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ぴーぴーぴー
しおりを挟む「じゃあ、ゆり」
素直に僕の言うことを聞いてくれる海くんは、いい人かも……?
さっそく、ほだされそうな僕……!
「それでどうやって僕をさらったの?」
もう1回聞いてみた。
「だからそれは内緒」
引っかかってくれなかった。
残念!
「じゃあこれから僕たちはどこへ行くの?」
「それも内緒」
微笑んだ海の、めちゃくちゃかっこいい顔が近くなる。
「目隠しするから。
海のこと詳しくないと、どこに向かってるかわからないと思うけど、一応な」
闇色の布が僕の視界を覆ってゆく。
「変な特技とかあったら困るから、いちおう手足は縛ってある。
あんまり抵抗しないで。
手荒なことを、これ以上したくない」
ちいさな声が、船にぶつかる波の音と、吹きつける潮風の音に消えていく。
「何か困ったことがあったら、口で言って」
海の言葉に、手をあげられない僕は、仕方なく口をもごもご動かした。
「あの……」
「何。
帰してほしいとかは、聞けないから」
こわばる声に、首を振りかけて止まる。
首を振ることさえ、切ないくらい
「……ぎぼぢわるぃ……」
「…………え……?」
「きらきらしたものが、戻ってきそう……」
船酔いです──!
「あー、ごめん。
くるしいな」
背中をさすってくれる海くんは、いい人かも……?
「これ飲んで。
酔い止めの薬。
ちょっと、ましになるかも」
薬草を煎じたドロドロの液体を飲ませてくれました……
すんごい匂いがしたけど、さらに戻ってきそうな気もしたけど、ちょこっと楽になったみたい……?
「ありがとう」
「……いや。……その……ごめん。
できるだけ、ひどいことしないようにするから」
ちいさな声に、背中をさすってくれる、あたたかな手に、うなずく。
「でも僕のこと連れて行っても、たぶん、ほんとうに、ちょこっとしたすり傷しか治せないよ」
考えこむように、海が黙った。
「……確か、めちゃくちゃかっこいい男どもを、はべらせてたな……?」
………………。
人聞きがわるい! それ、とっても悪役令息っぽいかも!
「き、気のせいじゃないかな!」
目隠しを下げてくれた海が、僕の目をのぞきこむ。
「……もしかして魔力補給か?
水と光の魔力を補給してもらって魔法を発動してる?」
「ぴーぴーぴー」
口笛を吹いてみました。
いや、ほんとうは
「ぷすぷすぷす」みたいだったけど!
口笛を吹くのって、むずかしいよね!?
「わかりやす……!」
……笑われてしまいました……
やっぱり僕、よわよわなの……!?
くしゃりと長い指が僕の頭をなでてくれる。
「光魔法を使える人は貴重だけど、うちにもいる。
俺は水魔法が使えるから」
もしかしなくても、激痛の魔力補給──!?
「い、痛いのは無理──!」
泣いちゃう!
「そこはちょっと頑張って。
弟を治してくれたら、絶対無事に帰すから」
ちいさく笑った海が、僕の手を約束するように、にぎってくれる。
「……無理だったら……?」
海の髪が潮風に流れる。
「…………帰るのはちょっと難しくなるかもな」
低い声で告げた海が、ふたたび僕の目を、闇で覆った。
* * *
「おはよう、ユィリ。
よく眠れた?」
いつもの通り、セゥスは白い天蓋の向こうに声をかけた。
大きな寝台で、小さく丸くなるユィリを朝いちばんに抱きしめられる、しあわせを思ったセゥスの顔が、とろける。
人形だった自分を、変えてくれたのは、ユィリだ。
自分にほんとうの命を吹きこんでくれたのは、ユィリだ。
愛をおしえてくれたのは、ユィリだ。
「ユィリ、あいしてる」
ささやける、しあわせを噛み締めながら、抱きしめたユィリは、ぽふりと潰れた。
「…………ユィリ……?」
……これは、ユィリじゃない。
──……枕だ。
「ユィリ──!?」
自分の喉からあふれると思えぬ悲鳴が、朝を裂いた。
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