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落ちました
しおりを挟むあわあわするキーアを守るように、ちいさなネィトが前に出る。
魔道具の明かりに照らされた横顔が、凛々しくきらめいた。
春とはいえ、まだ冷たい夜風が吹きぬける。
「久しぶり、ルゥイ。
いとこの僕に声をかけずに、僕の伴侶に先に声をかけるなんて、随分じゃない?」
久しぶりに見たのだろう、紫の瞳にわずかに息をのんだルゥイの若葉の瞳が、キーアとネィトの繋がった手に注がれて、止まる。
「………………伴侶………………?」
「(予定)です。予定は未定です。こんばんは、ルゥイ殿下。
大公宮舞踏会に、お招きありがとうございます。キピア家当主代理として、心より御礼申しあげます」
うやうやしく膝を折る。
トマに直してもらった貴族の敬礼は、たぶん、かんぺき!
だったのに、固まったままのルゥイ殿下は見てもくれなかったらしい。ネィトとキーアを見比べた。
「………………え…………ネィトの伴侶(予定)って…………あの…………?」
『あの』が指しているのは、たぶん、ぷよぷよんで虚ろで無言なキーアだと思われます……
「たぶん、そのキーア・キピアです」
「………………うそ………………」
ルゥイ殿下が、あんぐりしてる。
隣のネィトは、キーアの手をぎゅっと握って、まるで猫が毛を逆立てるみたいに、フーッてしてる。かわいい。
守ろうとしてくれてるみたいな、ちっちゃなお背なも、凛々しいよ!
……しかし、これ、聞いてた対応と違わない?
「あれ? ルゥイ殿下だよ? ネィト、『きゃー♡ きゃー♡』してないよ?」
首を傾げるキーアの腕に、これみよがしに、きゅう、とネィトが抱きついた。
「きーちゃんと一緒だと、僕、きーちゃんで頭がいっぱいだから♡ 頭が変にならないのかも。愛の力かな♡」
かわいいネィトには、だまされないぞ!
「いやいやいや、この前まで、目の前で他の男に『きゃー♡ きゃー♡』してたから」
「だってそれは、きーちゃんじゃなくて、別人だったもん」
ぷくりとふくれるネィトが、かわいい。
ネィトをしばらく茫然と見つめていたルゥイが、頭を押さえた。
「………………嘘だろ…………キーアに……伴侶が……?」
「あのう、ネィトがこれから恋に落ちるかもしれないので、未定です」
ルゥイ殿下ルートに進むこともあるかもしれないからね!
進言しておかないと!
「キーア!」
さらさらの長い青磁の髪が、夜風に流れる。
「逢いたかった」
ほんのり微笑んでくれたレォが、キーアとネィトの繋いだままの手と、傍らに立つヤエと、頭を抱えるルゥイに止まった。
「………………どういう、こと…………?」
低く、低く、凍りつくレォの声も、大地をえぐってる!
「お久しぶりです、レォさま。ネィト・トリアーデです。こちらは僕の伴侶、キーア・キピアちゃんです」
にこにこ紹介してくれるネィトが『宣戦布告』を叩きつけてるように見えるのは、目の錯覚かな?
あれ?
ルゥイ殿下にも、レォさまにも、全然、微塵も、『きゃー♡ きゃー♡』してないよ、ネィト──!
「………………伴侶………………?」
「(予定)です。ネィトの恋が、これからはじまるかもしれないので、未定です。こんばんは、レォさま」
レォさまルートも、あるかもしゃないからね! 応援、応援!
うやうやしく貴族の敬礼で、ごあいさつしてみた。
全然見てくれなかったらしいレォの吊りあがる目が、ネィトを刺してる。
「へぇえぇえ」
低い、低い声が大地を這ったあと、レォが瞬いた。
「…………ネィトさまの、伴侶(予定)…………?」
『もしかして『あれ』?』
レォの口が、ぽかんとしてる。
言われなくても、わかった! ので答えてみた。
「もしかしなくても、それです」
失笑するキーアに、茫然とキーアとネィトを見比べたレォの瞳が細くなる。
「伴侶(予定)なんだな。予定は、未定」
噛み締めるように呟くレォに、ネィトの細い眉があがる。
「僕が新たな恋に落ちると思えないので、ほぼ確定ですけど」
にこりとネィトが笑う。目は微塵も笑っていない。
ちょっと、こわいよ、ネィト……!
「でも絶対じゃない」
ふんと鼻を鳴らすレォに、ふんとネィトが鼻を鳴らしかえした。
「まだ18歳の成人じゃないので、どんなに伴侶になりたくても、なれないんです。
そんなこともわからないくらい、あんぽんたんなんですか?」
ぷくりとふくれるネィトはかわいいけど、『きゃー♡ きゃー♡』してたはずのレォさまに、塩対応だよ!?
それ、頭をごちんしたお見舞いのときに言ってたことと内容似てるようで、真逆だよね?
どしたの、ネィト! 悪役令息、誤作動か!?
「……ああ、そうだね、絶対じゃなかった。僕としたことが取り乱してしまったよ」
微笑んだルゥイが起きあがる。
おもむろに、つけていた真白な手袋をはずした。
「よろしい」
隣のレォも、つけていた青磁の手袋をはずす。
ふたりの瞳が、吊りあがる。
「決闘だ!」
ぱん!
投げつけられた、ルゥイとレォのやわらかそうな手袋が、ネィトのちいさな胸にあたりそうになったので、思わず手を出したキーアが受けとめた。
それくらいの反射神経は、トマに鍛えてもらったんだよ! かんぺき!
「………………え………………?」
ルゥイも、レォも、ぽかんとしてる。
キーアは、ルゥイとレォのきれいな手袋を丁寧にたたんだ。
投げたように見えたけど、目の錯覚だと思うな!
いやだって、前のキーアの知識によると、ロデア大公国では、手袋を相手にぶつける、というのは真剣に『決闘を申しこむ』っていう意味なんだよ。
果たしあいだよ、真剣だよ、そんなのBLゲームじゃない!
『悪役令息と決闘だ!』は主人公と悪役令息が決闘する、といっても可愛く、衣装や魔法の華麗さで争うゲームだよ。
攻略対象と悪役令息が決闘するゲームじゃないから!
それ、間違ってるから!
「ルゥイ殿下、レォさま、手袋、落ちました」
うやうやしく、お返しした。
「ぷぷぷぷぷ」
ネィトが、唇に手をあてて、こらえきれないみたいに笑ってる。
「……かっこわる」
後ろのヤエが、ぽそりと呟いた。
「──……っ!」
真っ赤になったルゥイとレォが、ばたばたしてる。
かわいい。
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