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あこがれの!
しおりを挟む「どうどう、ネィト。血管切れるよ」
トマのおかげでさらさらのネィトの髪をなでなでするキーアに、紫苑の瞳がうるうるだ。
「うわあん! きーちゃん!」
抱きつこうとするネィトからキーアをさらうように、しなやかなルゥイの腕が抱きあげた。
「キーアは安静にしないと。すこし眠ったほうがいい。救護室まで運ぶから」
ふわりと、身体が浮きあがる。
ルゥイの香りに、つつまれる。
きゃ──!
あこがれの、おひめさま抱っこです……!
ちょっとこわいけど、ルゥイなら絶対落とさないと信じてる──!
ルゥイのいー匂いする!
きゃーぁ──!
もだもだしたら、愛らしいはずのネィトの目が吊りあがる。
「……きーちゃん……?」
大変な、おこのようです。
伴侶(予定)なのに、攻略対象に『きゃー♡ きゃー♡』してごめんなさい。
…………悪役令息と、悪役令息の伴侶(予定)のポジションが、入れ替わってない……?
……気のせいかな……?
ルゥイがキーアを軽々抱きあげて、しんどそうどころか、楽しそうに、しあわせそうに運んでくれたのは、ロデア大公立学園のなかにある救護室だ。
魔法科や騎士科で大怪我しちゃったりすることもあるので、そういうときも緊急の処置ができる医務室で、医士が常駐してくれているみたいです。
運ばれてきたキーアを、ルゥイの腕から受け取ろうとしてくれる医士に、ルゥイが凛々しい眉をしかめてる。
「キーアには安静が必要だと思うので、動かすのはよくないかと」
「……な、なるほど?」
医士が引きつってる!
「気分はどうかな?」
「くらくらします」
「吐き気や、めまいは? 寒気はあるかな?」
「ルゥイのおかげで、あったかいです」
若葉の瞳が、とろけて笑って、ネィトがぶっすりしてる。ごめんなさい!
「ああ、うん、あったかそうだね」
キーアの目や脈、心音を丁寧に診てくれた医士が、微笑んだ。
「良性の魔力枯渇だね。魔法科の授業ではよくあるんだよ。回復薬を飲んでもいいけど、急激に回復するから逆に気持ちわるくなってしまう子もいるんだ。しばらく休んで回復を待ったほうがいい」
やさしくキーアの頭をなでなでしてくれる医士に、ルゥイとネィトの目が刺さってる。
痛かったらしい医士が、びくっとふるえて、あわあわ手を離した。
「じゃあ安静に眠ってもらうから、付き添いは授業に戻りなさい。寝台に横たえてあげてね」
ひらひら手を振られたルゥイとネィトが、ぷっくりしてる。
そうっと白い寝台に横たえてくれたルゥイは、キリリと顔をあげた。
「キーアの魔力枯渇の原因は、僕にあります。やはりここは責任をとって、今付き添うだけでなく是非伴侶に──」
「きーちゃんは、僕の伴侶なんだからァア──!」
バチバチ音がしそうなほど、にらみあう攻略対象 VS 悪役令息って、おかしいよね……?
「いやうん、救護室だからね、伴侶の奪いあいは、回復した後に、他でやってね」
先生がルゥイとネィトを救護室の外に出そうと扉に手をかける前に
バァン──!
救護室が揺れた。
開いた扉から駆けこむ長い青磁の髪に、息をのむ。
「キーアが倒れたと聞いて──!」
走ってきてくれたのだろう、したたる汗もつややかなレォに、皆が目を瞠る。
「……レォ……」
「だいじょうぶか、キーア──! 何があった!?」
泣きだしそうなレォの青磁の瞳に、手をのばす。
「ちょっと張りきりすぎちゃって、魔力枯渇。だいじょうぶ、寝てたら治るって」
「キーア……!」
かきいだこうとしてくれるレォを、医士が止めた。
「安静にして眠るのが一番だから。興奮させないで」
「……っ すみま、せん。……ごめん、キーア」
揺れる青磁の瞳に、首をふる。
「だいじょうぶ。来てくれて、ありがとう、レォ。うれしい」
ふわふわ笑ったら、レォのまなじりが赤くなる。
「心配だから、帰りは送ってく。ゆっくり休んで」
微笑んでキーアの髪をなでたレォが、振りかえる。
ネィトとルゥイを、にらみつけた。
「詳しく話を聞かせてもらおうか」
地獄の底から響く声に、ルゥイが吐息する。
「僕の無茶を、キーアがたすけてくれたんだ。ここはやはり、是非責任をとって、キーアを伴侶に──」
「はぁあァアア──!?」
レォのおでこにも、血管がビキビキしてる!
「ああ、うん、そういうのは、外でやって。他の病人や怪我人だっているんだからね!」
先生が、おこだよ!
「いや、いないでしょう。確認しましたよ」
突っこむルゥイが、猛者だ!
「これから来るかもしれないだろ! こんなじゃキーアが休めない。さっさと外に出るように!」
ぶっすりふくれたルゥイとネィト、レォが、名残惜しそうにキーアの頭をなでなでしてくれる。
「僕のせいで、ほんとうにごめんなさい。責任はちゃんととるからね。ゆっくりやすんでね」
ルゥイの若葉の瞳が、心配そうに揺れた。
「きーちゃん、きもちわるくなったら、すぐ先生に言うんだよ」
ネィトが、手を握ってくれる。
「午後の講義は欠席すると連絡しておく。心配しないで休んでくれ」
微笑んだレォの指が、頬をなでた。
「ルゥイ、ネィト、レォ、ありがとう」
微笑んだキーアは、眠りに吸いこまれるように目を閉じる。
あたたかな闇が、降りてくる。
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