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降臨
馬車の窓から吹き込む風は、春だというのに王都よりも随分冷たい。
連なる山の頂には、真っ白な雪がきらめいていた。
こんなところに住んでて、おじいちゃんになるまで誰も伴侶になってくれなかったから、仕方なくもらってくれるのかな……?
何にせよ、国中の貴族が集まる王家主催の舞踏会で、顔面最強の両親が泣いて頼んでくれたなかで、唯一憐れんでくれた、やさしいおじいちゃんだ。
……果たして、そんなうまい話が、世界に転がっているだろうか?
借金だらけの家から伴侶をもらって、ご飯を食べさせてくれるという、ありがたい話が?
『うまい話には裏がある』
思わず全力で飛びついちゃったけど『裏がない』なんてこと、ない、よ、ね……
……もしかして、もしかしたら、心置きなくいじめられる子を探していて、ものすごーく虐められたりしちゃうかもしれないけど……ヤバい人の可能性も、あるけど……
血の気が引いてカタカタ震えだしたノィユを、両親が心配してくれる。
「だ、大丈夫か、ノィユ、真っ青だぞ」
「ゆっくり息をして、水を飲んで」
おかあさんが渡してくれる水筒を受け取る指が、ふるえてる。
……だ、だいじょうぶだ、僕はやれる! ご飯のためなら、下のお世話も、いじめも耐えてみせる……!
…………た、たぶん…………
ちょっと涙目になっちゃうのはゆるしてほしい。
まだ3歳だから!
能天気に下のお世話をするつもりだったけど、いじめられたりしちゃう可能性もあることに気づいたノィユがカタカタしてたら、ようやく荷車が止まる。
「荷を下ろすの手伝ってー!」
「はい、ただいま!」
両親と一緒に荷車に積まれた商品を下ろしながら、ノィユは聳え立つ岩の城に、硬直した。
王都でよく見る貴族のお邸、という感じでは全くない。
積年の魔物の襲撃に耐え続け、あちこちが苔むして砕けた、巨岩によって造られた城砦だ。
いくら険しい山脈に隔てられているとはいえ、向こうは敵国だ。
進軍された場合、ここが最前線となる。
敵国にも、魔の森にも目を光らせるための尖塔には、襲撃を知らせるためだろう、巨大な鐘がぶら下がっていた。
「……す、ごぃ、ところ、だ、ね……」
おとうさんの腰が引けてる。
「……帰ろうよ、ノィユ」
おかあさんに肩を掴まれた。
うん、と言ってしまいそうには、ならなかった。
草のスープとカビの生えたパンばかりの生活に戻りたくなかったからじゃない。
王国の北の果て、王都よりも敵国にずっと近いところで、魔物と戦いながら進軍を阻むための武骨な岩の砦を守っているおじいちゃんを、支えたいと思ったんだ。
透きとおる北の大気を吸い込んだノィユは、胸を張る。
「僕は、ヴァデルザ家と縁を結べることを、心から誇らしく思います」
その言葉が聞こえたかのように、鐘が鳴る。
閉ざされていた鋼鉄の扉が開いてく。
重々しい音とともに開く扉の向こうからやってきたのは、背の高いおじいちゃんだった。
まっしろで、もしゃもしゃしてる。
雪のように白い髪も、ふさふさの髭も『整えるって何?』な感じに、もさもさしてた。
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