112 / 148
いやいやいや
しおりを挟む「…………え…………いやいやいや、海って……!」
あわあわする僕に、かっこいい青年が笑う。
「見る?
あんまり身を乗りだすと落ちるけど。
ロベナにもラゼンにも海がないから、めずらしいでしょう」
そうだよ!
ロベナ王国もラゼン王国も内陸にあって、海なんてないんだよ。
初めて見たよ!
前世の記憶には、海あります。
波打ち際で、ひとりでぱちゃぱちゃして『きゃー♡ つめたーい♡』ひとりでやって、ひとりで貝殻を拾った記憶はあります……!
水着で彼氏と、いちゃいちゃした記憶は、ない──!
さみしいことを思い出した……!
「ど、どどどどどどどうやって、こんなところに……!
っていうか、僕ふつうに寝ただけなんだけど──!」
こんな状況、ないよね!?
楽しそうに髪をかきあげた青年が、かがむ。
つやつやの闇の髪が、僕の前で、さらりと流れた。
「知りたい?」
「ぜひ!」
うなずいたら、薄めの唇が、吊りあがる。
「素直だなあ。
敵とお話をする時は、もうちょっと警戒して、きちんと取引しないと。
損しちゃうよ」
にっこり笑う海の瞳が、全く全然笑っていない。
──敵……!
……こわい……!
たすけて、カイ──!
セゥスさま……!
のーすちゃん……!
サザお兄ちゃん……!
思ってしまった僕は、間違いない。
──よわよわ悪役令息だ。
僕は、悪役令息じゃなくなるんだ。
つよつよの立派な、元悪役令息に──!
勇気をだして、敵とも立派に交渉して、ちゃんと1人で、お家に帰るんだよ!
そう、立派な主人公のように!
……僕なんて、よわよわで、誰の目にも止まらない、踏みつけられて、笑われる悪役令息だと思っていたけれど。
どんなに自分が、いるのか、いないのかさえわからない、モブみたいに思えても。
どんなに自分の人生が情けなく、つまらなく思えても。
……それでも自分の人生の主人公は、いつだって僕だ。
僕の今までは、変えられない。
でも僕のこれからは、きっと僕が──僕だけが、変えられる……!
ふるえる手を、ぎゅっと、にぎる。
顔を、あげる。
「ど、どうして僕を、こんなところに連れてきたの……?」
頑張ってだした声は、ふるえてた。
涙目だよ。
うるうるだよ。
泣いちゃいそうだよ。
でもちゃんと僕、お家に帰るからね!
カイに、セゥスさまに、のーすちゃんに、家族のみんなに『僕、帰ってきたよ!』ひとりで立派に言えるようになるからね……!
ぷるぷるな拳の僕に、青年は告げる。
「君をさらう理由なんて、ひとつしかないでしょう」
「……もっちもっち……?」
「違う──!」
つっこみが素早いです。
「……誰か、くるしい人がいる……?」
そうっと聞いた僕の前で、青年の少し長い髪が潮風に揺れる。
「……弟の命が、危ない」
絶望の声だった。
「手荒な手段を取ったことは謝る。
でも正式に交渉して、君を派遣してもらえるとは思えない。
君は国が秘匿するだろう、稀代の力を持つ治癒士だ。
俺たちのような小さな島国が懇願したって、莫大な金を請求されるか、不利な条件で通商条約を結ばされるかだ。
……そんな交渉をしている間に、弟は……!」
嘆きと、痛み、くるしみの声だ。
僕へと向けられたのは、きっと、最後の希望だ。
────────────────
ずっと読んでくださって、ほんとうにありがとうございます!
ご心配おかけしてごめんなさい!
ユィリは無事です!
昨日書くの忘れて、今日もちょっと忘れてて遅れましたが!(笑)おじいちゃんとユィリの動画ができました!(笑)
もしよかったら、プロフのwebサイトからどうぞです!
どうやってユィリをさらったのかは、ちょっとしばらく秘密かもしれません? たぶん?(笑)
無事なので、ご心配なく、楽しんでくださったらとてもうれしいですー!
