悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ

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だいふく?

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 学校の校門でうずくまる青年のお腹が、もやもやしてるのに、僕は瞬いた。

 セゥス殿下の、もやもやに似てる。
 でもセゥスさまのほうが色が濃いから、胃に穴までは開いていなそう?

「おなか痛いの?」

 うずくまる青年に視線の高さを合わせようとかがんだ僕に、もしゃもしゃの月の髪の向こうが泣きだした。

「めちゃくちゃ痛いの!
 しんじゃいそうだよ!
 たすけて、ちっちゃい子──!」

 …………………………。

 セゥスさまの、もやもやは、もっと真っ暗だったよ……?

 胃に穴が開いて、吐血して、それでもまるで何もなかったみたいに、いつも通りに、ふうわりやさしく微笑んでくれたよ?

 ほんのちょっとのかすかな声が、こぼれただけだった。

 そして『ちっちゃい子』なんて言わなかったよ──!


 わかった!

 この人、言わなくてもいい余計なことを言って、むだに反感をかって、みんなの目が冷たくなって、それでお腹が痛くなっちゃうタイプなのかも──!

 あるあるだよね!

 僕は、よわよわ悪役令息だけど、前世の記憶がよみがえったので『ちっちゃい子』くらいなら、大人の余裕な微笑みで流してあげられちゃうのです──!


 ……たぶん。

 なんかちょっと胸がちくちくするけど。

 なんかちょっと涙目になってる気がするけど。

 ちょっと、うるうるしちゃってるかもだけど。

 カイに抱っこされて頭をなでて慰めて欲しくなっちゃったけど……!


「うわ、泣かないで!
 え、ごめん、もしかして、ちっちゃいの気にしてた?
 だって、おなじ制服を着てるのが不思議になるほど、ちっちゃいから!」


 …………………………………………。

 ……わー……たすけたく、なくなっちゃうなー………………

 涙目なまま、ちょっとぷりぷりした僕は、ちっちゃな手をかかげました。

「……もう、仕方ないなあ。
 大人な僕だから、許してあげるんだからね。
 ふつう、激おこだからね」

 月の髪が、不思議そうに、もしゃもしゃしてる。

「……え、僕、なにかいけないこと言った?」

「もういいから黙るがいいよ!」

 大人の余裕が剥がれてきた僕は、ぷりぷりしながらちっちゃな手をかざした。

 僕のなかにある、カイの魔力と、のーすちゃんの魔力、ほんのりある僕の魔力が、世界の魔素と重なって、やさしい緑のひかりになっていく。

「えい!」

 もやもや目がけて、緑のひかりを打ちこみました。


「うわ──!
 え、魔法で攻撃するなんて、ひどくない?
 ……僕、そんなにひどいこと言ったの……?
 え、ごめん、いじめないで──!」

 泣いてる!

 そして僕は今のが完璧な悪役令息ムーブだったことに気がつきました……!

 悪役令息じゃなくなりたくて頑張ってるのに、思いっきり意地悪してるっぽくなっちゃったよ……!

 これがオンラインBL小説の強制力なの……!?

 きゃ──!

 泣きそうになった僕は、あわあわ手をふった。

「いじめてないよ!
 僕、ちょこっとした、すり傷が治せるんだよ。それで、お腹が痛いのがましになったらいいなと思って。
 たすけてって言われたから」

 弁明してみました!

 きょとんとした青年が吹きだした。

「やだなあ、治癒魔法が使えるだなんて、聖人みたいな嘘ついちゃって。
 かわいー顔して、わるいこちゃん♡
 それに治癒魔法っていうのは、外傷を治すものであって、病気とかは治せないんだよ」

 ふふんと胸を張る青年に、ちょこっと関わってしまったことを後悔した時だった。


「…………………………え……………………?
 あんなに痛かったのに、お腹が痛くなくなったんだけど……!
 もしかして君、聖人なの──!?」

 拝まれました。


 ちがいます。

 ちっちゃい悪役令息です。

 ちっちゃい、だいふくじゃないよ!

 ……たぶん!




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