54 / 213
五人め!
しおりを挟む「……どうして、俺の名前を……」
耳にゾクゾクする低音のクノワの声は、BLゲームにそっくりだ。
思わずうっとり見あげてしまったキーアは、あわあわ頭をさげる。
貴族の敬礼は、いやみっぽいかなと思って、ふつうのお辞儀だよ。
「は、はじめまして、クノワさま、キピア家次期当主、キーア・キピアと申します。
大公立学園の魔法科に、大変優秀な方がいらっしゃると噂で聞きました!」
クノワの細い眉が、いぶかしそうに、ひそめられる。
「……いや、平民が噂になることなど、ないと思うが……」
さすが頭のいいクノワ先輩、脳筋のガダ先輩みたいに、あっさり笑顔で『だろ?』とか言ってくれなかった!
ちょっと考えたキーアは胸を張る。
「クノワさまの優秀さは格別です! 次期宰相候補、筆頭でいらっしゃるんですよね? 眼鏡がとってもすてきだって伺いました!」
輝かしいクノワの眉間に、けげんそうな、おしわが刻まれました……!
「その情報はどこから──」
余計に不審だったみたいです、ごめんなさい!
「入学式の受付でお忙しいところ、うるさくしてごめんなさい! 俺、もう行きますね」
後ろに新入生がたまってきたみたいなので、まぎれて立ち去ろうとしたら、クノワが手を挙げる。
「待ってくれ。仕事をする。きみは新入生か?」
手元に置かれた新入生名簿らしきものを開いてくれた。
キーアは、こくりとうなずく。
「はい」
「魔法科だな」
断定でした。
「騎士科です」
残念ながら、今はちっちゃな胸を張る。
えへん。
騎士科に合格したんだよー!
「………………は…………?」
透きとおる眼鏡の向こうの藍の瞳がまるくなる。
「騎士科」
ぽかんと開いた口で、クノワが新入生名簿を見つめた。
「……名前は……キーア・キピア?」
さっき名乗ったばっかりだからかもしれないけど、気に留めてくれていたんだ。
「覚えてくださって、うれしいです」
ふわふわぬくもる頬で笑ったら、長いまつげが伏せられた。
「……きみは……俺が、恐ろしくない、のか……?」
きょとんとしたキーアは瞬いた。
「あ、もしかして、やりたくない受付をやらされて、おこでした?」
BLゲームでは
『騎士科に入学しますか?』 → 『はい』の次が入学式で、首席合格なレォの新入生代表挨拶だった。
クノワ先輩との入学式の絡みは見たことがない。
『魔法科に入学しますか?』 → 『はい』の次も入学式で、首席合格なルゥイ殿下の新入生代表挨拶になる。
ゲームの簡単なチュートリアルがあって、入学式は終了だったよ。
騎士科だと、鍛錬場に移って
『ともに学ぶことになった、レォ・レザイだ。よろしく』
レォが握手してくれる、はじめましてスチルが出るよ!
魔法科だと、クラスに移って
『ルゥイ・トゥナ・ロデアだ。これから1年よろしくね』
はちみつな微笑みを浮かべてくれるルゥイの、はじめましてスチルが輝いてた!
BLゲームでは入学式ではクノワ先輩は見られなかったけど、今日は無理矢理、受付に座らされてるのかな?
首を傾げるキーアに、クノワは息をのむ。
「受付を、やりたくないとか、そんなことは……!」
首を振るクノワの声が落ちる。
「……成績上位者が、新入生を歓迎するのだが。……俺は愛想がないし。……緊張、して……」
ちいさくなって、かすれて消える声に、キーアは安堵の息をつく。
よかった、おこじゃなかった!
誤解されがちなクノワさま、見た目が冷徹に見えるだけじゃなくて、魔力も漏れちゃうからなんだね。
そこはBLゲームに描かれてなかったけど、魔力のオーラを描くのがめんどくさ……お金がなか……時間がなか……人がいなかっ……色々大人な都合があったのかもしれない。
キーアは大きく息を吸う。
「緊張して魔力が漏れてただけなんですね、さすがクノワ先輩、素晴らしい魔力量です!」
皆に聞こえるように、声を張ってみました。
隣の先輩が大声にビクっとして
「あ、あ、そうだったんだ? 無理に受付させちゃったって心配してたんだ。よかった」
ほっとしたように笑ってくれる。いい人だ。
「な、なんだ、激おこじゃないんだ」
「びっくりしたよー」
ビビっていた周りの人たちも新入生たちも、こそこそ喜んでる。よかった。
「……あの……」
キーアの大声の意図を理解してくれたのだろうクノワのまなじりが、ほんのり朱い。
「……ありがとう」
ちいさな、聞こえないくらいちいさな声に、ふうわり笑う。
「こちらこそ、新入生のためにお時間を割いてくださって、ありがとうございます」
丁寧に頭をさげたら、クノワは首を振る。
藍の髪が、さらさら揺れた。
「来年はきみだ」
「いやいやいや、成績上位者なんですよね? それはむつかしいと思います」
入学試験はBLゲームが始まってなかったし、悪役令息なネィトと一緒に入学することになっているだろうから、何とかなったのかもしれないけれど、悪役令息の伴侶(予定)だし、マイナス補正が入ると思って間違いない!
ネィトが何かするたびに
『あいつは何をやってるんだ!』
『ちゃんと監督しないか!』
『あんの伴侶(予定)!』
って攻略対象に叫ばれちゃうんだよ……!
──想像だけで切ない。
……はー、今、やさしくしてくれてるレォや、ルゥイ殿下も
『あいつサイアク』
みたいな目になっちゃうのかなー。
想像するだけで、泣いちゃう!
それでも、輝かしい攻略対象と主人公が恋愛を繰り広げるところを、特等席で拝みたい気持ちには、あらがえないのです──!
やってやるぜ、悪役令息の伴侶(予定)!
おー!
ちっちゃな拳を掲げてみた。
クノワ先輩が、きょとんとしてる。かわいい。
1,834
あなたにおすすめの小説
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
【完結】悪役令息の従者に転職しました
* ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
透夜×ロロァのお話です。
本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけを更新するかもです。
『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も
『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑)
大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑)
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!
はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。
本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる……
そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。
いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか?
そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。
……いや、違う!
そうじゃない!!
悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!!
【完結】悪役令嬢モノのバカ王子に転生してしまったんだが、なぜかヒーローがイチャラブを求めてくる
路地裏乃猫
BL
ひょんなことから悪役令嬢モノと思しき異世界に転生した〝俺〟。それも、よりにもよって破滅が確定した〝バカ王子〟にだと?説明しよう。ここで言うバカ王子とは、いわゆる悪役令嬢モノで冒頭から理不尽な婚約破棄を主人公に告げ、最後はざまぁ要素によって何やかんやと破滅させられる例のアンポンタンのことであり――とにかく、俺はこの異世界でそのバカ王子として生き延びにゃならんのだ。つーわけで、脱☆バカ王子!を目指し、真っ当な王子としての道を歩き始めた俺だが、そんな俺になぜか、この世界ではヒロインとイチャコラをキメるはずのヒーローがぐいぐい迫ってくる!一方、俺の命を狙う謎の暗殺集団!果たして俺は、この破滅ルート満載の世界で生き延びることができるのか?
いや、その前に……何だって悪役令嬢モノの世界でバカ王子の俺がヒーローに惚れられてんだ?
2025年10月に全面改稿を行ないました。
2025年10月28日・BLランキング35位ありがとうございます。
2025年10月29日・BLランキング27位ありがとうございます。
2025年10月30日・BLランキング15位ありがとうございます。
2025年11月1日 ・BLランキング13位ありがとうございます。
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました。これもひとえに皆様の応援のおかげです。本当にありがとうございました。
もふもふ獣人転生
* ゆるゆ
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
もふもふ獣人リトと、攻略対象の凛々しいジゼの両片思い? なお話です。
本編、完結済です。
魔法学校編、はじめました!
リクエストのお話や舞踏会編を読まなくても、本編→魔法学校編、でお話がつながるように書いています。
リトとジゼの動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントなくてもどなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
第12回BL大賞さまで奨励賞をいただきました。
読んでくださった方、応援してくださった皆さまのおかげです。ほんとうにありがとうございました!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】双子の兄が主人公で、困る
* ゆるゆ
BL
『きらきら男は僕のモノ』公言する、ぴんくの髪の主人公な兄のせいで、見た目はそっくりだが質実剛健、ちいさなことからコツコツとな双子の弟が、兄のとばっちりで断罪されかけたり、 悪役令息からいじわるされたり 、逆ハーレムになりかけたりとか、ほんとに困る──! 伴侶(予定)いるので。……って思ってたのに……!
ルティとトトの動画を作りました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
本編、両親にごあいさつ編、完結しました!
おまけのお話を、時々更新しています。
本編以外はぜんぶ、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる