55 / 209
しっぱい!
しおりを挟む「ど、どうした……!?」
切ない想像で、目の前のクノワさまを慌てさせてしまったみたいです、ごめんなさい!
あわあわキーアは、ちっちゃな拳をひっこめ、頭をさげる。
「な、なんでもないです、ごめんなさい。えと、入学式の会場に行けばいいですか?」
席とか決まってるのかな?
そうだ、白い造花を胸につけてもらえるみたいだよ。
できたらクノワさまに付けていただきたい……!
一生の思い出になるから!
期待のきらきら光線が出てるといいなと思いながら見あげたら、手元の名簿を覗きこんだクノワは立ちあがる。
「案内する」
「……え?」
きょとんとするキーアに、クノワは告げる。
「キーア・キピアは、案内するよう通達が来ている」
透きとおる眼鏡の縁が、輝いた。
「えぇえ!?」
なになになに?
もしかして、悪役令息の伴侶(予定)は別室にご案内系なの!?
『こいつがあの悪名高きネィト・トリアーデの伴侶(予定)か!』
『ネィトさまに文句がある場合は、こっちに言えばいいんだな!』
『了解した!』
『覚えたぜ!』
『責任とれよ!』
とかそういう話?
もしかして入学式で皆に周知されちゃうの?
BLゲームの世界だから?
悪役令息の伴侶(予定)は、顔も名前も声さえもないモブだけど、文句だけは聞いて、責任だけは取ってくれ?
やだ────!
うるうるの目になったキーアに、眼鏡の向こうで見開かれたクノワの瞳が歪む。
「……俺の案内がいやなら、他の者に──」
ぴょこんとキーアは跳びあがる。
またさみしい想像で、今度はクノワ先輩を哀しませてしまいました、ごめんなさい──!
「ち、違うんです! 案内って、何か怖いこと言われちゃうのかなって、不安で! いつも一緒にいてくれる執事や従僕と離れちゃうなんてなかったし、びっくりして、ごめんなさい」
あわあわ頭をさげたキーアは、ごしごし目をぬぐう。
びっくりしたのと、緊張で、ちょっとほんとにうるっとしちゃったよ。
泣いてないよ!
ひとつ大きく深呼吸したキーアは、顔をあげて、笑う。
「クノワさまが案内してくださるなんて、めちゃくちゃしあわせです」
眼鏡の向こうの藍の瞳が、見開かれた。
「……あ、あの、もしよかったら、花を胸につけてくださいませんか? 一生の思い出にしますから!」
「…………え?」
いつも怜悧なクノワさまが、ぽかんとしてる!
「ご、ごめんなさい! 分不相応なお願いを──」
顔も名前もないモブが出しゃばってお願いしていいことじゃなかった!
深々頭をさげるキーアの前に、長い指がのびてくる。
涼やかな香りが、近くなる。
「……俺で、いいなら」
微笑んだクノワが、白い造花をキーアの胸につけてくれる。
長い指がキーアの胸にふれて、可愛らしい花が胸に咲いた。
「えへへ。うれしい。
ありがとうございます、クノワさま」
ふわふわ火照る頬で笑ったら、照れくさそうにクノワは目を逸らす。
「……いや。……その、敬称は要らない。俺は平民だから。きみは貴族だろう?」
「あ、たぶんもうすぐ貴族じゃなくなると思います」
にこにこして真実を告げてみた。
「……え?」
「何の功績もあげられそうにない残念貴族なので」
両親だけじゃなく、自分もね!
「……いや、でも、きみが頑張れば──」
クノワ先輩のほうが、うろたえてる!
「いちおう頑張りますけど、でも功績は、尽力してもだめなときはだめでしょう? 両親も畑仕事が大すきみたいだし、俺も家庭菜園が楽しいので、皆で自給自足もいいかなと思って」
にこにこするキーアに、クノワがぽかんとしてる。
いつもかっこよくて、凛々しい、クールビューティーなクノワが、薄めの唇を開いて、あんぐりしてるところとか、スチルでも見たことないよ──!
きゃ──!
拝みそうになった体勢を、あわてて止める。
──ああ、そうだ、苦労してきた両親のために必死で身を立てようとしているクノワにとっては、必死に頑張らないで平民落ちうぇるかむは、噴飯ものの話だったかもしれない。
「ごめんなさい、俺、生意気なこと言って。
クノワさまが、ものすごく頑張っておられるのは、ほんとうに素晴らしいことだと思います!」
拳を握ってみた。
あんぐりしていたクノワの凛々しい眉が、思いきり、しかめられた。
涼やかな眉間に、谷が刻まれてる──!
「……きみは平民の俺のことを、どこまで知ってる……?」
めちゃくちゃ不審だったみたいです!
失敗した!
BLゲームの知識チートどころか、マイナス補正だ──!
1,710
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令息の従者に転職しました
* ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
透夜×ロロァのお話です。
本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけを更新するかもです。
『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も
『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑)
大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑)
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。
藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。
妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、
彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。
だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、
なぜかアラン本人に興味を持ち始める。
「君は、なぜそこまで必死なんだ?」
「妹のためです!」
……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。
妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。
ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。
そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。
断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。
誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる
ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。
この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。
ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。
【完結】お義父さんが、だいすきです
* ゆるゆ
BL
闇の髪に闇の瞳で、悪魔の子と生まれてすぐ捨てられた僕を拾ってくれたのは、月の精霊でした。
種族が違っても、僕は、おとうさんが、だいすきです。
ぜったいハッピーエンド保証な本編、おまけのお話、完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
トェルとリィフェルの動画つくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのWebサイトから、どちらにも飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
* ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画 です!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
ヴィル×ノィユのお話です。
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけのお話を更新するかもです。
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!
煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。
処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。
なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、
婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。
最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・
やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように
仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。
クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・
と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」
と言いやがる!一体誰だ!?
その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・
ーーーーーーーー
この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に
加筆修正を加えたものです。
リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、
あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。
展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。
続編出ました
転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668
ーーーー
校正・文体の調整に生成AIを利用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる