悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ

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いやいやいや

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「…………え…………いやいやいや、海って……!」

 あわあわする僕に、かっこいい青年が笑う。


「見る?
 あんまり身を乗りだすと落ちるけど。
 ロベナにもラゼンにも海がないから、めずらしいでしょう」

 そうだよ!
 ロベナ王国もラゼン王国も内陸にあって、海なんてないんだよ。

 初めて見たよ!

 前世の記憶には、海あります。
 波打ち際で、ひとりでぱちゃぱちゃして『きゃー♡ つめたーい♡』ひとりでやって、ひとりで貝殻を拾った記憶はあります……!

 水着で彼氏と、いちゃいちゃした記憶は、ない──!

 さみしいことを思い出した……!



「ど、どどどどどどどうやって、こんなところに……!
 っていうか、僕ふつうに寝ただけなんだけど──!」

 こんな状況、ないよね!?

 楽しそうに髪をかきあげた青年が、かがむ。
 つやつやの闇の髪が、僕の前で、さらりと流れた。

「知りたい?」

「ぜひ!」

 うなずいたら、薄めの唇が、吊りあがる。

「素直だなあ。
 敵とお話をする時は、もうちょっと警戒して、きちんと取引しないと。
 損しちゃうよ」

 にっこり笑う海の瞳が、全く全然笑っていない。

 ──敵……!

 ……こわい……!


 たすけて、カイ──!

 セゥスさま……!

 のーすちゃん……!

 サザお兄ちゃん……!


 思ってしまった僕は、間違いない。

 ──よわよわ悪役令息だ。



 僕は、悪役令息じゃなくなるんだ。

 つよつよの立派な、元悪役令息に──!


 勇気をだして、敵とも立派に交渉して、ちゃんと1人で、お家に帰るんだよ!

 そう、立派な主人公のように!



 ……僕なんて、よわよわで、誰の目にも止まらない、踏みつけられて、笑われる悪役令息だと思っていたけれど。


 どんなに自分が、いるのか、いないのかさえわからない、モブみたいに思えても。

 どんなに自分の人生が情けなく、つまらなく思えても。

 ……それでも自分の人生の主人公は、いつだって僕だ。


 僕の今までは、変えられない。

 でも僕のこれからは、きっと僕が──僕だけが、変えられる……!



 ふるえる手を、ぎゅっと、にぎる。

 顔を、あげる。


「ど、どうして僕を、こんなところに連れてきたの……?」


 頑張ってだした声は、ふるえてた。

 涙目だよ。

 うるうるだよ。

 泣いちゃいそうだよ。

 でもちゃんと僕、お家に帰るからね!

 カイに、セゥスさまに、のーすちゃんに、家族のみんなに『僕、帰ってきたよ!』ひとりで立派に言えるようになるからね……!


 ぷるぷるな拳の僕に、青年は告げる。


「君をさらう理由なんて、ひとつしかないでしょう」

「……もっちもっち……?」

「違う──!」

 つっこみが素早いです。


「……誰か、くるしい人がいる……?」

 そうっと聞いた僕の前で、青年の少し長い髪が潮風に揺れる。


「……弟の命が、危ない」

 絶望の声だった。


「手荒な手段を取ったことは謝る。
 でも正式に交渉して、君を派遣してもらえるとは思えない。
 君は国が秘匿するだろう、稀代の力を持つ治癒士だ。
 俺たちのような小さな島国が懇願したって、莫大な金を請求されるか、不利な条件で通商条約を結ばされるかだ。
 ……そんな交渉をしている間に、弟は……!」


 嘆きと、痛み、くるしみの声だ。

 僕へと向けられたのは、きっと、最後の希望だ。











────────────────


 ずっと読んでくださって、ほんとうにありがとうございます!

 ご心配おかけしてごめんなさい!

 ユィリは無事です!

 昨日書くの忘れて、今日もちょっと忘れてて遅れましたが!(笑)おじいちゃんとユィリの動画ができました!(笑)
 もしよかったら、プロフのwebサイトからどうぞです!

 どうやってユィリをさらったのかは、ちょっとしばらく秘密かもしれません? たぶん?(笑)

 無事なので、ご心配なく、楽しんでくださったらとてもうれしいですー!




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