文字の大きさ
大
中
小
6 / 157
おねがい
ああ、だめだ、涙腺が崩壊する──!
うりゅうりゅになってゆくノィユの視界で、きらきらになったヴィルが、驚いたように鋭い藍の瞳を見開くのが、もしゃもしゃの雪の髪の向こうに見えた。
「……いや……きみが……爺は……いや、だろうと……」
「はァア──!?」
ごめんなさい、ごめんなさい!
めちゃくちゃ素が出た!
ヴィルだけじゃなく、両親までぽかんと口を開けてる。
出てしまった素は仕方ない。
それに伴侶に採用してくれるかどうかの大事な場面だ。
よそゆきのお坊ちゃまみたいなノィユじゃなくて、ほんとうの僕を見てもらったほうが、きっといい。
振られたら、胸が裂けて壊れるけど。
三日三晩は、号泣するけど。
よい子を演じる僕ではなく、ほんとうの僕で、拳を握る。
「ヴィルさま、めちゃくちゃめちゃくちゃめちゃくちゃめちゃくちゃかっこいーです! 今まで見てきたすべての男のなかの頂点に君臨するイケメンとイケボです! 最高です! こんな僻地で砦となって国を守ってくださるヴィルさまには尊敬しかありません!」
燃える頬で、ノィユは大きく息を吸う。
「僕は、あなたの伴侶に、なりたいです!」
叫んだ!
藍の瞳が、まるくなる。
もしゃもしゃの雪の髪が、揺れた。
「……っ」
耳まで紅に染まったヴィルが、大きな掌でちいさな顔を覆う。
「……その……3歳の子が、餓えていると、聞いた、から……支援、する、つもり、で……」
「………………え?」
……伴侶じゃ、なかった?
僕、勘違い?
先走った?
情けない、恥ずかしい、顔が燃える。
のといっしょに、涙がどんどん溢れてく。
「……ぼく、は……ヴィルさまの、おこのみ、では……ありま、せん、か……?」
くしゃくしゃの泣き顔で、ヴィルを見あげる。
逢ったばかりだ。
人となりなんて、何も知らない。
そのもしゃもしゃの髪と、輝くかんばせと、あまく掠れる声を知っているだけ。
赤くなる頬と、やさしい瞳を知っているだけ。
それなのに
鼓動が裂けて
吐息が駆けて
あなたしか、見えなくなる
きっと、これを、恋というのです
あふれる涙で、裂ける胸で、ヴィルを見あげる。
こぼれおちてゆく涙に、きらきら輝くヴィルに、また胸が痛くなる。
「……ヴィル、さま……」
恋にかすれる、あまい声が、あなたを呼んだ。
茫然としていたヴィルが、そっと伸ばした指で、ノィユの頬を伝い落ちる涙を拭ってくれる。
長くしなやかに見える指は、ゴツゴツだった。
厳しい鍛錬に明け暮れているのだろう、剣を握るために変形した手だ。
積み重なる努力の手だ。
「……きみは……ほんとうに……俺の、伴侶、に……?」
ちいさな声に、顔をあげる。
もしゃもしゃの髪の向こうで、いつもは鋭いのだろう藍の瞳が、揺れている。
「どうか、僕を、あなたの伴侶に、してください」
こんな哀願をするなんて、自分のことだと思えない。
ぼんやりある前世の記憶でも恋人がいたことなんてなかった。
恋愛なんて、自分から一番遠いところにあるものだと思ってた。
なのに、唇から思いがこぼれる。
みっともなくて、情けなくて、恥ずかしい、でも必死な、恋しい人を離したくない気持ちが、あふれてく。
すがるように伸ばした手を、ごつごつの手が包んでくれた。
「……ありがとう」
ちいさな声は、ふるえてた。
感想 342
あなたにおすすめの小説
【完】帰る場所はあなたの隣
さくなん幼い頃に両親を亡くしたユウは、親戚たちにたらい回しにされた末、森へ捨てられる。
感情を表すことも、人を頼ることも知らないまま生きていたユウを見つけたのは、高位貴族のレオンだった。
周囲の反対を押し切り、自ら世話をすることを決めたレオン。
最初は誰も信じられなかったユウも、乳母のエリシアや屋敷の人々に見守られながら少しずつ成長していく。
笑うこと。
嬉しいと思うこと。
誰かに話を聞いてほしいと思うこと。
一つずつ感情を覚え、世界を広げていくユウ。
友人もでき、知ることも増えていく中で、それでも変わらないものがあった。
それは、どんな時でも帰りたくなる場所。
そして、一番好きな人。
これは何も持たなかった少年が、自分の居場所と大切な人を見つけるまでの物語。
【完結】おひめさまな俺、帝王に溺愛される
* ゆるゆ帝王陛下に捧げられることになった小国の王族レイには、大変な問題が──!
……男です……!
本編、完結済です。
時々おまけのお話を更新しています。
ふたりの動画をつくりました!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
表紙や動画にAIを使っていますが、小説にはAIを使っておりません
皆さまの応援のおかげで『もふもふ獣人に転生したら、最愛の推しに溺愛されています』書籍化、心から、ありがとうございます!
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
『死ぬほど愛されたい』と願ったら、最強の公爵家に転生して家族の愛が重すぎます!〜赤ちゃん令嬢は『慈愛の眼』で今日もデレを解析中〜
五十嵐紫元・社畜SE、今世は国宝級の赤ん坊!? 最強の父様とお兄様が過保護すぎて、一歩歩くだけで国が揺れちゃいます!
【完結】悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
本編完結済です。
もっちもっち感謝祭で、リクエストいただいたお話を更新しています。
皆さまの応援のおかげで『もふもふ獣人に転生したら、最愛の推しに溺愛されています』書籍化、心から、ありがとうございます!
皆の動画をつくりました!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
表紙や動画にAIを使っていますが、小説にはAIを使っておりません
辺境食堂の隠れΩなのに、拾った皇帝陛下が嫁になれと迫ってくる
月夜 闇花元宮廷料理人で隠れΩの青年レオは、帝国の辺境で小さな食堂兼農園を営みながら、誰にも縛られない平穏なスローライフを送っていた。
ある日、レオは裏庭の不思議な洞窟で、血まみれになって倒れていた大柄な青年アレクを拾う。
彼の正体は、お忍びで辺境を訪れていた帝国最強のα皇帝だった。
身分を隠してレオの家に居候することになったアレクは、レオの作る絶品の手料理と、彼から漂う穏やかな香りに冷え切った心を溶かされていく。
一緒に土を耕し、美味しいご飯を分け合ううちに、相反するはずの二人のフェロモンは心地よく調和していくが、やがて帝都からの追手が迫り……。
手料理が繋ぐ心と体。身分差を越えた、最強α皇帝と隠れΩ料理人の美味しくて甘い辺境スローライフが幕を開ける!
※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。
【完結】悪役令息の従者に転職しました
* ゆるゆ暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も
『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!
舞踏会編では『もふもふ獣人に転生したら最愛の推しに溺愛されています』と『伴侶がいるので溺愛ご遠慮いたします』にも出張しました!(笑)
表紙にはAIを使っていますが、小説にはAIを使っておりません
皆さまの応援のおかげで『もふもふ獣人に転生したら、最愛の推しに溺愛されています』書籍化、心から、ありがとうございます!
繋ぎの婚約を契約通り解消しようとしたら、王宮に溺愛軟禁されました
こたまエレンは子爵家のオメガ令息として産まれた。年上のアルファの王子殿下と年齢が釣り合うオメガ令息が少なく、他国との縁組も纏まらないため家格は低いが繋ぎとして一応婚約をしている。王子のことは兄のように慕っており、初恋の人ではあるけれど、契約終了時期か王子に想い人が現れた時には解消されるものと考えていた。ところが婚約解消時期の直前に王子宮に軟禁された。結婚を承諾するまでここから出さないと王子から溢れるほどの愛を与えられる。ハッピーエンドオメガバースBLです。