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はじまる恋(Request)
──振られた。
ザイアは肩を落とす。
ふつう、王太子はあんまり振られないと思う。
なのに失恋は2回目だ。
最初の失恋は、立太子したときくらいだろうか。
月の精霊がいた。
人間だと聞いたから「伴侶にする!」宣言したら断られた。
「俺はユィクのものなので」
平民だというユィクは、陽の精霊みたいだった。
──ああ、これは負けたな。
納得する顔面だった。
あれとは戦えない。自分の容姿に自信があったからこそ尚更、完全なる敗北は痛かった。
次に見つけた子も、びっくりするくらい可愛い子だった。
自分の顔を毎日見ているからかな、面食いになってしまったみたいだ。
「伴侶にしてあげる!」
にこにこして告げたら、首を振られた。
「僕は子どものできにくい体質のようです。王太子殿下の伴侶にはなれません」
「きみだけを伴侶にするから!」
すがったけれど、首を振られた。
「子どもができないと、必ず次がいらっしゃる。そういうの、僕、無理なんです。ごめんなさい」
丁寧に頭を下げてくれた。
──振られた。
舞踏会を抜け出したザイアは舞踏殿のすぐそばにしつらえられた庭園の噴水へと足をのばした。
竪琴の音がかすかに聞こえる。
舞い踊る、はなやかな空気が今はわずらわしい。
「はぁあぁああああ」
魂の抜けるようなため息をつきながら、月明かりにきらめく夜の噴水にもたれかかる。
反対側で
「はぁあぁああああ」
おんなじ魂の抜けるようなため息をついている人がいた。
見たことある。
ザイアがノチェに失恋した頃、ノチェの相手のユィクに失恋していた人だ。
「どうした、振られたのか」
聞いてみた。
「そっちこそ」
返された。
「振られた。エヴィに」
「へえ、僕はヴィルに」
顔を見合わせて、笑う。
「この前は、ノチェだった」
「僕はユィク」
声をたてて、笑った。
「ロベォ家だっけ?」
見たことがある。紹介されたこともある。
けれど当主ならさすがに顔と名前を憶えるが、そうでない者たちの顔形と名前までは憶えない。高位となればなるほど、当主の顔しか憶えなくなってゆく。
王太子たるザイアの人名録には残念ながらぼんやりとした記載しかない。
それが最高位であるロベォ家であってもだ。
「アォナ・ロベォだよ。三男だから記憶にないんでしょう」
「すまん。今憶えた」
「よろしい」
あざやかな青い髪を揺らしてアォナは笑った。
いたずらっぽく閃く青い瞳に魅入られる。
「……どうしてきみの名を憶えていなかったんだろう」
ぽかんと呟いたら、アォナが笑った。
「王太子殿下が、ノチェ殿とエヴィ殿に夢中だったからでしょ。あれには負ける。単純なことだよ」
「え、いや、だって、きみも、とてもきれい……」
口にしたら、恥ずかしくなった。
火照る頬で、うつむいた。
「……あ、ありが、とう……あの、あんまり、言われたこと、ないから……」
ぽそぽそ呟くアォナの青い髪からのぞく耳が、赤い。
「まさか! めちゃくちゃ言われるだろう!」
叫んだザイアに、アォナは首を振る。
「皆、ノチェ殿と、エヴィ殿を見るんだよ。双頭って言うけど、三頭ってないでしょ。僕はいつも三番目。だから誰の目にも入らない」
自嘲するようにアォナは笑った。
ザイアは目を伏せる。
「俺、自分の顔、けっこういいと思うんだ。鏡を見たら、ふつうに、かっこいーなって。そういえば、かっこいーって言われたことない。皆、ユィクを見る。ヴィルが、ほんとはものすごくかっこいーって知ってる。俺もいつも、三番目だったのかなあ」
「自信家」
「きみもだろ」
ふたりで、笑った。
噴水の水がさらさら飛沫を振りまいて、月明かりに青い髪が透ける。
「アォナは、きれいだ」
「……ありがとう。……あの、殿下も、かっこいーよ」
はにかむように、アォナが笑う。
「……俺、失恋して、よかったかも」
ぽつりと呟いたら、アォナが瞬く。
「きみに、逢えた」
真っ赤になったアォナが、とびきり、かわいい。
────────────
読んでくださって、ありがとうございます!
harumi19661121あっけみん様のリクエストで『ザイアとアォナの恋バナ』でした!
失恋したと思ったら恋に落ちたふたりは、あっという間にいちゃらぶしあわせ伴侶になりました(笑)
楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
感想 342
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