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もういちど
しおりを挟む……ほんとうは……ぼく、は……生きたかった……
もういちど……おとうさんに……逢いたかった……
もうひと目……どうか……あなたに……
……あいた、い……
お、とうさ……ん……
願う僕の意識が、消えてゆく。
……しぬのは、こわい。
おとうさんに、もう逢えない。
それでも、リィフェルのさいわいが、自分の死で達せられるなら、輝かしいことな気がした。
こわくても、さみしくても、おとうさんのためになるなら……ぼく、は……
「トェル──!」
あなたの悲鳴に、目を明ける。
──……おとうさんだ。
ひろい、ひろい、ふかい、ふかい森のなかで、ちいさな、ぼくを──
見つけてくれた。
──……どうしてだろう。
絶対に、おとうさんは、来てくれると思った。
絶対に、最期に、あなたに逢えると、信じてた。
はじめて逢ったときも、おとうさんは僕を見つけてくれた。
濁流にのまれ、消えゆく命を燈してくれた。
いつだって
どんな絶望のときだって
あなたが来てくれると、信じてた。
「……しぁ、わせ……あり、あと……おとーた……」
ささやきを、抱きしめられた。
「トェル──!」
悲鳴だった。
リィフェルをとりまく月の光が、爆発する。
「そいつは俺らの獲物だぞ!」
「返せ!」
鋭い爪をふりかざし襲いかかる魔精たちを、リィフェルの月の瞳が貫いた。
ドォオォン──!
何が起こったのかさえ、わからなかった。
森の大樹に叩きつけられ、へしゃげた魔精たちが崩れ落ちる。
「帰ろう、トェル」
おとうさんの腕に抱きあげられる。
……逢いたかった。
おとうさんと、生きたかった。
──……でも……
「……ぼく、は……さぃ、やく……」
逃れようとする僕の身体が、かきいだかれる。
「……おとーた……だ、め……」
首をふる僕の抵抗を封じるように、抱きしめられた。
「生きてくれ、トェル……!」
かすれる声が、ふるえてる。
夢を見ていた気がした。
生まれてすぐ捨てられたのに、リィフェルが救ってくれ、『トェル』あなたの名の一部をくれて、一緒に暮らした、とろけるようにあまい夢を。
そうしてこれが、夢の終わりだ。
凍えゆく手足の感覚は失われ、まぶたはもう開かない。
おとうさんの腕のなかで息絶えるのは、僕にとって、至上のさいわいだ。
「リィフェル──!?」
ノォナとアライアの驚愕が聞こえた。
庵に戻ったのだろうリィフェルと、その腕のなかで事切れそうな僕に息をのむ気配が頬を揺らした。
「ど、ぅ、した、ら……」
リィフェルの声が、ふるえて落ちる。
緑の香りのする腕が、僕を受けとった。
あたたかな指が僕の傷口を洗い、布を巻いてくれる。
「……人間は大きな怪我をすると……しぬ、んだよね……」
ノォナの声が、かすれてる。
「リィフェル、月の水を!」
アライアの叫びに応えたリィフェルが、僕の唇に椀をあてがってくれる。
リィフェルの力を宿した清らな水は、僕の喉へとすすむことなく唇の端から流れ落ちた。
「……もう、飲む力もないのか」
アライアの声が、吐息のように響く。
水をあおる音が、微かに聞こえた。
「リィフェル……!」
ノォナの叫びを裂くように、やわらかなくちびるが、僕のくちびるに、ふれる。
かすかに開いたくちびるに、冷たい清水が落ちてくる。
やさしい吐息がかさなって、月のひかりが、指先まで満ちてゆく。
──……あなたの、力だ。
消えゆく命をつなごうとしてくれる、あなたのひかりだ。
捨てられたときも、今も。
命を、すくってくれる。
「……おとーた……だ、め……」
リィフェルに迷惑をかけたくない。
自分のためにおとうさんが窮地に陥るなんて、あってはならない。
──ほんとうは、おとうさんの傍に、いたい
……おとうさんと一緒に、生きたい
でも、僕は──……
最期の力をふりしぼり、リィフェルから逃げようと首をかたむける僕のくちびるが、くちびるで、ふさがれる。
くちびるが、かさなる。
といきが、かさなる。
ぬくもりが、かさなる。
こどうが、はねる。
「……お、と……た……」
『だめ』を、さらうように、冷たい月の水が、流れこむ。
────────────────
トェルとリィフェルの境遇にもめげず、ずっと読んでくださって、ほんとうに ありがとうございます!
あまりトェルが痛い思いをしたりすると心配してくださったりするかもしれないので『怪我をした』みたいなマイルドな表現に変更しようと思います!
ご心痛をおかけして、 本当に申しわけありませんでした……!
これから修正していくので、すでに投稿してあるお話の表現が変わったり字数が減ったりするかもしれませんが、お話の流れは変わらない予定です。
お気に入りや いいねや エール、 ご感想 、おひとつおひとつが、応援してくださるお気もちが、とてもとてもうれしいです。
ここまでずっと読んでくださった、あなたさまに、心から、ありがとうございます!
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