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もしかして!
しおりを挟むやっぱり、主人公はすごいんだね……!
ロベナ王国の王太子として伴侶に選ぶなら、ちょこっとした、すり傷しか治せない僕より、手足の欠損を治せる、かつてない治癒の才能を誇る可愛い平民の男の子を選ぶ。
貴族とか平民とかあるんだけど、実力で、もぎとってゆくのがロベナ王国の身分なんだよ。
実績が下降してゆくと、あっさり平民落ちしちゃう。
2次元の世界で大変繁殖している、あんぽんたんな血だけ貴族は、ロベナ王国には存在しないんだな!
んんん??
それって、もしかして僕のことじゃない……!?
巨大なブーメランが刺さってきたよ!
そうでした、むかちゅく貴族は、踏み踏みされるために存在するのでした……!
つまり、僕──!
おかあさんも、ロドお兄ちゃんも、サザお兄ちゃんも優秀なので、僕だけあっさり縁を切って平民に落としてしまえばロドア家は守られるという、まさに踏み踏みされる悪役令息……!
きゃ──!
あぶない……!
そんな感じの残念な僕が悪役令息で、希代の治癒士が主人公だ。
だから主人公はきっと自分の力で貴族になれる。
すばらしい治癒の力を開花させ、立派な上位貴族になり、堂々と王太子の伴侶になり、王配となってロベナ王国を支えてくれる。
主人公だもん。BL小説の世界だし、チートも、もりもりついてくるよね。
悪役令息な僕が、絶対に勝てないのが主人公だよ。仕様だよ。
「……はー、じゃあ僕は、どんなに頑張っても、彼を超えることはできないんですね」
しょんぼりした。
いや、当たり前だけど。
悪役令息が主人公に勝つとか、それこそオンライン小説だよ!
……え、僕がオンラインBL小説の主人公になってる可能性がある……?
あるかもね、悪役令息だからね! 悪役令息、大人気だからね!
ちょこっとランキングとかに、お邪魔させてもらったりするんだよ。
だいふくな僕が──!
きゃ──!
……いや、だいふくだし、無理じゃない??
ちょこっとしたすり傷しか治せない、ちんまい大福な僕……
泣いちゃう!
で、でもでもでも、やさしい人が読んでくださったり、お気に入りに入れてくださったり、いいねしてくださったり、エールまで送ってくださったり、ご感想を書いてくださったりとか、しちゃったり、しちゃうんじゃ……!?
きゃ──!
……そうなると、もしかしてちーとが発動したりするのかな?
んんん?
そんなにあまいお話ある??
皆が、こんなにあまやかしてくれるのに??
これだけで、充分、悪役令息ちーとだよね。
そうそう、謙虚だいじ。
悪役令息には、特にね!
主人公に勝つとか、そういうのはどうでもよくて、断罪が軽くなるといいなとか、今まで微塵も頑張ってなかったのを、がんばってみて、どこまでいけるのかとか、楽しそう!
わくわく!
「僕、がんばります!」
見あげたら、おじいちゃん魔導士が、やさしいしわの目じりで笑ってくれる。
「よいことですじゃ。そんなユィリおぼっちゃまに、大切なことをお教えしましょう」
おじいちゃんが、僕の目をのぞきこむ。
「はい!」
両の手をにぎったら、後ろでカイがもだもだしてる。
さっとカイをスルーしたおじいちゃんの目に、真剣なひかりが宿る。
「がんばったからといって、報われるとは限りませんのじゃ。打ちのめされることのほうが多いくらいですのう。
世界は、きびしい。それは、皆が、がんばっているからですの。そう思うと、すごいことですじゃ」
こくりとうなずく僕に、おじいちゃんは微笑んだ。
「でもですじゃ、打ちのめされることこそ、お恵みですじゃ。
苦しいこと、辛いことこそ、ユィリ殿を輝かせるのですぞ」
あたたかな、しわの手が頭をなでなでしてくれる。
「伴侶(予定)契約を破棄されたことは、お辛いことですじゃ。だからこそ、ユィリ殿は新しい扉を開けられた。
これから楽しいことが起こりますぞ!」
やさしい手に、やさしい言葉に、涙といっしょに笑みがこぼれた。
「はい!」
破棄された瞬間に前世の記憶がよみがえるとか、ないと思ったけど。よみがえったから、僕は変われる。
いや、きっと、いつだって、人は変われる。
変わろうと思った、その瞬間に。
だから僕、がんばってみるよ!
と思って、いちご大福になるまで「ふににに!」したのに、魔力の修練がうまくいかないよー。
僕、しょんぼり。
うまくいかない方が強くなるのかなーって思ったけど、でもできないよー!
僕のお部屋で、寝る前のお支度をしてくれるカイの衣のすそを、きゅっとにぎって、ちょこんと引っ張ったら、真っ赤になったカイが硬直した。かわいい。
「ねーねー、カイは、魔法を使うの得意?」
いちばん身近なカイに質問してみたよ。
「クソ王太子を、ぽこれるくらいは」
殿下が消えてる。
めちゃくちゃかっこよくて、しゅっときれいなカイの後ろに、闇が噴いてる。
3,000
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