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さいじゃく……!
しおりを挟む海の男なお兄ちゃんが、大変なことは理解した。
くるしい弟のために、お兄ちゃんが、ひどいことさえ、してしまいそうなことも。
でもここで、大切なお話があるのです……!
希望にすがるような、ささやきに、僕は答える。
「僕の魔力は、世界最弱なの」
「…………は……?」
ぽかんとするお兄ちゃんに、真実を告げる。
「僕ができるのはせいぜい、ちょこっとしたすり傷を治すことだけだよ」
「………………はァ──!?
だ、だって、ラディ元王太子殿下の魔脈瘤を治したのは、もっちもっちだろう──!」
「誰から聞いたの?」
自分でもびっくりするくらい、低い声だった。
……おぉ、悪役令息っぽい!
悪役令息じゃなくなりたいけど、がんばるときには、ちょこっと悪役令息っぽくてもいいのかも……?
よし、キリっとユィリで、がんばるよ……!
ちいさな手をにぎる僕に、お兄ちゃんが目を落とした。
「…………聞いてねえ」
低い声が答える。
「じゃあ、どうしてそう思ったの?」
「……見たから」
「…………え…………?」
きょとんとする僕に、海の男なお兄ちゃんは首を振る。
「ここから先は秘密。
助けを呼ばれても困るし。
なんだよ、あの従僕。めちゃくちゃ強いだろ」
吐き捨てる、お兄ちゃんに、首をかしげた。
「カイ?」
皆が言うから、よっぽど強いんだね。
カイ、すごい!
なぜ、僕みたいな、よわよわ悪役令息の従僕に……?
立派に帰れたら、聞いてみよう!
「そんなに強いカイがいるのに、よく僕のこと連れ出せたね」
感心する僕に、お兄ちゃんは唇の端を上げた。
「ほめて、おだてて、口を割らせようって魂胆だろう。
その手には乗らないぞ。
ちょっと頭が回るようになってきたじゃないか、もっちもっち」
……………………。
素直に感嘆しただけだなんて言えない……!
僕、駆け引きとか苦手だよ──!
どうしたらいいの、カイ……!
……っ
だめだ──!
ここで泣いちゃうと、僕は、よわよわなままだよ……!
ちゃんと自分の頭で考えなきゃ!
「ふにゅ!」
目に力をこめる。
泣いちゃわないようにね。
「ぶ──!」
吹き出したらしい、お兄ちゃんの肩が揺れている。
……弟のために頑張ってるだけだし、あんまりひどい人じゃないみたいだよ……?
ここはちょこっと仲良くなって『ひどいことしないでくださいオーラ』を出したい……!
とりあえず
「僕、ゆりちゃんだよ」
名乗ってみました。
愛称で。
全然違う名前を言っちゃうと、反応できなくて、偽名ってバレバレなので──!
「あなたのお名前は?」
聞いてみました。
「海」
つぶやきに、目をみはる。
……懐かしい、前世の発音だった。
──……海には、前世の記憶がある……?
『……もしかして、転生者……?』
聞いたら、海に、僕が転生者であると打ち明けることになってしまう。
──今は、聞いたら、だめだ。
「……ウミくん……?」
大陸共通語の発音に変える。
「海でいい。ユィリ」
呼ばれた僕は、首をふる。
「その呼び方を、使わないで」
自分でびっくりするくらい、冷たい声だった。
「……え……?」
きょとんとする海に、告げる。
「そう呼んだら、僕は協力しない」
『ユィリ』
僕を呼ぶのは、セゥスさまだけだから。
呼んでほしいのは、セゥスさまだけだから。
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