悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ

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きみのために

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 セゥスの断言に、ちょっと赤くなったアーシェは、すぐに笑顔を引き締めた。

「……もしかしたら、僕の治癒魔法が他の人より強いのも、ユィリくんの治癒魔法が、この世界では治せないはずの体内を治せるのも──……異世界転生特典なのかもしれません」

 ひそやかな声だった。

 ……イセカイ、テンセイ……?

 それは……ユィリをさらった敵だけじゃなく、アーシェまで……さらに……ユィリ、も……?

 皆がぼうぜんとしたのがわかったのだろう、慌てたようにアーシェは続ける。

「……あ、言うべきじゃなかった……?  ばらしちゃった、ごめん、ユィリくん!
 で、でも、今は緊急事態だから──!」

 ひとりでわたわたしたアーシェが、咳払いして愛らしい顔を引き締める。


「そ、そういう前世の記憶がある人に、特殊能力があるのかもしれない、ということしかわかりません。
 ユィリくんをさらった人に関しての心あたりは、ありません」

「特殊能力……誰か思いつく人はいるだろうか」

 見回したセゥスに、カイが顔をあげる。


「……俺の師匠が、化け物のように強いです。……あれは、人の限界を超える。……おそらく、そのイセカイテンセイかと。
 師匠なら、ゆりさまを追えるかもしれない──!」

 それは、希望だ。
 唯一の。


「逢いに行く。連れていってくれ」

 即断するセゥスに、一瞬、息をのんだ皆が、すぐにうなずいた。

「俺も行く」

「行こう」

 ノゥスが、トトラが、サザが、ラディが、アーシェがうなずくのを見渡したカイは、首をふる。


「俺に勝てる人しか、来ないでください。
 足手まといになるどころか、命が危うくなる。
 相手は──俺より強い」

 低い声だった。
 息を止めた皆が、硬直する。

 セゥスはしずかに唇を開いた。


「僕なら、勝てる。
 僕は行く」

 声は、ふるえなかった。

 カイの瞳が、セゥスを射る。


「……俺に、勝てる……?」

 挑むような低い声に、ゆっくり、うなずいた。

「生まれたときから王太子で、王になると思って生きてきた。ユィリを王配に。決まったときから研鑽を積んだ。
 いつ暗殺されてもおかしくないユィリを、守るために」


 治癒魔法の力を、あまり使わないユィリは、貴族たちから糾弾されることが多かった。

『ほんとうに治癒の力があるのか?』

『使えないんだ、大したことないのだろう』

『いや、ほんのちょっぴしだが、あるにはあるらしい』

『だから王太子殿下の伴侶(予定)なんだ』

『……ああ、じゃあ、いなくなれば問題ないな……?』

 聞いたときは、背が凍った。


 僕が、守るんだ。

 ちいさなユィリを、この手で──!


 剣術を磨き、鍛錬に励んだ。
 だがセゥスに使えるのは、光魔法だった。

 攻撃魔法じゃない。
 浄化の力しかない、やさしい魔法だ。

 何の力にも、なれない。

 絶望しなかったのは


『セゥスさま』

 僕の手をにぎって、笑ってくれるきみのためなら。


『ぼく、セゥスさまの、はんりょ? になるの?
 ずっと、いっしょの、やくそく?
 うれしい、セゥスさま』

 ふくふくのほっぺを紅くして、とろけるように笑ってくれる、きみのためなら。


『セゥスさま、おーたいし? ぼく、よく、わからないけど。
 セゥスさまと、いっしょ、うれしい』

 身分じゃない、地位じゃない、金でもない、光魔法でもなく、ただセゥスを求めてくれた、きみのためなら。


 僕は、どんなことだって、できる気がしたんだ。


 どんなことだって、やってみせる。


 ──きみのために。





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