【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ

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ヴィルの、しあわせな悩み

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 ヴィルには、切実な悩みができた。

 ノィユが、やきもちをやいてくれない。

 悋気なんて、みっともなくて情けないものだと思っていたけれど、トートと仲良く話したり笑ったりしているノィユを見るだけで、燃える爪で喉を引っかかれるような、心の臓に焼ける杭が打ちこまれるような痛みが走る。

 たしかに痛くて、苦しいのに、それはどこかあまい陶酔をにじませた。


 ノィユを想う気持ちが、この切なさを連れてくる。

 そう思うと、胸を裂く熱を遥かに超える、とろけるようにあまやかな、ノィユを慕う気持ちに包まれる。

 痛くて、苦しくて、切なくて、あまい。

 それはノィユを想う気持ち、そのものだから。

 やきもちをやくたび、ノィユを想っているのだと自覚する。


 ずっとノィユの傍にいて、ノィユに隣で笑ってほしくて、ノィユと手を繋ぐのは、ノィユを抱きしめるのは、自分じゃなきゃ、いやだ。

 独占したいと願う気持ちさえ、蜜のようにあまい。


 きっと、これが、あいしてる。



 だと思うのに。

 ノィユが、やきもちをやいてくれない。

 それは、ヴィルが想うほど、ノィユはヴィルを想っていないということで。

 ノィユは、ヴィルを愛していないのかもしれないということで。

 伴侶としては、泣いちゃう事態だと思うのだ。


 エヴィは確かに最愛の弟で、家族だ。
 エヴィが兄を想ってくれるのと同じように、弟のエヴィを大切に思ってる。
 腕枕するのだって、やぶさかではない。

 でも、こんなにくっついているのに、ノィユがやきもちをやいてくれないなんて。

 ノィユ以外の人に腕枕するなんて『伴侶失格だ!』止めてくれないなんて。

 泣いてくれないなんて。
 すねてもくれないなんて。

「最愛の弟さんを、めいっぱい甘やかしてあげてね」

 笑ってくれるなんて。

 それは、とても心ひろい、心やさしいことだと思うのに、ちっとも喜べないなんて。


「……やきもち、やかないノィユは…………俺が……すきじゃ……ない……?」

 口にしたら、泣きそうになった。


 情けない。
 みっともない。
 もういい歳なんだぞ、しっかりしろ。

 自分に言い聞かせるのに。

 3歳のノィユが、大すきな伴侶のノィユが、自分を想ってくれないことが、ぐしゃぐしゃになってしまうほど、苦しい。


「ヴィル──!?」

 ノィユが、ちっちゃな腕で抱きしめてくれる。

「あ、あのね、ヴィル、ふつうはたぶん、家族にはやきもち、やかないんだよ」

「………………え?」

 きょとんとするヴィルに、ノィユは教えてくれる。

「だって、僕とおかあさんが抱っこしてて、ヴィル、やきもち、やく?」

 ふるふるヴィルは首を振った。

「それと一緒。エヴィさまがヴィルを大すきで、くっついても、家族だから。エヴィさまにはトートさまっていう伴侶もいらっしゃるし。だからやきもち、やかないんだよ」

「……そ、う、なの、か……?」

 ぽかんと呟いたヴィルの頬が燃える。


 は、恥ずかしい。
 家族にやきもちをやいてくれないと、拗ねていただなんて。
 ノィユの愛を疑ってしまったなんて。


 いつだって、きらきらの紫の瞳で見あげてくれるのに
 いつだって、手を繋いで
 とろけるように、笑ってくれるのに

「ヴィル、だいすき」

 伝えてくれるのに


「……ご、ごめ……」

 謝ろうとしたヴィルの唇に、ノィユのちいさな指がふれる。

「ヴィルが切なくなって、心配したり、泣いちゃいそうになってくれたら、めちゃくちゃうれしい。だって、僕が、すきってことでしょう?」

 あまい声に、火照る頬で、こくりと頷く。

「夢みたい」

 とろける頬で、笑ってくれる。


「……ノィユも、俺、のこと……」

 すき?

 聞く前に、真っ赤な頬で、抱きしめてくれる。

「だいすき」

 ちゅ

 くちびるが、かさなって、鼓動が燃える。



『だいすき』

 伝えたいのに、はちきれる胸が詰まって、何も言葉にならなくて。

 だからぎゅうぎゅう、ノィユを抱きしめる。


「かなしくなったら、切なくなったら、苦しくなったら、いつでも僕に、教えてね。僕がヴィルを、しあわせにするんだから」

 胸を叩いてくれるノィユは、3歳なのに、とてもやさしくて、かっこよくて。

 うっとりする。


「……ノィユが、伴侶だなんて、夢みたい」

「僕も!」

 朱い頬で、笑ってくれる。



 ノィユより、自分のほうが、あいしてるから
 やきもちをやいて
 胸がいっぱいになって『だいすき』言えないのだとしても

 不安になって、さみしくなって、苦しくなっても


 ノィユは、俺の、伴侶だ。


 それは、なんて、あまくて、なんて、つやめいて、なんて、きらきらした

 胸をいっぱいにする

 最愛の、約束





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