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舞踏会だよ!
しおりを挟む「そ、それでも僕のすきな人が、きーちゃんだったら……?」
うるうるの涙目で、きゅ、と小指を握られたキーアは、うなる。
悪役令息なのに、主人公並みの攻撃力だよ!
闘える悪役令息、つよい──!
「未来のことは分からないから、とりあえず大公立学園を卒業してから考えよう! 俺が無言の人形みたいになったらネィトにも申しわけないし」
「キーアおぼっちゃまが、どんなになられようと、お支えします──!」
「ずっと、お仕えします──!」
ヨニが、トマが、涙の滲む瞳で、抱きしめてくれる。
「うわあん! ヨニ、トマ、ありがとう──!」
皆で抱きあって泣きました。
「ぼ、ぼぼ僕も──!」
ぴっとり背中にくっついてくるネィトが、かわいーです。
「じゃあ俺も──♡」
どさくさで抱きしめてくるヤエも、かわいーです。
ヤエさまが、ネィトの髪を可愛くシャギーを入れて切って、紫の目が見えるようにしてくれました!
あの歯抜けみたいなハサミじゃなくてもシャギーを入れられるのって、すごいよね。さすがプロ!
服飾デザイナーだけじゃなくて、仕立ても、スタイリングもできるなんて
「ヤエさま、すごい!」
拍手したら、照れ照れらしい赤い頬で笑ってくれた。かわいー♡
トリアーデ家の従僕さんが持ってきてくれたネィトの服のなかから、キーアの今日の装いにも似合う夜会服をヤエが選んでくれる。
「一緒の闇色もいいけど、紫の目が怖がられちゃうかもしれないから、今日は白でいってみよー! おそろい感を出すために、青を差し色に使おうかな」
ヤエが選んだ服を、ヤエに着つけてもらう。
ヤエがメイクしてスタイリングしてくれたら
使用前 → 使用後 みたいな、びっくりするほどかわいー悪役令息が、できました!
「おお! かわいー!」
皆で拍手したら、照れ照れらしいネィトが真っ赤になった。
「……きーちゃんと、一緒に舞踏会に行けるの、うれしい」
ふわふわ紅い頬で笑ってくれる。
こんなに可愛くて、しかも貴族最高峰のトリアーデ家のネィトを伴侶(予定)にできただなんて、ネィトの目が紫だったからしかありえないけど、キーア・キピア、すんごい大快挙だな!
前のキーアを、初めて心から賞賛した。
何にも頑張る気がない、どーなつ両手に持ってる姿しか記憶にないけど、強制力で仕方なかったのかもしれない。
ふたりで、たんぽぽの綿毛を飛ばした記憶を、大切に守っていたみたいに。
ネィトのことを、とても大事にしていたのだろう。
だから、おそろいのもしゃもしゃの髪で。
だから、誰に何を言われても、ネィトの行動を制限したりしなかった。
その前のキーアの意志を継いで、ネィトには自由に恋をしてほしいと思う。
紫の目、ただそれだけで忌まれてきたネィトは、ほんとうは、とても可愛くて、やさしい人だから。
悪役令息なんかじゃない、ひとりの人間で。
攻略対象たちから愛されるに足る人だと思うから。
「応援、するから」
微笑んだら、ネィトがぷくりとふくれる。
「ぼ、僕は、きーちゃん一筋なんだから!」
今の気もちはうれしいけど、これからどうなるか分からないからね!
「まあまあ。頭が♡で、きゃーきゃー♡ しちゃうんだろ? 俺もそうだから! お互い大目に見るということで、お願いします!」
「…………は…………?」
あんぐりするネィトに告げる。
「俺、攻略対象、大すきだから! 反射で拝んじゃうから! ごめんね、ネィト!」
事前に真実を告げておきました。
「えぇえぇええ──!」
ネィトが、ちょっと泣きそうになってる。かわいい。
「ネィトさま、あの、キーアおぼっちゃまは、かっこいー顔面に、大変に弱いだけですので」
「ええ、それはもう、大変に」
ヨニとトマがフォローしてくれてる。やさしい。ありがとう。
「じゃあ俺の芸術をお披露目にいこー!」
拳を掲げるヤエが、元気だ。
遠くから、おそるおそるこちらを伺っていたネィトのお兄さんティトが、手を挙げる。
「あ、あの、皆で行くなら、馬車と馬を用意する、けど……」
キピア家の馬車、ちっちゃいし、馬も1頭で、ネィトも一緒に行けないからね。心配してくれた。やさしい。
「別人みたいなきーちゃんと、あんまり一緒にいたくなくて、大公殿下の舞踏会でしか会わなくて、馬車も一緒に乗らなくて、ごめんなさい」
ネィトが、ちゃんと謝ってくれた。
「こちらこそ、踊ることさえしなくて、食べてばっかりで、無反応で無言になって、ごめんなさい」
キーアも、ちゃんと謝った。
「お相子?」
「だな」
ふたりで手を繋いで、笑う。
「ああ、ほんとうに、キーアおぼっちゃまが、おちいさかった頃に戻られたみたいです──!」
ヨニが涙を拭って喜んでくれて、トマも涙ぐんで祝福してくれた。
「よかったですね、キーアおぼっちゃま!」
「これからどうなるかわからないけど、今のところはよかったね! じゃあ舞踏会に行って、ヤエさまの服を宣伝しよー!」
「おー!」
拳を掲げるヤエさまが、やる気だ。
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「トリアーデ家ご子息、ネィト・トリアーデさま、キピア家次期当主、キーア・キピアさま、ご来臨!」
歌うように告げてくれる大公宮の従僕さんに、かるく手をあげたキーアは、ふわりと馬車から降り立った。
馬車から降りようとするネィトに、そっと手を差しだす。
「どうぞ」
「えへへ。ありがとう、きーちゃん」
ふわふわ紅い頬で、キーアの手をきゅっと握ったネィトが馬車から降りてくる。
「キーア!」
腰の砕けるような、あまい声がした。
はちみつの髪が、ふわふわ揺れる。
「逢いたかった」
とろけた笑顔が、キーアの手に繋がるネィトと、馬車から降りて後ろに立つヤエに、凍りつく笑顔に変わってゆく。
「……どうして逢うたびに、ちがう男を連れてるの……?」
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