悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ

文字の大きさ
71 / 148

むつかしい

しおりを挟む



 きっと、人を信じるのは、難しい。

 表面的に仲よくするのは一瞬でも、ほんとうに仲よくなるのは、きっと、とても難しい。


 こわくて、疑って、ためらいしかない僕を、いじめっ子だった僕を、アーシェは信じようとしてくれた。


 自分をいじめた人を信じようとするなんて、どれほど難しいことだろう。

 ふつうなら、きっと、絶対にできない。


 その絶対にできないことを、しようとしちゃうのが主人公だ。

 誰もにやさしくて、自分に厳しくて、まっすぐに輝く、みんなの理想を体現してくれる、主人公だ。



 ……僕は、よわよわで、間違ってばかりで、ためらってばかりで、情けなくて、みっともない、いじめっ子の悪役令息だ。

 そんな自分を、僕は変えたかった。


 がんばろうとするけど、それでもやっぱり、よわよわだし、甘やかされたくなっちゃうし、ほめてくれると、うれしいし、厳しくされると、泣いちゃう。

 あまったれの、よわよわだいふくな僕でも、お話の主人公なら信じられる。



 誰かを信じられるかどうかは、誰かの言動や行いで決まるんじゃなくて。

 信じることから、はじまるのかもしれない。


 自分が信じたら、相手も信じてくれるのかもしれない。

 憎しみに、憎しみが返るように。

 笑顔に、笑顔が返るように。


 信じたら、信じてもらえるかも……!



 異世界転生した衝撃でストーリーとか登場人物の名前とか忘れちゃったけど、それでも『鉄板BL』の更新を毎日毎日楽しみにしていた、だいすきだった気もちは、覚えてる。


 だいすきだったお話の主人公なら、信じられる。

 いじめっ子だった僕を、信じようとしてくれたアーシェなら、信じられる。


 ふるえる唇を、こじ開けた。


「あ、あの、僕、異世界転生なの。ストーリーとか登場人物とか忘れちゃったみたいなんだけど『鉄板BL』だいすきで、ずっと読んでたの。
 伴侶(予定)契約の破棄が衝撃で、前の記憶を思い出したみたい。
 それで自分がどれほどひどいことをしてたのか、やっと自覚できて、申しわけなくて謝りに来たの。
 ほんとうに、ほんとうに、ごめんなさい!」

 前世のとおり、深く、深く、頭をさげた。

 そんなことロベナ王国の人は誰もしないけど、アーシェになら、きっと気もちが伝わるかも……!

 いや他の国の人の可能性もあるけど……!

『何やってんの、この人』って思われちゃうかもしれないけど……!


 気もちをこめて頭をさげた僕に、アーシェが笑ってくれる。

「僕のこと、ちょこっと信じてくれた?」

「うん!」

 信じることから、はじめるよ。


「アーシェくんをいじめた、さいていな僕を信じようとしてくれて、ほんとうに、ありがとう」

 胸に手をあてて膝を折る。
 感謝と謝罪を表してから、顔をあげた。

「すごいね、ほんとうに主人公みたい」

 僕の言葉に、ぴんくの瞳が見開かれる。


「やっぱり俺、主人公なの……!?」

 大きなぴんくの瞳が、泣きそうになってる。


「うん」

 こっくり僕はうなずいた。


「ここが何の世界か知ってるの──!?」

 まるで悲鳴だ。


「ちょっとだけ? でもあんまりストーリーとか登場人物とか覚えてなくて……」


「くわしく──!」

 僕の両肩をつかんで揺さぶるアーシェが、泣きそうです……?







しおりを挟む
感想 326

あなたにおすすめの小説

夫には好きな相手がいるようです。愛されない僕は針と糸で未来を縫い直します。

伊織
BL
裕福な呉服屋の三男・桐生千尋(きりゅう ちひろ)は、行商人の家の次男・相馬誠一(そうま せいいち)と結婚した。 子どもの頃に憧れていた相手との結婚だったけれど、誠一はほとんど笑わず、冷たい態度ばかり。 ある日、千尋は誠一宛てに届いた女性からの恋文を見つけてしまう。 ――自分はただ、家からの援助目当てで選ばれただけなのか? 失望と涙の中で、千尋は気づく。 「誠一に頼らず、自分の力で生きてみたい」 針と糸を手に、幼い頃から得意だった裁縫を活かして、少しずつ自分の居場所を築き始める。 やがて町の人々に必要とされ、笑顔を取り戻していく千尋。 そんな千尋を見て、誠一の心もまた揺れ始めて――。 涙から始まる、すれ違い夫婦の再生と恋の物語。 ※本作は明治時代初期~中期をイメージしていますが、BL作品としての物語性を重視し、史実とは異なる設定や表現があります。 ※誤字脱字などお気づきの点があるかもしれませんが、温かい目で読んでいただければ嬉しいです。

【本編完結】断罪される度に強くなる男は、いい加減転生を仕舞いたい

雷尾
BL
目の前には金髪碧眼の美形王太子と、隣には桃色の髪に水色の目を持つ美少年が生まれたてのバンビのように震えている。 延々と繰り返される婚約破棄。主人公は何回ループさせられたら気が済むのだろうか。一応完結ですが気が向いたら番外編追加予定です。

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

すべてはあなたを守るため

高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです

【完結】Restartー僕は異世界で人生をやり直すー

エウラ
BL
───僕の人生、最悪だった。 生まれた家は名家で資産家。でも跡取りが僕だけだったから厳しく育てられ、教育係という名の監視がついて一日中気が休まることはない。 それでも唯々諾々と家のために従った。 そんなある日、母が病気で亡くなって直ぐに父が後妻と子供を連れて来た。僕より一つ下の少年だった。 父はその子を跡取りに決め、僕は捨てられた。 ヤケになって家を飛び出した先に知らない森が見えて・・・。 僕はこの世界で人生を再始動(リスタート)する事にした。 不定期更新です。 以前少し投稿したものを設定変更しました。 ジャンルを恋愛からBLに変更しました。 また後で変更とかあるかも。 完結しました。

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

もう観念しなよ、呆れた顔の彼に諦めの悪い僕は財布の3万円を机の上に置いた

谷地
BL
お昼寝コース(※2時間)8000円。 就寝コースは、8時間/1万5千円・10時間/2万円・12時間/3万円~お選びいただけます。 お好みのキャストを選んで御予約下さい。はじめてに限り2000円値引きキャンペーン実施中! 液晶の中で光るポップなフォントは安っぽくぴかぴかと光っていた。 完結しました *・゚ 2025.5.10 少し修正しました。

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。 男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。 メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。 奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。 pixivでは既に最終回まで投稿しています。

処理中です...