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5歳です(Request)
「ヴィルお坊ちゃま、御髪を梳かさせていただけませんか?」
眉をさげる執事のロダに、5歳のヴィルは、ふるふる首を振る。
もしゃもしゃの髪が、もしゃもしゃ揺れた。
顔が見えるようにしたら、怖い人がたくさん寄ってくるから、いや。
お話するのは苦手だし、口はうまく動いてくれない。
なのに勝手にやってきて
「つまんない」
「顔だけかよ」
「だっせー」
文句を言って、見下して、嘲笑って、離れてく。
顔が隠れていたら、こんなこと言われないだろうか。思って伸ばしはじめた髪は、よい感じにもしゃもしゃして、ヴィルの顔を覆ってくれた。
静かになった。
とても。
誰もヴィルのことを気にしなくなって、誰もヴィルに話しかけない。
ひとりぽっちになっても、ヴィルの心は穏やかだった。
あんなことを言って嗤う人なんて、ひとりもいらない。
ヴァデルザ家の一員として国で一番強くなることに精を出したヴィルは、鍛錬に励むことと、領主となるべく勉強することしかしなくなった。
一番心配してくれたのは執事のロダだ。
けれどヴィルにとって、ひとりは全く苦ではなかった。
『ともだち』は本で伝えられるほどいいものには、思えなかった。
人間は、皆、裏切る。
目の前にいるときだけにこやかで、陰でこそこそ悪口を言う。
誰かを見下して、嘲笑って、自分が上だと示したいだなんて。
なんて、さもしい。
「ごめんね、ヴィル! 何とか踏ん張って子宝に恵まれるよう頑張るから!」
「もうちょっと待って! 魔力が強すぎるヴィルが生まれたからか、次が時間かかるって!」
「絶対にヴィルを裏切らない、ヴィル愛な弟を生んでみせるからね!」
「すぐに可愛い遊び相手ができるから!」
両親は励ましてくれた。やさしい。
ヴィルが無口なことも個性だと思って、過干渉にならないように配慮してくれているようだった。
ロダも、両親も、すき。
悪口を言う、他の人は、きらい。
楽しいのは、鍛錬。
ふつうなのは、勉強。
苦手なのは、話すこと。
5歳のヴィルの世界はまっすぐだ。
鍛錬がちょっとできて褒めてもらえるようになると、家の周りに広がっている魔の森が気になりだした。
「ヴィルお坊ちゃま、魔の森は大変危険です。おひとりでは決して入ってはいけません。大人になって充分にお強くなられても、おひとりで決して入ってはいけません。魔物の棲まう森というのは、そういうところなのです」
執事ロダの言葉に、5歳のヴィルは、こっくり頷いた。
ヴィルは、知っている。
人間は、うそをつく生き物だ。
そうしてヴィルも、人間だ。
ちょこっとだけなら、きっと、だいじょうぶ。
初めてひとりで入った魔の森は、大きかった。
樹々が草花が大きいというだけではない、吐息さえ押しひしぐ力が満ち満ちて、天さえも覆っているようだった。
陽は中天をすこし過ぎたくらいなのに、薄暗い。
樹々が光を遮るからだけではなく、噴きあがる魔力の渦で陽が翳っている。
──すごい
ぽかんとしたヴィルは、大人でさえひとりで入ってはいけないと言ったロダの言葉を、背の震える感覚で理解した。
──これは、だめだ。引き返そう。
くるりと向けた踵に、声が降る。
「……みー……」
ちいさな声だった。
今にも消えてしまいそうな、けれど最後の希望にすがる、渾身の声だった。
──────────────
読んでくださって、ありがとうございます!
ロイロイ様のリクエストで『ツーとホーとヴィルの出会い』のお話、もうちょっと続きます!
リクエストの受付は終了しました。
たくさんのリクエスト、ありがとうございました!
楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
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