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みとめました
しおりを挟む大怪我で昏睡しているはずの僕が、元気に、のーすちゃんとお茶を飲もうとしてると、びっくりしちゃうよね!
真っ青になるお父さんノクに、僕が口を開くよりはやく、さっとカイが前に出た。
「ユィリおぼっちゃまは頭に大変な怪我を負われ、一週間ものあいだ意識が戻らず昏睡なさいました。今も記憶の混乱があられるのです。病床をおしての訪いにございます」
流れるような答弁!
優秀なカイに、感謝だよ。
「た、大変だったね……! 身内が大変なことを……」
泣きそうなノクさまに、僕はぶんぶん首をふった。
「あ、あの、僕が、ショックで……あ、えと、衝撃で、ちょっと……」
「かわいそうに──!」
泣いてくれるノクさまの隣で、ノゥスがぶっすりしてる。
「とりあえず、座れば?
お茶、いれる」
ノゥスがちいさな台所に立とうとするのに、あわあわ僕は駆け寄った。
「僕が、いれようか?
王族に、お茶をいれてもらうなんて、何さまだよって話だよね??」
しかられるお話だよ!
「……は?
いつも俺がいれた茶を飲んで、俺が作った菓子を食っておいて、それを言うのか」
むにににに! 僕のほっぺを引っ張るはずだったノゥスの指が、のびたカイの腕に阻まれる。
切れ長のカイの闇の瞳が、凍えるような闘気を放った。
「ユィリおぼっちゃまは、今、療養中でいらっしゃいますので。
ご配慮を、お願いいたします。
あまり、ゆりさまを興奮させたり、おさわりになりませんように」
バチリとノゥスの視線とカイの視線が重なって、火花が散った気がした。
張りつめるような緊張をこわしたのは、のどかな声だ。
「そうだよ、ノゥス!
ゆりちゃんは、今、大変なんだから!
いくらぷにぷにほっぺが可愛くても、いくらむにむにしたくても、今はだめ!」
ノゥスをしかってくれるノクさまも、僕のほっぺを、むにむにしたいらしいです。
「お茶いれるの、僕、おてつだい、する?」
ことりと首をかしげた僕に、ノゥスはちいさく笑った。
「いっつも、そう聞いてくれるけど、手伝ってくれると大惨事になるんだよな。不器用満開だろ」
くしゃりと僕の頭をなでようとしてくれたノゥスの手も、カイの腕に阻まれた。
「いちど、見逃しましたので。
二度目はありません」
にっこり微笑むカイと、陽の瞳をほそくするノゥスの視線が、バチバチしてる気がする……!
ど、どうしたの……!?
なんか、あんまり仲よくなれない感じがするとか、そういうことなのかな??
初対面なのに、ちょっと、うーん……っていうこと、あるよね。
わかるけど、さみしい……!
僕がもだもだしてる間に、のーすちゃんが、しゃしゃっとお茶をいれてくれました。
すばやい。
いー匂いする。
「ほら、ゆーりの、すきなお茶」
「わあ……! 覚えててくれたんだね、ありがとう、のーすちゃん」
一緒に出してくれたお茶菓子も、僕のだいすきな、さくさくのクッキーだ。
「おぉお!」
「ノゥスちゃん、いつも用意してあるんだよ。いつ、ユィリちゃんが来てくれてもいいように」
おとうさんの言葉に、息をのむ。
「…………え…………?」
「そ、そんなわけないだろ! 兄貴の伴侶(予定)だったのに!
このみが一緒なだけだよ。うまいじゃん、これ」
ぼりぼりクッキーをかじるノゥスの耳が、真っ赤だ。
カイの目から、ブリザードがあふれそうなんですけど……!
きゃ──!
「……で? 身体も頭も大変なところをわざわざ来たのが、光の魔力がいるから? なんで?」
ちょっと赤い頬のノゥスに聞かれた僕は、正直にお話した。
「僕、ちっとも修練したことがなくて、魔素を集める感覚がわからないの」
ノゥスの目も、おとうさんの目も、点になる。
「はァ──!?」
……そ、それくらい、ありえないことなんだね……!
……僕、ほんとのほんとに、なぁんにもしなかったんだなあ……悪役令息以前の問題なんじゃ……いや、立派な悪役令息になるために……? おさぼりが生まれたときから進行したの……!?
きゃ──!
ひとりあわあわな僕を、カイも、のーすちゃんも、よしよししてくれました。
やさしい。
お茶とクッキーで元気を取り戻した僕は、素直なお話を再開する。
「それでね、カイに教えてもらおうと思って、水の魔力を注いでもらったら、もらいすぎちゃって、たぷたぷになったの」
いつもより300%くらい、ぷにっぷにだよ!
「……はぁあぁ……!?」
ノゥスの顎も、おとうさんの顎も、落ちそうになってる。
「何とかするには、光の魔力をもらって、治癒魔法を使うしかないって、魔導士のおじいちゃんが」
ノゥスも、おとうさんも、天を仰いだ。
「……うへえ」
「それで、もらいに来たの」
とっても率直に、お願いしたよ!
「あんぽんたんだろう──!」
指されました。
「………………はい………………」
認めちゃった!
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