【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ

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おかしい?

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 キーアの言葉に、ネィトは紫の瞳を瞬いた。

「……こーりゃく……?」

 ふしぎそうな目には、初めて聞いた言葉に対する戸惑いだけがあった。
 嘘も、隠してる素振りも『いひひひひ。知ってるよ』な、ほくそ笑みもない。

 なるほど、ネィトは転生者じゃない。

 オンライン小説王道の、転生者の悪役令息じゃないみたいだ。

 悪役令息の伴侶(予定)が転生してるからね。
 王道から、かなり外れてる。
 理解したキーアは、かみ砕いて説明してみた。

「すんごく、かっこいー人を見ると『きゃー♡ きゃー♡』しちゃう?」

 はっとネィトが息をのむ。

「反射……!?」

 きもちわかる!

 かっこいー人を見ると、つい拝んじゃうよね!

 うむうむするキーアの前で、ネィトの眉が下がった。

「僕、きーちゃんが、だいすきなの。浮気とか、したくないのに、なんか、かっこいー人を見ると『きゃー♡』って、あたまのなかが、♡でいっぱいになっちゃって、自分の行動とか、言動とか、制御できなくなっちゃうの」

 そ、それはちょっと、気持ちわかる範囲を超えてる……?

「……そ、そうなの?」

 こくりとネィトは頷いた。

「かっこいー人に反応しちゃうんだと思ったの。でも、お兄さまとか、おじさまとか、大公殿下とか、何ともないの。頭が♡でいっぱいにならないし『きゃー♡ きゃー♡』したくならない。おかしくない?」

「おかしい」

 キーアは深く頷いた。
 前のキーアも、ぷよぷよんのお腹をひっこめたくなるほど、大公殿下は輝いていた!

 肩、ぽんぽんしてくださったんだよ。
 至福だったよ。

「見あげるだけで、ひざまずきたくなる顔面に『きゃー♡ きゃー♡』したくならないっていうのは、周りがすごすぎて、ネィトの感覚が間違ってる?」

 首を傾げるキーアに、ネィトが涙目だ。

「ひ、ひどい、きーちゃん! そんなことないもん! ちゃんと、かっこいーのはわかるけど、『きゃー♡ きゃー♡』しないの」

 反対側に、キーアは首を傾げた。

 前キーアの知識によると、ネィトのおじさまは、ロデア大公国で、一番顔がいいと謳われる、ハゥザ大公弟殿下だ。

 その次くらいに顔がいいと囁かれているのが、やっぱりネィトのおじさまであるロデア大公殿下だ。

 その輝かしい大公殿下の末の弟が、ネィトのおかあさんだ。
 魔法で子どもができるからね。
 ルゥイ殿下は、ネィトのいとこにあたる。

 だから今のところ、トリアーデ家が大公家に次ぐ家格となっていて、ネィトには誰も刃向かえないんだな。

 それで文句が、伴侶(予定)に来ると!

 BLゲームでは、ルゥイ殿下まで伴侶(予定)に文句を言いに来てたよ。
 いとこが可愛くて、言いにくかったのかもしれない。

 ルゥイ殿下が、いとこなんだよ?
 すんごいよね?
 もはや顔力の嵐じゃない?

 周りが、あんまりにも輝かしい顔ばかりだから、ネィトの感覚がおかしくなってるのかな?

「誰に『きゃー♡ きゃー♡』したくなっちゃうの?」

 きゅっと唇を噛んだネィトは、呟いた。

「……ルゥイと、レォさま」

 なるほど、ルゥイ殿下は呼び捨てで、レォは『レォさま』か。
 いとこって、素晴らしいな!

 もだもだしたキーアは、そうっと聞いてみる。

「騎士科のガダ先輩には?」

 紫苑の瞳が瞬いた。

「誰?」

「知らない?」

 こくりと頷くネィトに、キーアはうなる。

「もしかすると、BLゲームの強制力が発動してる、のか、な……?
 ネィトの意志と関係なく、攻略対象に『きゃー♡ きゃー♡』しちゃう?」

 ネィトは細い眉をひそめた。

「『こーりゃくたいしょー』がわかんないけど、おかしいのは僕だけじゃないんだよ! きーちゃんだって!」

「……え……?」

 きょとんとするキーアに、ネィトの紫苑の目がうるうるしてる。

「こんなに話してくれるの、どれくらいぶりか、わかってる?
 最近なんて、ほんとに無言で、僕が、わざと酷いことを言おうと、やさしいことを言おうと、何を言ったって、何にも言ってくれなかったんだよ!
 別人みたいになってく、きーちゃんに、逢いたくなくなって……」

「…………そう、なの、か……?」

 ヨニとトマを、振りかえる。
 ふたりはそろって、眉をさげた。

「……確かに、キーアおぼっちゃまは、ふさぎこんでいらっしゃるご様子で……」

「頷いたり、首を振ったり、意思表示はしてくださるのですが、どんどん口数が少なくなってこられていました」

「ネィトさまの暴行で頭が2倍になられたときは、ほんとうに心配したのですが、とてもお元気になられて、ちいさいころのキーアおぼっちゃまが、戻っていらしたようで……うれしくて……」

 涙ぐむヨニを、抱きしめる。

「うわあん、ヨニ、心配かけてごめんね……!」

「……キーアおぼっちゃま、俺も心配していたのですが……さっきも、御者をしていたので、ぽんぽんしていただいていません……」

 トマが涙目だよ!

