【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ

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ひっさつ?

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「…………え……?」

 ぽかんと、レォが形のよい唇をほんのり開けるのが見えた。


 キーアの足が

 トン

 大気を、蹴る。


 正確には、魔力で魔素を固化して、足場にした大気を。


 シャ──!

 キーアの双剣がうなる。

「く──!」

 茫然としたのは一瞬で、迫る剣を防ごうと、レォの長剣もうなりをあげる。


 ギィイィン──!

 すさまじい衝撃に、火花が散った。

 ──これも止めてくるか。
 さっすがレォ!

 感嘆したのは一瞬で、キーアは跳んだ。


 魔力を流し、大気を固化させ、足場にする。

 360℃、全方位に、突撃できる。


「トマ師匠直伝! ひっさつ! きーちゃん剣!」

 キーアの双剣がうなりをあげるなか、レォが、あんぐり口を開けた。

 いつもクールなレォの、あんぐり、尊い──!

 拝んでる場合じゃないよ!


「…………は…………!?」

 大気を蹴って、方向を変えて突撃してくるなんて、ありえないよね?

 ありえない場所から刃が襲うとか、ありえないよね?

 驚愕してくれたら、隙ができる。

 あんぐり、いただきましたァ──!

 びっくりさせて、ぷっすり剣だよ!
 たぶん、ひっさつ! ……たぶん!


「──っ!」

 レォのかざす剣が、乱れる。

 キーアの突撃の軌道は、めちゃくちゃだ。
 物理法則を真っ向から叩き斬るように、空中で突然曲がるし、突然止まるし、突然襲う。

 この常識をくつがえす攻撃を、トマ師匠が叩きこんでくれたんだよ!

 人間は、いつも予測する。
 投げた物は放物線を描いて落ちてくるだろう、こう跳んだら、これくらいの速さで、こう落ちるだろう、と。

 わずかに先を読み、そこを捉えて攻撃する。
 強い人であればあるほど、攻撃パターンを熟知し、先を読むことが可能になる。

 それを叩き崩すのが、きーちゃん剣だ。

 先を読むのが得意で、いつも先回りして相手を制することができる、レォのように強い人ほど、効果は甚大だ。


「いっくよ──!」

 くるりとキーアが、回転する。


「魔力解放!」

 すべての空が、足場に変わる。


「加速!」

 筋肉が、爆発する。


「きーちゃん剣!」

 全方位から、突撃の刃を繰りだした。


「く──っ!」

 見えぬほどの速さで繰りだす双剣を、レォが薙ぎ払おうと剣をひいた瞬間を見逃さなかった。

 思いきり、大気を蹴る。

 交差させた双剣を、レォの剣に叩きつけ、両手で思いきり押しこんだ。

「でやあ!」

「ぐぅ──!」

 レォの身体が一歩下がった瞬間、左手の剣を抜き、レォのはちまきだけを切り裂いた。


 青い紐が、天に散る。


「やったぁ──!」

 両の拳をかかげて跳びあがるキーアの白のはちまきが、落ちてゆく。


「…………え…………?」


 ぽかんとキーアは、口をあけた。


「おんなじこと、考えてたね」

 つややかに汗をしたたらせたレォが、笑う。

 レォが引いた長剣の切っ先が、キーアのはちまきだけを切り裂いていた。




 ブォオオオオ──!

 角笛が鳴り響く。


「将が相討ち! 戦闘、止め──!」

 死に物狂いで剣を交えていた生徒たちが、ぜえぜえ肩で息をつきながら崩れ落ちた。


「腕に紐が残ってる者を数えるぞー。立てー!」

 よろよろと立ちあがってゆくのは、白い紐を巻いた者たちだ。


「……うそだろ……」

「あんだけ突撃しといて?」

「残ってんのか!」

「お頭を守るために生き残ったんだ!」

「当たり前だろ!」

「はァア──!?」

「並べ並べ、数えるぞー!」

 一番楽しそうなガチムチ先生が、腕に紐が残った生徒を並ばせてゆく。

 ひとり、ひとり、並んでゆく皆の顔が、誇らしそうに輝いた。


「青組22、白組23、将が相討ちしたため、残っている兵の数が多い、白組の勝利とする!」


 音が、消える。

 白組の皆で、顔を見あわせた。


「…………勝った……?」

「……うそ……」

「すげえ……!」

「お頭、やったよ──!」

「うおぉおオオオ──!」

 最後まで残った者も、紐を切られた者も、皆が立ちあがって、もみくちゃだ。

「勝ったよ、お頭!」

「あのレォさまに、俺らが、勝ったァア──!」

「お頭、すげえ──!」

 飛びつくように抱きついてくる皆に、茫然としていたキーアの身体の奥から、よろこびがじわじわ染みだした。


「うわあん! 皆のおかげだよ、ありがとうー!」

「お頭ァア──!」

 皆で、ぎゅうぎゅう抱きあって、泣いてしまいました。


「ふぇえええ!」

「え、ちょ……! お頭、かわいーから!」

「強くて、かわいーとか、最強かよ!」

 真っ赤になったガチムチな皆が、もだもだしてる。



「……自分の将としての不足が、よくわかりました。とてもよい模擬戦だったと思いますが、まさか、キーアの親衛隊を造成するための講義ではありませんよね?」

 レォの声が、地を這ってる。


「……いや、うん、なんか、思ってたのと違う風になった」

 ガチムチ先生が、頭を掻いてる。






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