47 / 213
かんぺき!
しおりを挟む竪琴が歌う。
夜が香る。
魔道具の明かりが輝いて、あでやかに闇を染めあげる。
ネィトの手をとったキーアは、舞踏場へと踏みだした。
ヤエの宣伝になるよう、やわらかに魔力を流す。
魔法の糸に、光が走る。
やわらかに色を変え、ほのかな魔力にきらめいた。
「わあ……!」
ほっぺを真っ赤にして、ネィトが喜んでくれました。
「おお……!」
魔法糸を使った刺繍をしている人は、少ないらしい。
感嘆の声がさざなみのように、広やかなホールを伝ってゆく。
ちょこっとヤエさまの宣伝になったみたいです。
よかった。
キーアが身をひるがえすたび衣の刺繍が輝いて、魔力の光が、ふわふわ揺れて、踊るキーアとネィトをきらめかせた。
手を繋いで、やさしく腰を抱いて、踊る。
踏みだす足に、ネィトが足を引く。
ネィトが踏みだしたら、やわらかに足を引く。
ロデア大公国では、踊りも形式ばったり奇抜だったりしない。
一緒に踊る人と、指を重ね、ぬくもりを重ね、心を重ねられるように。
やわらかに抱きよせて、踊る。
ほんのり見あげてくれるネィトの星の瞳に、キーアの笑顔が映ってる。
トマとヨニが一緒に叩きこんでくれたステップは、もうキーアの身体に染みこんで、やさしくネィトをリードした。
「きーちゃん……♡」
キーアの腕に身をあずけ、うっとり見あげてくれたネィトは、一瞬、踊っていることを忘れたのかもしれない、足が、もつれる。
間違ってキーアの足を踏みそうになったのをこらえるように、華奢な身体が、つんのめる。
「……あ、ごめ──!」
よろけたネィトを、やさしく胸と肩で支えたキーアは、ネィトの細い腰を抱く腕に力をこめた。
崩れたネィトの体勢が踊りの一部だったかのように、やわらかにステップに戻る。
まるで、気持ちが高まって、すこしだけ距離が近くなってしまっただけのように。
スーパー従僕トマが、踊るときの身体の使い方を叩きこんでくれた。
『かんぺきです、キーアおぼっちゃま!』
拍手してくれたトマの隣で、ヨニが首を振る。
『いいですか、キーアおぼっちゃま。舞踏会で踊るときには、相手がいらっしゃいます。いちおう相手は伴侶(予定)、しかも高位貴族トリアーデ家のネィトさまです。
ロデア大公国の舞踏会で踊るときに、最も大切なのは、何だと思いますか?』
『間違いなく踊ること? わかった、相手の足を踏まないこと!』
えへんと胸を張ったキーアに、微笑んだヨニは首を振る。
『相手の方に、恥をかかせないことです』
『……恥?』
首を傾げるキーアに、ヨニは深くうなずいた。
『足を踏まれたとしましょう。キーアおぼっちゃまが『痛い!』悲鳴をあげたら『ああ、ネィトさまがキーアおぼっちゃまの足を踏んだんだ』舞踏会にいる皆に伝わります。『大公宮舞踏会で、伴侶(予定)の足を踏む』高位貴族としては、ありえない失態です』
いくら、平民に毛がぴよんとしてるロデア大公国の貴族とはいえ、高位貴族となると、求められる水準がかなり高まるらしい。
厳しい。
ネィト、大変だ!
『な、なるほど……?』
『ですから、キーアおぼっちゃまにとって最も重要なのは『足を踏まれても、全く痛くない顔』なのです』
『な、なるほど──! 足を鍛えるんだ!』
踏まれても痛くなくなるように!
理解したキーアに、微笑んだヨニは首を振った。
『舞踏会で最も心がけるべきなのは『鉄壁の笑顔と、平常心』です』
今度こそ、わかった!
『ルゥイ殿下だ!』
『そのとおりです、キーアおぼっちゃま』
深く深くヨニがうなずいてくれる。
『なるほど。じゃあ、足を踏まれそうになった時や、相手の方がよろけた時に、さりげなく支えて、何の問題もなく踊っているように見えるのを目標としましょう!』
ふんすと鼻を鳴らしたトマが、相手役で思いきり足を踏みにきてくれたり、思いきり体勢を崩してくれたり、誰かにぶつかられたり突きとばされたときみたいに飛んできてくれたりするのを、難なく支えて踊り続けられるように、鍛えてくれました!
ネィトがちょこっとよろけるのを支えるくらい、簡単だよ!
やさしく抱きよせて、抱きあげて、やわらかにステップに戻る。
「…………え……?」
びっくりしたみたいに見開かれた星の瞳に、ちいさく笑う。
「だいじょうぶ。上手だよ、ネィト」
他の人に聞こえないように耳元でささやいたら、耳まで真っ赤になったネィトが、かわいい唇を開いた。
「きーちゃんが、かっこよすぎる──! きゃ──♡」
もだもだしてる!
踊ってる最中なのに!
『悶える相手を、何事もなかったかのように、抱きよせて踊り続ける』も
『…………それは、さすがに、いらないんじゃないかな……?』
うろんな目になるキーアをよそに
『とっても必要だと思うので、会得しましょう!』
トマが、かんぺきに叩きこんでくれました!
全く協力してくれない相手を抱きあげて踊るんだよ?
腹筋と背筋が割れるよね。バッキバキだよ。
その成果を、今、ここに──!
「え、うそ、きーちゃん、かっこいー! きゃー♡ すごい、僕、浮いてる!」
『きゃー♡ きゃー♡』してるよ。
踊ってる相手は、いちおう伴侶(予定)だけど、顔も名前も声もないモブだよ?
だいじょぶか、ネィト!
悪役令息が、誤作動してるよ!
「はいはい、ネィト、足を出してね。まだ曲が鳴ってるからね。踊ろうね」
もだもだするネィトのほっそい腰を抱きあげて、踊ってるように見せる。
これもトマが叩きこんでくれたよ、かんぺき!
「きゃ──♡ きーちゃん、かっこい──♡」
抱きついてくるネィトを抱っこして、くるりと回って踊りました。
衣のすそがひるがえり、やわらかに魔力の光をふりまいて、踊るキーアとネィトを染めあげる。
「わあ……!」
ヤエさまの素晴らしい服の宣伝も、ちゃんとできたみたいだよ。
かんぺき!
のはずなんだけど。
ルゥイ殿下と、レォさまと、大公殿下からも、凍気があふれてる。
……おかしい。
2,217
あなたにおすすめの小説
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
【完結】悪役令息の従者に転職しました
* ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
透夜×ロロァのお話です。
本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけを更新するかもです。
『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も
『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑)
大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑)
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!
はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。
本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる……
そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。
いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか?
そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。
……いや、違う!
そうじゃない!!
悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!!
【完結】悪役令嬢モノのバカ王子に転生してしまったんだが、なぜかヒーローがイチャラブを求めてくる
路地裏乃猫
BL
ひょんなことから悪役令嬢モノと思しき異世界に転生した〝俺〟。それも、よりにもよって破滅が確定した〝バカ王子〟にだと?説明しよう。ここで言うバカ王子とは、いわゆる悪役令嬢モノで冒頭から理不尽な婚約破棄を主人公に告げ、最後はざまぁ要素によって何やかんやと破滅させられる例のアンポンタンのことであり――とにかく、俺はこの異世界でそのバカ王子として生き延びにゃならんのだ。つーわけで、脱☆バカ王子!を目指し、真っ当な王子としての道を歩き始めた俺だが、そんな俺になぜか、この世界ではヒロインとイチャコラをキメるはずのヒーローがぐいぐい迫ってくる!一方、俺の命を狙う謎の暗殺集団!果たして俺は、この破滅ルート満載の世界で生き延びることができるのか?
いや、その前に……何だって悪役令嬢モノの世界でバカ王子の俺がヒーローに惚れられてんだ?
2025年10月に全面改稿を行ないました。
2025年10月28日・BLランキング35位ありがとうございます。
2025年10月29日・BLランキング27位ありがとうございます。
2025年10月30日・BLランキング15位ありがとうございます。
2025年11月1日 ・BLランキング13位ありがとうございます。
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました。これもひとえに皆様の応援のおかげです。本当にありがとうございました。
もふもふ獣人転生
* ゆるゆ
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
もふもふ獣人リトと、攻略対象の凛々しいジゼの両片思い? なお話です。
本編、完結済です。
魔法学校編、はじめました!
リクエストのお話や舞踏会編を読まなくても、本編→魔法学校編、でお話がつながるように書いています。
リトとジゼの動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントなくてもどなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
第12回BL大賞さまで奨励賞をいただきました。
読んでくださった方、応援してくださった皆さまのおかげです。ほんとうにありがとうございました!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】双子の兄が主人公で、困る
* ゆるゆ
BL
『きらきら男は僕のモノ』公言する、ぴんくの髪の主人公な兄のせいで、見た目はそっくりだが質実剛健、ちいさなことからコツコツとな双子の弟が、兄のとばっちりで断罪されかけたり、 悪役令息からいじわるされたり 、逆ハーレムになりかけたりとか、ほんとに困る──! 伴侶(予定)いるので。……って思ってたのに……!
ルティとトトの動画を作りました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
本編、両親にごあいさつ編、完結しました!
おまけのお話を、時々更新しています。
本編以外はぜんぶ、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる