悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです？

むちゅう

「ぼ、ぼぼぼぼ僕が、お兄ちゃんに魔力を補給するよ！
　僕、光魔法は苦手だけど、魔力量は多いって！」

　真っ赤なトトラが胸をたたく。

　鼻血があふれそうなトトラに、そっと白いハンカチを差しだした僕は、深くうなずいた。


「ずっと一緒にいたトトラくんのほうが、きんにくひめの魔力になじむかも。
　がんばって、トトラくん！」

「がんばる！　ユィリくん、一緒にがんばろうね！」

　かたい握手をかわした！


「ユィリが治癒魔法を使う前に、トトラが魔力を補給しておいたほうがいいかもしれないね」

　顎に手をあてるセゥスに、アーシェもうなずいた。

「衝撃に耐えるためにも、魔力が多いほうがいいかも。
　今までずっと蓄えた魔力を使ってきているなら、枯渇状態かもしれない」

　泣きそうなトトラが跳びあがる。

「ぼ、僕は、おおおお兄ちゃんに、ちゅうしてればいいのかな──！？」

　目的が違ってきてるよ、トトラ──！


「魔力補給をお願い。最初はゆっくり。拒絶反応が激しかったら、止めるから」

　僕の言葉に、こっくりトトラがうなずいた。

「わ、わかった！　い、今から──！？」

「やってみて」

　真っ赤なトトラが、唇をとがらせる。


「ちゅう！」

　むっちゅり。

　……ちゅうしてる……！

　血のつながりは全くないみたいだし、相思相愛ならいいと思うけど……！

　いや、もしかして、これでラディが起きるという可能性もあるのでは！？

　だって、ねむれる、きんにくひめだから！


「おお！　起きるかな？　これで起きたら、お話みたいだね！
　トトラくんが、きんにくひめの、王子さまだよ！」

　アーシェくんも、わくわくしてる！

　真っ赤になったトトラが、やる気だ！


「むちゅうぅうう」


　……………………。

　しばらく、ちゅうを、皆で見守りました。


　──ねむれる、きんにくひめ、起きないね？

　トトラは、きんにくひめの王子さまじゃないのかな……？


「……うん、なんか無理そうだから、俺が、つっこむけど。
　口じゃなくて、魔脈、首にあるだろ。そこに口をつけるんだよ」

　のーすちゃんが、トトラの肩を、ぽんぽんしてる。


「そ、そそそそうなの！？」

「いや、ゆーりに補給するのを見てただろう──！」

　のーすちゃんにつっこまれたトトラが、ちょっと泣きそうになってる。


「首、首ね」

　きんにくひめの首に、ちゅっちゅしていたトトラが目をみはる。


「あ、ここ……！」

「そこに口から、ゆっくり魔力を注いで。そうっとね」

　僕の言葉に、顔をあげたトトラがうなずいた。


「わ、わかった……！」

　そうっとトトラが魔力を注ぐ。


「痛い？」

　聞いたら、唇をつけたままのトトラが、ぽーっとささやいた。


「……めちゃくちゃ、きもちいー……」

「おお！　相性がいいんだよ。ゆっくり、魔力を補給して」

「わ、わかった！」

　ちゅうう

　……そ、そんなに、ちゅうしなくてもいいんじゃないかな……？

　吸わなくていいんだよ──！

　魔力を注ぐ……

　あわあわする僕の目を、セゥスの大きなてのひらが覆う。


「まあ、がんばってるみたいだから。そっとしておいてあげてもいいかも」

　喉を鳴らして笑うセゥスさまが、今日もとびきり、かっこいーです……！

　きゃ──！