悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです？

そんな特技は、ないのです

　息ひとつ乱さず駆け戻ってきてくれたカイが、もしゃもしゃの月の髪の背の高い青年に拝まれている僕に、スンとした目になった。

「ユィリおぼっちゃまは、わたくしが目を離したほんの数瞬の間に、不審な男をはべらせる特技があられるようで」

「い、言いがかりだよ……！
　ひどい、カイ──！」

　ちょっと前に一世一代の謝罪を敢行し、さっきは『不思議なほど、ちっちゃい子』呼ばわりされ、さらにいじめっこな悪役令息ムーブで傷ついたうえに、カイにまで責められたら、僕、泣いちゃう──！

　うるうるになった僕にびっくりしたように、カイが切れ長の瞳を見開いた。

「申しわけございません、ゆりさま──！
　ゆりさまの従僕の身でありながら、ゆりさまに群がる男にちょっと殺意をいだいてしまいまして、それでゆりさまを怖がらせるなど本末転倒でございます」

　うやうやしく膝を折ってくれたカイの目が、月の髪の青年を刺してる。

「な、なんか怖いのが来た──！
　僕、泣いちゃう──！」

　もしゃもしゃの人が、泣いてる。


「いや君、最初から泣いてたよ」

　突っこんでみました。


「ほんとうのことを言われると、よけいに泣いちゃうんだから！」

　めんどくちゃい人だよ！

　最初から、そんな感じだった！


「元気になったみたいで、よかったよ。
　おなか、お大事にね」

　ちっちゃい手をふって、カイと一緒に帰ろうとする僕に、もしゃもしゃの人があわてたように駆けよった。

「待って待って待って！
　きみ、治癒魔法が使えるんだよね？
　さらに僕のお腹まで治してくれたよね？
　ありえない治癒魔法が使える、聖人さんだよね？」

　つめ寄られちゃった！


「あ、あの──！　ぼ、僕の伴侶になってください！」

　手を差しだされてしまいました……！


「ごめんなさい……！」

　即答でした──！

　ごめんなさい！



　いやもうだってセゥスさまの伴侶（予定）を13年もやってたんだよ。

　めちゃくちゃ目が肥えるよね？

　さらに従僕は、めちゃくちゃかっこいいカイで、幼なじみは、めちゃめちゃかっこ可愛いのーすちゃんで、めちゃくちゃ可愛いくーちゃんが熱烈アプローチしてくれてるんだよ。


　いやもうこれ即答で、お断りでしょ──！

　ごめんね……！


「ほんとうに、ほんとうに、ほんとうに、ごめんなさい！
　でも僕、治癒魔法が使えるからって僕と伴侶になろうとする人とは、絶対に伴侶になりたくないです！」

　もう、こりごりなのです。

　はっきり、きっぱり、ばっきり、お断りしました──！

　ごめんなさい！


　誠心誠意あやまって、お断りしたら、今度こそ撤退です！

　さあ、帰ろう！

　家族の皆が僕を守ってくれる、わが家へ──！


　カイの手を引こうとする僕の背に、涙声があたる。


「急にこんなことを言って、ごめん！
　伴侶のことはちょっと早急すぎたから、それはなかったこととして、どうか話だけでも聞いてくれないかな！
　僕のお兄ちゃんを、たすけて欲しいんだ──！」

「……お兄ちゃん？」

　つい、止まって聞いてしまいました……


「ラゼン王国の王太子だった人だ」


　………………………………。


　もしゃもしゃさん、ロイヤルな人らしいよ──！


　きゃ──！