1,033
あなたにおすすめの小説
夫には好きな相手がいるようです。愛されない僕は針と糸で未来を縫い直します。
伊織
BL
裕福な呉服屋の三男・桐生千尋(きりゅう ちひろ)は、行商人の家の次男・相馬誠一(そうま せいいち)と結婚した。
子どもの頃に憧れていた相手との結婚だったけれど、誠一はほとんど笑わず、冷たい態度ばかり。
ある日、千尋は誠一宛てに届いた女性からの恋文を見つけてしまう。
――自分はただ、家からの援助目当てで選ばれただけなのか?
失望と涙の中で、千尋は気づく。
「誠一に頼らず、自分の力で生きてみたい」
針と糸を手に、幼い頃から得意だった裁縫を活かして、少しずつ自分の居場所を築き始める。
やがて町の人々に必要とされ、笑顔を取り戻していく千尋。
そんな千尋を見て、誠一の心もまた揺れ始めて――。
涙から始まる、すれ違い夫婦の再生と恋の物語。
※本作は明治時代初期~中期をイメージしていますが、BL作品としての物語性を重視し、史実とは異なる設定や表現があります。
※誤字脱字などお気づきの点があるかもしれませんが、温かい目で読んでいただければ嬉しいです。
【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる
木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8)
和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。
この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか?
鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。
もうすぐ主人公が転校してくる。
僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。
これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。
片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。
【本編完結】攻略対象その3の騎士団団長令息はヒロインが思うほど脳筋じゃない!
哀川ナオ
BL
第二王子のご学友として学園での護衛を任されてしまった騎士団団長令息侯爵家次男アルバート・ミケルセンは苦労が多い。
突撃してくるピンク頭の女子生徒。
来るもの拒まずで全ての女性を博愛する軽薄王子。
二人の世界に入り込んで授業をサボりまくる双子。
何を考えているのか分からないけれど暗躍してるっぽい王弟。
俺を癒してくれるのはロベルタだけだ!
……えっと、癒してくれるんだよな?
【第一部・完結】毒を飲んだマリス~冷徹なふりして溺愛したい皇帝陛下と毒親育ちの転生人質王子が恋をした~
蛮野晩
BL
マリスは前世で毒親育ちなうえに不遇の最期を迎えた。
転生したらヘデルマリア王国の第一王子だったが、祖国は帝国に侵略されてしまう。
戦火のなかで帝国の皇帝陛下ヴェルハルトに出会う。
マリスは人質として帝国に赴いたが、そこで皇帝の弟(エヴァン・八歳)の世話役をすることになった。
皇帝ヴェルハルトは噂どおりの冷徹な男でマリスは人質として不遇な扱いを受けたが、――――じつは皇帝ヴェルハルトは戦火で出会ったマリスにすでにひと目惚れしていた!
しかもマリスが帝国に来てくれて内心大喜びだった!
ほんとうは溺愛したいが、溺愛しすぎはかっこよくない……。苦悩する皇帝ヴェルハルト。
皇帝陛下のラブコメと人質王子のシリアスがぶつかりあう。ラブコメvsシリアスのハッピーエンドです。
【完結】Restartー僕は異世界で人生をやり直すー
エウラ
BL
───僕の人生、最悪だった。
生まれた家は名家で資産家。でも跡取りが僕だけだったから厳しく育てられ、教育係という名の監視がついて一日中気が休まることはない。
それでも唯々諾々と家のために従った。
そんなある日、母が病気で亡くなって直ぐに父が後妻と子供を連れて来た。僕より一つ下の少年だった。
父はその子を跡取りに決め、僕は捨てられた。
ヤケになって家を飛び出した先に知らない森が見えて・・・。
僕はこの世界で人生を再始動(リスタート)する事にした。
不定期更新です。
以前少し投稿したものを設定変更しました。
ジャンルを恋愛からBLに変更しました。
また後で変更とかあるかも。
完結しました。
すべてはあなたを守るため
高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです
【本編完結】断罪される度に強くなる男は、いい加減転生を仕舞いたい
雷尾
BL
目の前には金髪碧眼の美形王太子と、隣には桃色の髪に水色の目を持つ美少年が生まれたてのバンビのように震えている。
延々と繰り返される婚約破棄。主人公は何回ループさせられたら気が済むのだろうか。一応完結ですが気が向いたら番外編追加予定です。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる