99 / 152
Request
伴侶になろう(Request)
しおりを挟む月の髪がさらさらするのも、淡い緑の瞳がきらめくのも、きらい。
皆が、顔しか見ないから。
「とてもいいお話があるんだ」
「お金持ちなんだよ、贅沢させてもらえるよ」
にやにやした両親が12歳のノチェに差しだしたのは、伴侶契約だった。
売られるんだ。
あんぽんたんな両親と、あんぽんたんな先祖のせいで。
借金まみれのバチルタ家に生まれたノチェは、将来はお金持ちの貴族の伴侶という名の慰みものになることを運命づけられていた。
それがまさか今日だなんて思いもしなかった。
家を飛び出したノチェは、木枯らしの吹き荒ぶなか目深に衣をかぶり、下町へと懸命に駆けた。
吐き気がする。
自分の家が借金まみれなことも、お金持ちにもてあそばれることになるのだろう将来にも、そんな未来を叩き潰して切り拓いてゆく力が何にもないことにも。
くやしくて、なさけなくて、下町の隅にうずくまる。
このまま死んじゃっても、困るのは両親くらいだ。
それもノチェがいなくなるから、さみしいんじゃない。
借金の形がなくなってしまうことを、嘆くだけだ。
「……俺のことなんて、誰も見てない」
顔を見られる。
姿かたちを見られる。
ノチェの考えやノチェの思いを知りたいと思ってくれる人なんて、ひとりもいない。
なら
「……死んじゃっても、一緒なのかな」
未来に希望なんて、ひとつもないなら。
ここで消えても、いいのかもしれない。
ぎゅうっと唇を噛み締めたときだった。
「どうしたの? だいじょうぶ?」
やさしい声が降ってきた。
顔をあげたノチェは、息をのむ。
蜜をとかしたような陽の髪が、木枯らしのなかで光のように輝いた。
心配そうな青の瞳が、もうすぐ冬の空を映してる。
とくん
心の臓が、音をたてる。
『俺は、きみのものだ』
浮かんだ言葉に、びっくりした。
恥ずかしくなったノチェは立ちあがる。
「だ、だいじょうぶ」
長い間座り込んでいたからだろう、冷えて動かなくなった身体がよろけるのを、伸びた手が支えてくれた。
「……だいじょうぶじゃ、ないよね」
やさしい声だった。
「…………う……ぁ……」
抱きしめてくれたら、あふれる涙が、止まらない。
下町の子はお風呂にあまり入れないと聞くのに、その子はとても、いい匂いがした。
ずっと、ふるえる肩を抱きしめて
涙に揺れる背を、さすってくれた。
「……俺、両親の借金の形に、えろいおじいちゃんに売られるんだ」
言ってもどうしようもないのに、ただ『かわいそうに』頭を撫でて欲しくて口にした言葉に、少年は目を剥いた。
「じゃあ僕と、伴侶になろう!」
「…………え?」
「伴侶になったら、誰もきみに手出しなんてできないよ!」
ノチェは、茫然と少年の空の瞳を見あげる。
「……俺の家は、借金まみれで……」
「大変だね」
「俺の伴侶になったら、きみにも債務が……」
「さいむって何?」
「きみまで、俺の家の借金を返せって言われることになる」
首を傾げた少年は笑う。
「きみのたすけになれるなら、うれしい」
「借金、大変なんだぞ──!」
泣いたノチェを、少年の腕が抱きしめる。
「だからきみが売られることになった。そんなの絶対、ゆるさない」
おでこをくっつけて、笑ってくれる。
「ひと目見て、わかったよ。きみが、僕の伴侶だって。きみは?」
ノチェは、あざやかな青の瞳を見あげる。
「……だって、俺は、きみを莫大な借金に巻き込むことに……」
「きみは?」
やさしい指が、髪を、頬を撫でてくれる。
「……言っても、いいの……?」
「もちろん!」
透きとおる瞳で、笑ってくれる。
燃える頬で、告げた。
「……俺は、きみの、ものだよ。……ひと目で、わかった」
「伴侶になろう」
「でも……!」
「伴侶に、なろう」
微笑んで、抱きしめてくれたら
「……はい」
しか、言えない。
「あ、そうだ、名前! 僕はユィク。きみは?」
「ノチェ・バチルタ」
「ノチェ! さっそく伴侶契約しちゃおう! ノチェが売られちゃう前に!」
手を引いてくれる。
笑ってくれる。
「……ごめ……ごめん、なさい……! ひどい、ことに、巻き込む、のに……きみの手を……離したく、ない……!」
あふれる涙と叫んだら、ユィクが抱きしめてくれる。
「ノチェといっしょなら、どんなに酷いことだって、乗り越えてゆける」
やさしい声が、かさなる胸から響いてく。
「僕がノチェをしあわせにしてあげる。だからノチェは、僕をしあわせにしてね。
簡単だよ。隣で笑ってくれるだけでいいんだから!」
空の瞳で、笑ってくれる。
ひどいことに巻き込んで、ごめんなさい。
なのに、売られそうになったから、ユィクを手に入れられた。
そう思ったら、首を絞める莫大な借金まで、たまらなくあまい。
「俺をたすけてくれるつもりなら、今だけでいいから。すぐ離縁して構わないから──」
「絶対しない!」
ユィクが笑って、手を引いてくれる。
「伴侶になってから、お互いを知って、すきになってもいいはずだよ。
僕はもう、ノチェが大すきだけど」
ノチェの頬が、燃える。
「……俺も……ユィクが……」
だいすき
ささやきは、唇に溶けた。
────────────
読んでくださって、ありがとうございます!
maril様のリクエストで、ノィユの両親の伴侶契約エピソードでした!
あんまり甘くないお話になってしまいましたが、ノチェとユィクの出会いはこんな感じです(笑)
話が長くなってしまうので書きませんでしたが、伴侶契約を先王が承認してくれた際に両親の悪事が発覚、爵位剥奪のうえ借金返済のための強制労働従事者となりました。
すぐにノチェがバチルタ家当主となり、借金にあえぎながらユィクと頑張っています(笑)
これでリクエストいただいた分終了です!
おつきあいくださいまして、ありがとうございました!
1,135
あなたにおすすめの小説
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
記憶を無くしたら家族に愛されました
レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない…
家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます
水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。
家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。
絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。
「大丈夫だ。俺がいる」
彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。
これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。
無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!
煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。
処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。
なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、
婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。
最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・
やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように
仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。
クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・
と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」
と言いやがる!一体誰だ!?
その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・
ーーーーーーーー
この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に
加筆修正を加えたものです。
リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、
あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。
展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。
続編出ました
転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668
ーーーー
校正・文体の調整に生成AIを利用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる