【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ

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言えない

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「……愛希……?
 バイト?
 聞いてないんだけど」

 自分でも驚くほど、低い声が出た。

 空気が音をたてて、ひび割れたような気がするのに。

 愛希が、とまどっているのが、見えるのに。


 わきあがる、真っ暗な気もちを、止められない。



『バイトする』というのは高校生にとって、いや大人にとっても大切なことで、大事な人には話すことだと思う。

 彼氏には、話してほしい。


 愛希のメッセージの返信が遅いことを嘆いていた自分は、なんておめでたい、あんぽんたんだったのだろう。

 愛希にとって、自分は
『アルバイトすることになったよ』
『この時間は働いてるから、返信とか連絡できないからね』
 伝えてもらえないほど、どうでもいい存在なのだろうか。


 ……ずっと、愛希の傍にいたいのに。

 愛希の伴侶になりたいのに。


 そんなことを思っているのは…………俺、だけ…………?


 泣きそうになるのを隠すように、声が低く、低く、落ちてゆく。

 にぎる指が、ふるえてる。



「……内緒にしておいて、かっこよく、おごってあげて、びっくりさせたかった」

 愛希がくれた言葉に、目をむいた。


「……え……」


 びっくり、させたかった?

 おごってくれるために?

 ──……俺の、ため、に……?



 真っ暗な水底へと突き落とすのも、すくいあげて笑ってくれるのも、愛希だ。


 自覚したら、耳まで熱い。


 どうしよう


 愛希の職場なのに

 仕事中なのに


 どうしよう


 抱きしめたい。

 ちゅうしたい。


 どうしよう


 俺、めちゃくちゃ、めちゃくちゃ、愛希が、すき



 燃える頬で、開こうとした唇は麗乃の腕に止められる。


「真紀、知りあいなの? 親戚の子ども?」

『彼氏だ──!』

 絶叫しかけて、止まれたのは奇跡だ。


 ここは、愛希の職場だ。
 カミングアウトなんて、彼氏がしていいものじゃない。

 もし愛希が、働きづらくなったら?

 こんなに可愛い、大すきな愛希が、差別されたら? きもちわ……言われてしまったら?

 絶対絶対絶対絶対絶対絶対だめだ──!


 ……そんなことを、心配しなくていい世界にするのは、今の世界を変えていくのは、俺たちだ。

 わかっているけど、今は──

 言えないから、愛希の手をにぎる。


『俺の、彼氏だよ。
 最愛』

 伝わるように、そっと。


 愛希が、俺を、見あげてくれる。

 それだけで、世界が虹に輝きはじめるんだ。



『たいせつに、思ってる。
 お仕事、がんばって』

 それだけでも伝えようとしたのに


「片白くん! 料理あがったよ! 5番!」

 厨房から声が飛ぶ。

「はあい! ごめん、真紀ちゃん。お連れさまも。こちらのお席にどうぞ」

 愛希がひいてくれた椅子に座るなんて、しあわせすぎて、どうしよう!

 今度、愛希に椅子をひいてあげよう。
 そうしよう。


「なに、真紀、ほんとに知りあいなの? 高校生と?」

 麗乃の声に、眉を寄せる。


「……おじさんだと言いたいのか。麗乃は俺より半年も上だぞ!」

「え、いや、そういうことじゃなく……え、ほんとに知りあい?」

 ぽかんとする麗乃の口のなかに

『彼氏だ──! 9歳も若い彼氏だぞ! いいだろう!』

 突っこんでやりたい。


『うわ、3年も我慢なの? おつ』

 にやにやした顔で、肩を叩かれる未来しか見えない。


 泣いちゃう!







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