「うわあん! トマ、ごめんね! 心配、ありがとう!」

 ぎゅむぎゅむ抱きしめて、しなやかな筋肉で盛りあがったお背なをぽんぽんした。


「………………僕は……? ぼ、僕も、きーちゃんのこと、ずっと、ずっと心配してたんだから──!」

 上目遣いのうるうる目のネィトが、悪役令息と思えないくらい、可愛いんですけど──!


「あれ、ネィト、悪役令息だよね? 可愛さ、振り切ってない? なにこれ」

 もしゃもしゃの髪をあげたら、とんでもなく可愛いとか、王道だよ!

 これは主人公と、真剣に闘える悪役令息だ──!


「ぼ、僕のこと、かわいーって言ってくれるの、きーちゃん、だけ、だよ」

 ちょこんと小指を握られました。


「……だっこ……」

 うりゅうりゅの涙目の、おっきな瞳の上目遣いで、見あげられました。


「え、ちょ……なにこれ……! 伴侶(予定)が、かわい──!」

 ぎゅむ。

 抱っこしてみた。


「ふぇえぇええ──! きーちゃんだぁあぁああ──! 戻ってきてくれたぁああ──!」

 号泣が再開されました。

 防水かっぽう着、装着だから、だいじょうぶ!

 ちっちゃなお背なをぽふぽふしながら、キーアは考える。


「……口数が減って、無口になってた……?」

 前のキーアの記憶は、ほんとうに、両手にドーナツを持って、食べかすをくっつけてることくらいしかない。

 いくらドーナツを愛していて、どーなつのみで生きてゆく決意だったとしても、それは記憶としてあんまりにも偏りすぎていると思う。たぶん。

 BLゲームで、文句を言われるくらいしか出て来なかった、悪役令息ネィトの伴侶(予定)をよくよく思いだしてみた。

 主人公のルート確認や、攻略対象の親密度が上がったり下がったりする言動の振りかえり、悪役令息の行動ばっかり気にしてて、伴侶(予定)な顔も名前もないモブのことを、あんまり気にしてなかったよ。

 あまりにもモブすぎるから、全く関係ないと思ってたけど……

 うなれ、紀太の記憶──!

 チカチカ、頭の奥が閃いた。


 ルゥイ殿下が

『ネィトが奔放にふるまうのは、伴侶(予定)であるきみが、ネィトをしっかりつかまえていてくれないからじゃないかな?』

 眉をさげて、残念そうに『なんとかして』訴えるのに、悪役令息の伴侶(予定)は

『………………』


 レォが

『伴侶(予定)が、他の男に声をかけるのを放置するのは、どうかと思う』

 凛々しい眉をしかめるのに、悪役令息の伴侶(予定)は

『………………』


 ガダ先輩が

『ネィトの伴侶(予定)なんだろう? しっかりしてくれよー。俺が不倫してるみたいで、いやだー』

 ちょっと泣きそうになってるのに、悪役令息の伴侶(予定)は

『………………』


 そう、名前も顔もないモブは、声も削られていたのです!
 フルボイスのゲームだったから!
 どうでもいいモブのために、イケボの声優さんに声をあててもらうとか、ありえなかったから!

 そういう理由で無言だよ。

 モブキャラでも、従僕さんとか声のある人もいたのに!
 悪役令息の伴侶(予定)に、声はなかった。

 顔も名前も声もないモブ──!

 BLゲームで悪役令息の伴侶(予定)が役目をきちんと果たすように、強制力で、前のキーアが無言にシフトしていったってこと?

 何を言われても、ぼーっとして、無言の、だるんだるんになるように、強制力が働いてた?

 それを、ネィトが、ごちんして、紀太の記憶がよみがえって、強制力がほころびはじめた……?

 
「僕もおかしいけど、きーちゃんもおかしくて……頭を打ったら、なんか、記憶がよみがえったりするって、本で見た、から……ぷんぷんした振りで、突き飛ばした、の……
 あの……ほんとに、ごめんなさい──!」

 記憶をよみがえらせようとしてくれたらしいよ。

 ようやくだけど、ちゃんと謝ってくれたよ。


「きーちゃんが、戻ってきてくれて、うれしい」


 腕のなかで、泣いてくれた。





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