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からから
しおりを挟むあの穴が、魔力を吸いこんでる……?
もしかして、吸いこまれないようにって魔力が粘度を増して、ねばねばになってて、それで流れにくくなってる?
じゃあ、あの穴を塞げばいいのかな??
魔脈に、穴があいてる?
僕のちいさな緑のひかりが、闇を照らす。
「……ちがう……」
穴が開いてるのは、魔脈じゃない。
きっと、肺でもない。
心臓だ。
穴が、開いてる。
きっと、閉じているはずの場所に、穴が
セゥスさまのときも、見えた。
真っ暗な闇、あれと同じのが、多紀くんの心臓にある。
たぶん、身体に穴が開いてるのを何とかしようと頑張った魔力でもどうしようもなくて、なのにどんどん吸いこまれちゃって、それでもう吸いこまれないようにって粘度を増して、どろどろになった……?
どろどろになったら、もっと苦しくなっちゃったのかも……!
ちいさな多紀くんの魔力が、身体を必死で何とかしようとして、悪化しちゃったのかもしれない。
前世の僕は、医療従事者じゃなかったみたいで、あんまり詳しくわからないけれど……
聞いたことがある。
心臓の壁に穴が開いていて、酸素のたくさんある血と、ない血が混ざって肺に送られ過ぎてしまって浮腫がおきて、息が苦しくなっちゃうって。
ひどくなると肺も心臓もダメージを受けすぎて治療さえ難しくなってしまう。
この世界は、そんなに医療が発達してるわけじゃない。息がくるしいから、肺がよくないと思われてきたんだろう。
でもほんとうは、心臓に穴が開いていた。
わかったとしても、この世界の治癒魔法では、治せない。外からは見えない、体内のことだからだ。
外科的な手術も、きっとできない。
手のほどこしようがない。
それはきっと、この世界の医士なら誰もが言う言葉なのだろう。
──でも、僕なら。
ちょこっとしたすり傷を治せる僕は、ちょこっとした穴なら、塞げるかもしれない。
セゥスさまの胃の穴が、ちょこっと、ましになったかもしれないなら、きっと。
硬くなってしまった血管に、治癒魔法をかけることは、きっとできる。
穴を塞げたら、きっと多紀くんは、よくなる……!
『希望を、持たないで』
それはきっと、自分をも縛る、鎖だ。
よわよわな僕の、言い訳だ。
『僕なら、できる』
ぜったい無理そうでも、言葉にするだけで、勇気がでるよ。
最初からあきらめたら、なんにもできない。
ひとりでちいさくなって、泣いているだけ。
踏みつけられて、よろこばれる、悪役令息みたいに。
セゥスさまが、多紀くんが、僕に勇気をくれる。
「ウミくん、水の魔力の補給をお願い! 光の魔力の人もすぐ呼んで!」
ここで撤退したら、たぶん二度とたどり着けない。
それにきっと、一瞬でもはやく、治癒魔法を使ったほうがいい。
でも、僕の魔力はもう、カラカラだよ──!
世界の魔素を取りこんでも、見ることくらいならできても、穴を塞ぐのは無理だ。
補給おねがいします!
痛くても、苦しくても、がんばるよ!
「何かわかったのか!」
僕を支えてくれていた海の叫びに、うなずいた。
「タキくんの心の臓に、穴が開いてる」
「し、心の臓に……!? だ、誰もそんなこと……」
うろたえる海の声が、揺れた。
目を明けて、もう穴が見えなくなったら困るから、目を閉じて集中したまま僕はささやく。
「僕のことを、信じてくれるなら、魔力を補給して。
穴を塞げるように、治癒魔法を使う!」
海の手が、ごつごつの手が、僕の手をにぎる。
「わかった。
頼む、ゆり。
すぐ光魔法を使える人を連れてくる──!」
海が走って出ようとした扉が、開く音がする。
「た、多紀さまを、お救い、くださる、と、聞いて……!」
ぜえぜえしてる、おじいちゃんの声がした。
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