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ヴィルの、しあわせな悩み
しおりを挟むヴィルには、切実な悩みができた。
ノィユが、やきもちをやいてくれない。
悋気なんて、みっともなくて情けないものだと思っていたけれど、トートと仲良く話したり笑ったりしているノィユを見るだけで、燃える爪で喉を引っかかれるような、心の臓に焼ける杭が打ちこまれるような痛みが走る。
たしかに痛くて、苦しいのに、それはどこかあまい陶酔をにじませた。
ノィユを想う気持ちが、この切なさを連れてくる。
そう思うと、胸を裂く熱を遥かに超える、とろけるようにあまやかな、ノィユを慕う気持ちに包まれる。
痛くて、苦しくて、切なくて、あまい。
それはノィユを想う気持ち、そのものだから。
やきもちをやくたび、ノィユを想っているのだと自覚する。
ずっとノィユの傍にいて、ノィユに隣で笑ってほしくて、ノィユと手を繋ぐのは、ノィユを抱きしめるのは、自分じゃなきゃ、いやだ。
独占したいと願う気持ちさえ、蜜のようにあまい。
きっと、これが、あいしてる。
だと思うのに。
ノィユが、やきもちをやいてくれない。
それは、ヴィルが想うほど、ノィユはヴィルを想っていないということで。
ノィユは、ヴィルを愛していないのかもしれないということで。
伴侶としては、泣いちゃう事態だと思うのだ。
エヴィは確かに最愛の弟で、家族だ。
エヴィが兄を想ってくれるのと同じように、弟のエヴィを大切に思ってる。
腕枕するのだって、やぶさかではない。
でも、こんなにくっついているのに、ノィユがやきもちをやいてくれないなんて。
ノィユ以外の人に腕枕するなんて『伴侶失格だ!』止めてくれないなんて。
泣いてくれないなんて。
すねてもくれないなんて。
「最愛の弟さんを、めいっぱい甘やかしてあげてね」
笑ってくれるなんて。
それは、とても心ひろい、心やさしいことだと思うのに、ちっとも喜べないなんて。
「……やきもち、やかないノィユは…………俺が……すきじゃ……ない……?」
口にしたら、泣きそうになった。
情けない。
みっともない。
もういい歳なんだぞ、しっかりしろ。
自分に言い聞かせるのに。
3歳のノィユが、大すきな伴侶のノィユが、自分を想ってくれないことが、ぐしゃぐしゃになってしまうほど、苦しい。
「ヴィル──!?」
ノィユが、ちっちゃな腕で抱きしめてくれる。
「あ、あのね、ヴィル、ふつうはたぶん、家族にはやきもち、やかないんだよ」
「………………え?」
きょとんとするヴィルに、ノィユは教えてくれる。
「だって、僕とおかあさんが抱っこしてて、ヴィル、やきもち、やく?」
ふるふるヴィルは首を振った。
「それと一緒。エヴィさまがヴィルを大すきで、くっついても、家族だから。エヴィさまにはトートさまっていう伴侶もいらっしゃるし。だからやきもち、やかないんだよ」
「……そ、う、なの、か……?」
ぽかんと呟いたヴィルの頬が燃える。
は、恥ずかしい。
家族にやきもちをやいてくれないと、拗ねていただなんて。
ノィユの愛を疑ってしまったなんて。
いつだって、きらきらの紫の瞳で見あげてくれるのに
いつだって、手を繋いで
とろけるように、笑ってくれるのに
「ヴィル、だいすき」
伝えてくれるのに
「……ご、ごめ……」
謝ろうとしたヴィルの唇に、ノィユのちいさな指がふれる。
「ヴィルが切なくなって、心配したり、泣いちゃいそうになってくれたら、めちゃくちゃうれしい。だって、僕が、すきってことでしょう?」
あまい声に、火照る頬で、こくりと頷く。
「夢みたい」
とろける頬で、笑ってくれる。
「……ノィユも、俺、のこと……」
すき?
聞く前に、真っ赤な頬で、抱きしめてくれる。
「だいすき」
ちゅ
くちびるが、かさなって、鼓動が燃える。
『だいすき』
伝えたいのに、はちきれる胸が詰まって、何も言葉にならなくて。
だからぎゅうぎゅう、ノィユを抱きしめる。
「かなしくなったら、切なくなったら、苦しくなったら、いつでも僕に、教えてね。僕がヴィルを、しあわせにするんだから」
胸を叩いてくれるノィユは、3歳なのに、とてもやさしくて、かっこよくて。
うっとりする。
「……ノィユが、伴侶だなんて、夢みたい」
「僕も!」
朱い頬で、笑ってくれる。
ノィユより、自分のほうが、あいしてるから
やきもちをやいて
胸がいっぱいになって『だいすき』言えないのだとしても
不安になって、さみしくなって、苦しくなっても
ノィユは、俺の、伴侶だ。
それは、なんて、あまくて、なんて、つやめいて、なんて、きらきらした
胸をいっぱいにする
最愛の、約束
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