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闘えない
しおりを挟むそうか、この世界には、いちご大福がないんだね。
今度つくってあげたいなあ!
わくわく手をにぎる僕の頭を、おじいちゃん魔導士が、ぽふぽふしてくれる。
やさしい。
「魔素を集める修練ばかりでは、ちと退屈でしょうからのう。
今日は治癒魔法について、お勉強しましょうか」
「わーい!
ありがとうございます、先生!」
うれしく跳んだ僕は、止まった。
「……おじいちゃんせんせーまで、僕をあまやかしていませんか……?」
だいじなことに気づいたよ!
「いやいや、お勉強というのは、ひとつのことばかりするより、ちょっと目先を変えたり、新しい知識を得ると、はかどったりするものなのですぞ」
おひげをしごきながら言われると、すんごく大切なことを言われている気がする!
でもちょっと
「僕をあまやかしていませんか!」
だいふくを、キリっとさせて突っこんでみました。
おじいちゃんが、へにゃりと笑う。
「真っ赤になるまで、修練なさったのでしょう。
ようがんばりましたのう」
しわのお手々で、頭をなでなでしてくれました。
「おじいちゃん、だめ! 僕には、きびしく!」
ちょっと涙目で、訴えてみました。
「……ぐぅ……」
おじいちゃんにも、なにか刺さったようです……?
「おわかりになりましたか、魔導士さま。
ゆりさまに厳しくあたることができる人は、あんのクソ王太子殿下しかいないことに」
カイが、ドヤ顔だよ!
かっこいー!
そして今日も丁寧と、あんのと、クソと殿下が同居するカイ。
「なるほどのう」
それをさらっと受けいれるおじいちゃん。
え、もしかしてセゥス王太子殿下って、ほんとにそうなの……!?
……うぅーん?
前の僕の記憶では、いつもやさしかったし、僕がいけないことを言ったりしたりすると、ちゃんと注意してくれた、いい人だったよ??
首をひねる僕の頭を、おじいちゃん先生が、ぽふぽふしてくれる。
ちょうどね、お手々が置きやすいところに、僕の頭があるみたいだよ。
だいふくな僕は、ちっちゃいのです!
ちっちゃい、よわよわ、つつくと、はじけるんだよ……!
……めちゃくちゃ悪役令息っぽいよね……
「あんまり魔素を集める修練ばかりでも、効率がよくありませんのでな。
今日は魔法のお勉強をいたしましょう」
やさしく微笑んでくれる、おじいちゃんまで、僕にあまくなってきた……!
もしかして、これが悪役令息チートなの……!?
皆で僕を、とろとろにあまやかしに──!?
……………………。
……それ、しあわせなのでは…………?
あれ?
僕、悪役令息のままでいいのでは……?
──ち、ちがうちがうちがう!
断罪と極刑がキレっキレのダンスしながらやってくるから!
「聞いておられますかのー」
おじいちゃんの白い眉がさがって、僕は、あわてて背を正した。
「ははははい! ごめんなさい!」
キリっとしたお顔に戻してみたよ。
僕の頭をなでなでしてくれた、おじいちゃんが、絵本を開きながら講義を再開してくれる。
「この世界には、炎、風、水、地、光、闇の6属性の魔法があることは、お伝えしましたのう。
治癒魔法というのは、水と光の複合魔法ではないかと言われておりましてな、治癒魔法が使える人には、他の6属性の魔法は使えぬのです」
「……え! そ、そうなんですか!」
ショック!
『ふぁいあーぼーる!』やってみたかった!
でも確かに怪我を治してしまう治癒魔法がチートだから、さらにチートにならないように調整されているのかもしれないね。
そっかあ、僕『うぉーたーふぉーる!』も『さんだーすとーむ!』も『うぃんどかったー!』もできないんだ。
しょんぼりする僕の頭を、おじいちゃん魔導士が、なでなでしてくれる。
「……あまやかし……?」
つっこんでみたよ。
「おお! あぶないあぶない」
ただひとり僕にきびしい、おじいちゃん魔導士まで、あまあまになっちゃうなんて、BL小説の強制力は僕をよっぽど悪役令息にしたいみたいだよ。
ふんだ!
反抗するんだから!
きゅ、とちっちゃな両手をにぎったら、後ろで見守ってくれているカイの耳が紅くなってる。かわいい。
「治癒魔法の大切なところは……まあ、すべての魔法に言えることですがの、想像することですのう。どんな魔法を使いたいのか、正確に、具体的に思いえがくと、魔素が応えてくれる。精霊さまが応えてくださることもありますのう。そうすると強大な魔法を使えるわけです」
魔素の修練と、イメージが大切ってことだね。理解!
「あの、平民の男の子が、すごい治癒魔法を使うって聞いたんですけど……」
気になっていたので、聞いてみました。
「あの方のは、他の治癒魔法士とは格が違いますの。手足の欠損をよみがえらせることができるのは、彼しか聞いたことがありませぬ。まあ、あの方と闘うのは無理ですじゃ」
さすが主人公!
すんごいチートがついてるみたいだよ。
「よって、王太子殿下の伴侶(予定)でなくなられたことも、仕方のないことで、気落ちすることはないのですぞ」
ぽんぽん頭をなでなでしてくれるおじいちゃんが、やさしいです。
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ずっと読んでくださって、ありがとうございます!
表紙のユィリが、どーやっても、ちっちゃいです……!(笑)
がんばったけど、無理でした!(笑)
というわけで、これからもちっちゃいユィリをよろしくお願いしますー!(笑)
お話にあわせて表紙が変わる仕様なので(笑)お話といっしょに楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
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