が、とくとく音をたてる。
頬が、あつい。
真紀のことしか、考えられない。
きもちわるがられるかもとか、避けられるかもとか、迷惑かもしれないとか、いやな顔をされちゃうかもとか、哀しいことを思う余裕さえなかった。
だって、高校1年生と、社会人だ。
接点なんて、電車のなかだけ。
今、手をのばさなければ、もう、きっと、とどかない。
だから、翌朝の満員電車で微笑んでくれるあなたに、燃える頬で告げる。
「すきです。つきあってください!」
切れ長の夜の瞳が、まるくなる。
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