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むつかしい
しおりを挟むきっと、人を信じるのは、難しい。
表面的に仲よくするのは一瞬でも、ほんとうに仲よくなるのは、きっと、とても難しい。
こわくて、疑って、ためらいしかない僕を、いじめっ子だった僕を、アーシェは信じようとしてくれた。
自分をいじめた人を信じようとするなんて、どれほど難しいことだろう。
ふつうなら、きっと、絶対にできない。
その絶対にできないことを、しようとしちゃうのが主人公だ。
誰もにやさしくて、自分に厳しくて、まっすぐに輝く、みんなの理想を体現してくれる、主人公だ。
……僕は、よわよわで、間違ってばかりで、ためらってばかりで、情けなくて、みっともない、いじめっ子の悪役令息だ。
そんな自分を、僕は変えたかった。
がんばろうとするけど、それでもやっぱり、よわよわだし、甘やかされたくなっちゃうし、ほめてくれると、うれしいし、厳しくされると、泣いちゃう。
あまったれの、よわよわだいふくな僕でも、お話の主人公なら信じられる。
誰かを信じられるかどうかは、誰かの言動や行いで決まるんじゃなくて。
信じることから、はじまるのかもしれない。
自分が信じたら、相手も信じてくれるのかもしれない。
憎しみに、憎しみが返るように。
笑顔に、笑顔が返るように。
信じたら、信じてもらえるかも……!
異世界転生した衝撃でストーリーとか登場人物の名前とか忘れちゃったけど、それでも『鉄板BL』の更新を毎日毎日楽しみにしていた、だいすきだった気もちは、覚えてる。
だいすきだったお話の主人公なら、信じられる。
いじめっ子だった僕を、信じようとしてくれたアーシェなら、信じられる。
ふるえる唇を、こじ開けた。
「あ、あの、僕、異世界転生なの。ストーリーとか登場人物とか忘れちゃったみたいなんだけど『鉄板BL』だいすきで、ずっと読んでたの。
伴侶(予定)契約の破棄が衝撃で、前の記憶を思い出したみたい。
それで自分がどれほどひどいことをしてたのか、やっと自覚できて、申しわけなくて謝りに来たの。
ほんとうに、ほんとうに、ごめんなさい!」
前世のとおり、深く、深く、頭をさげた。
そんなことロベナ王国の人は誰もしないけど、アーシェになら、きっと気もちが伝わるかも……!
いや他の国の人の可能性もあるけど……!
『何やってんの、この人』って思われちゃうかもしれないけど……!
気もちをこめて頭をさげた僕に、アーシェが笑ってくれる。
「僕のこと、ちょこっと信じてくれた?」
「うん!」
信じることから、はじめるよ。
「アーシェくんをいじめた、さいていな僕を信じようとしてくれて、ほんとうに、ありがとう」
胸に手をあてて膝を折る。
感謝と謝罪を表してから、顔をあげた。
「すごいね、ほんとうに主人公みたい」
僕の言葉に、ぴんくの瞳が見開かれる。
「やっぱり俺、主人公なの……!?」
大きなぴんくの瞳が、泣きそうになってる。
「うん」
こっくり僕はうなずいた。
「ここが何の世界か知ってるの──!?」
まるで悲鳴だ。
「ちょっとだけ? でもあんまりストーリーとか登場人物とか覚えてなくて……」
「くわしく──!」
僕の両肩をつかんで揺さぶるアーシェが、泣きそうです……?
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