悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ

文字の大きさ
128 / 148

うなれ!

しおりを挟む



 おじいちゃん??

 目を閉じたまま、びっくりする僕の後ろで、海の声がする。

「じいさま! ごめん、無理を言った!」

 おじいちゃん魔導士? に、海が駆け寄る音がする。
 走ってきてくれたのだろう、切れた息で、ぜえぜえしながら、おじいちゃんのしゃがれた声がした。

「あなたが、治癒士、ユィリ殿ですな。
 ……海さまが、手荒な真似でお連れしたと。申しわけありませんでした」

 胸に手をあてて、膝を折ってくれているのかもしれない、おじいちゃんの衣擦れの音に、目を閉じたまま僕は首をふる。

「その話は後で。光の魔力の補給をお願いします!」

「うけたまわりましたぞ!」

 海とおじいちゃんが、かがんでくれる気配がする。


 ふたりに、首にちゅうされるけど、浮気じゃないからね、セゥスさま……!

 どきどきしつつ、お待ちした。



 どきどき

 ……どきどき

 どきどき?



 ………………???

 あれ?

 ごつごつの手と、しわしわのやわらかな手が、僕の手をにぎってくれる。


 ???


「…………え…………? あ、あれ? 首に、ちゅうっとするんじゃ……?」

 きょとんとする僕に、海と、おじいちゃんが、息をのむ音がした。


「……いや、うん、それは……まあ、効率はいいんだけど……する?」

 はずかしそうな小さな声で、ぽそぽそ告げる海の隣で、おじいちゃんが、跳びあがる音がする。

「危険ですじゃ! わしは、ユィリ殿とは初対面です。
 魔脈にじかに魔力を注ぐと拒絶反応が出て、激痛が走ります。絶対してはいけないことですじゃ!」

 ……な、なるほど……?

 絶対してはいけないことだった!

 それで、くーちゃんのときは、めちゃくちゃ痛かったんだね!


「手をつないで魔力補給は、効率は落ちますが、痛みも随分とましになります。手で、ゆきましょう。
 あまりに痛いと、治癒魔法を使うどころではありませんでしょう」

 そのとおりです!

 あぎゃぎゃぎゃぎゃ……! って僕がなってたら、穴をふさぐ意識が飛んじゃう!

 それに海くんに、ちゅうしてもらったら、いくら緊急事態で、多紀くんの命をちょっとでも助けるためとはいえ、セゥスさまが泣いちゃったら大変なので!

 ……泣いてくれるかな……?

 しかられちゃうかも……!

 きゃ──!

 でも泣かれても、しかられても、痛くても、苦しくてもやるつもりでしたが、手をにぎって魔力補給ができるなら、それに越したことはないのです!

 僕の手を、おじいちゃんのしわの手と、海くんのごつごつの手が、にぎってくれる。


 海くんの、ひんやり冷たい水の魔力と、おじいちゃんの、あたたかな光の魔力が、僕のなかに、そうっと入ってくる。

 痛くしないように気をつけてくれているのだろう、少しずつ、少しずつ入ってくる魔力は、ビリビリ痛い、はずなのに。

 ふたりの、多紀くんを思う気もちが、僕のことを思いやってくれる気もちが、痛みを抑えてくれる。

 カラカラだった僕の身体に、やさしい魔力が満ちていく。


 生まれてからずうっと、何の修練もしてこなかった僕は、魔素を練りあげて魔力にするのがまず下手っぴで、頑張って作った魔力も、いまいちっぽい……

 せつない!

 でも、この僕がうまくつくれない魔力を、熟練の皆さまに補給してもらうと、僕、めちゃくちゃパワーアップなのです!

 りにゅーあるだいふくユィリ!

 チョコ生クリーム入りましたみたいな?


 元気10倍!

 勇気100倍!

 魔力10000倍!



「ふにににに──!」

 僕の髪が、舞いあがる。

 緑のひかりが、噴きあがる。


 真っ暗な穴に、僕のひかりが満ちてゆく。






しおりを挟む
感想 326

あなたにおすすめの小説

夫には好きな相手がいるようです。愛されない僕は針と糸で未来を縫い直します。

伊織
BL
裕福な呉服屋の三男・桐生千尋(きりゅう ちひろ)は、行商人の家の次男・相馬誠一(そうま せいいち)と結婚した。 子どもの頃に憧れていた相手との結婚だったけれど、誠一はほとんど笑わず、冷たい態度ばかり。 ある日、千尋は誠一宛てに届いた女性からの恋文を見つけてしまう。 ――自分はただ、家からの援助目当てで選ばれただけなのか? 失望と涙の中で、千尋は気づく。 「誠一に頼らず、自分の力で生きてみたい」 針と糸を手に、幼い頃から得意だった裁縫を活かして、少しずつ自分の居場所を築き始める。 やがて町の人々に必要とされ、笑顔を取り戻していく千尋。 そんな千尋を見て、誠一の心もまた揺れ始めて――。 涙から始まる、すれ違い夫婦の再生と恋の物語。 ※本作は明治時代初期~中期をイメージしていますが、BL作品としての物語性を重視し、史実とは異なる設定や表現があります。 ※誤字脱字などお気づきの点があるかもしれませんが、温かい目で読んでいただければ嬉しいです。

【本編完結】断罪される度に強くなる男は、いい加減転生を仕舞いたい

雷尾
BL
目の前には金髪碧眼の美形王太子と、隣には桃色の髪に水色の目を持つ美少年が生まれたてのバンビのように震えている。 延々と繰り返される婚約破棄。主人公は何回ループさせられたら気が済むのだろうか。一応完結ですが気が向いたら番外編追加予定です。

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

すべてはあなたを守るため

高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです

【完結】Restartー僕は異世界で人生をやり直すー

エウラ
BL
───僕の人生、最悪だった。 生まれた家は名家で資産家。でも跡取りが僕だけだったから厳しく育てられ、教育係という名の監視がついて一日中気が休まることはない。 それでも唯々諾々と家のために従った。 そんなある日、母が病気で亡くなって直ぐに父が後妻と子供を連れて来た。僕より一つ下の少年だった。 父はその子を跡取りに決め、僕は捨てられた。 ヤケになって家を飛び出した先に知らない森が見えて・・・。 僕はこの世界で人生を再始動(リスタート)する事にした。 不定期更新です。 以前少し投稿したものを設定変更しました。 ジャンルを恋愛からBLに変更しました。 また後で変更とかあるかも。 完結しました。

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

もう観念しなよ、呆れた顔の彼に諦めの悪い僕は財布の3万円を机の上に置いた

谷地
BL
お昼寝コース(※2時間)8000円。 就寝コースは、8時間/1万5千円・10時間/2万円・12時間/3万円~お選びいただけます。 お好みのキャストを選んで御予約下さい。はじめてに限り2000円値引きキャンペーン実施中! 液晶の中で光るポップなフォントは安っぽくぴかぴかと光っていた。 完結しました *・゚ 2025.5.10 少し修正しました。

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。 男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。 メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。 奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。 pixivでは既に最終回まで投稿しています。

処理中です...