【完結】お義父さんが、だいすきです

  *  ゆるゆ

文字の大きさ
36 / 90

ひとのせかい

しおりを挟む



「にんげん、の、せかい」

 僕が生まれた世界は、森も陽も月も、何もかもが力弱く色あせて、淡くおぼろに、かすむようだった。

 僕でさえそう感じるのだから、リィフェルが人間界で暮らすことは苦痛に違いない。

「おとーた、ごめ、なさぃ」

 申しわけなく見あげるたび、僕の手をにぎってくれる。

「トェルが謝ることなど、何もない」

 微笑んで、抱きしめてくれた。



 血と汗と死が香る世界でも、リィフェルは問題なく精霊の力を使えるらしい。

 精霊界の清浄な気がないと力をふるうのは難しいらしいのに、リィフェルは毎日僕に月の水を与えてくれた。
 精霊界で汲んだ清水に、リィフェルの力を満たした水だ。

 精霊界のものだが、水と養父リィフェルの力だけならと、至高五天も認可してくれたという。してくれなければ、大怪我を負った僕は、ほどなくしんでしまうだろう。
 月のきみリヴァリゼが嘆願してくれ、緑のきみフォスァルトも許容してくれたという。

 おかげで僕は、息をしている。



「人間界には季節があるんだ。トェルと出逢ったのは冬、今は夏のはじまり。あれは隼、いちばん速い鳥だよ」

 リィフェルが僕をひざに抱いて、お話をしてくれる。
 月の力がしみわたり、あんなに痛かったお腹の傷もふさがってゆく。

 起きあがれるようになり、歩いても痛くなくなるまで、ずいぶんかかった。


「おとーた、あーと、です」

 胸に手をあてる僕の頭を、リィフェルの手がなでてくれる。

「トェルが落ち着いたから、今宵は月の宮に参る。
 魔精や悪しき者が来ぬよう月の結界を張ってあるが、しっかり扉と窓を閉め、留守番をするように」

「あい」

 こくりとうなずく僕の真っ暗な髪が揺れる。

 それは魔精を思いだす忌まわしい色なのかもしれないのに、リィフェルはいつもためらうことなく指を伸ばしてくれた。

 僕の髪をなでて、笑ってくれた。



 夜が降り、月が昇る。

 人間界の淡い月の光にも、リィフェルはきらめくように瞬いた。

 結界を確かめるようにリィフェルの指がふれると、月影を吸いこむように輝く。

「トェルと私は出入りできる。それでもしっかり戸締まりするんだよ」

「あい。
 おとーた、おき、ちゅけて」

 微笑んだリィフェルが僕の頭をなでて、天の月へと舞いあがる。

 見あげるたび、僕は地上を這うように生きる己と、月へと至る父の違いを噛みしめる。

 断崖がそそり立つようで、目をふせた。





「……とじまり」

 僕の血は魔精にとっては美味しいものだったらしい。魔精を異形に変えたのかもしれないという。

 口をふさごうとするリィフェルを制したアライアが教えてくれた。

「後で知るより、真実を知っておいたほうがいい。そのほうがトェルも警戒できる」

 アライアはいつもトェルの、リィフェルのことを考えて言葉をつむいでくれる。

 教えてくれたから、怪我をして血をふりまくことのないように気をつけるようになった。

 しっかり、つっかえ棒をし、窓にかんぬきをかけた僕は寝台でまるくなる。



 おとうさんが、はやく帰ってきてくれますように。


 今、別れたばかりなのに、もう逢いたい。

 恥ずかしさと、慕う想いで火照る頬で、僕はそっと目を閉じた。



 庵の隙間からこぼれる月が、僕の指を照らしてる。










────────────────

 ずっと読んでくださって、ほんとうに、ありがとうございます!
 お気に入り、いいねやエール、ご感想に、応援してくださるお気もちに、とても励まされます。ありがとうございます!

 切ない境遇にもめげず、ずっと読んでくださるあなた様に、感謝の気持ちでいっぱいです。

 涙してくださる方もいらっしゃると伺って、ほんとうに申しわけなく……!
 でもトェルとリィフェルのことを、それほど思ってくださるのかと、ふたりと一緒にとてもうれしいのが、さらに申しわけないのです……!

 ちょこっとでも癒しになったらと思って、トェルとリィフェルの動画を作りました!

 インスタ @siro0088 
 Youtube @BL小説動画 です!

 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。


 いつもはこんな感じのいちゃらぶで(笑)切ないのカケラもない暮らしを送っています(笑)

 もしよかったら、ちょこっと笑ってくださったら、すこしでも癒されてくださったら、とてもうれしいです!






しおりを挟む
感想 76

あなたにおすすめの小説

【完結】かわいい彼氏

  *  ゆるゆ
BL
いっしょに幼稚園に通っていた5歳のころからずっと、だいすきだけど、言えなくて。高校生になったら、またひとつ秘密ができた。それは── ご感想がうれしくて、すぐ承認してしまい(笑)ネタバレ配慮できないので、ご覧になるときはお気をつけください! 驚きとかが消滅します(笑) 遥斗と涼真の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから飛べます! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】もふもふ獣人転生

  *  ゆるゆ
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 もふもふ獣人リトと、攻略対象の凛々しいジゼの両片思い? なお話です。 本編、舞踏会編、完結しました! キャラ人気投票の上位のお話を更新しています。 リトとジゼの動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントなくてもどなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 『伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします』のノィユとヴィル 『悪役令息の従者に転職しました』の透夜とロロァとよい子の隠密団の皆が遊びにくる舞踏会編は、他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きしているので、お気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 ジゼの父ゲォルグ×家令長セバのお話が『ずっと、だいすきです』完結済みです。 ジゼが生まれるお話です。もしよかったらどうぞです! 第12回BL大賞さまで奨励賞をいただきました。 読んでくださった方、応援してくださった皆さまのおかげです。ほんとうにありがとうございました! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

【完結】奪われて、愛でられて、愛してしまいました

  *  ゆるゆ
BL
王太子のお飾りの伴侶となるところを、侵攻してきた帝王に奪われて、やさしい指に、あまいくちびるに、名を呼んでくれる声に、惹かれる気持ちは止められなくて……奪われて、愛でられて、愛してしまいました。 だいすきなのに、口にだして言えないふたりの、両片思いなお話です。 本編完結、本編のつづきのお話も完結済み、おまけのお話を時々更新したりしています。 本編のつづきのお話があるのも、おまけのお話を更新するのもアルファポリスさまだけです! レーシァとゼドの動画をつくりました!(笑) もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから飛べます! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

【完結】双子の兄が主人公で、困る

  *  ゆるゆ
BL
『きらきら男は僕のモノ』公言する、ぴんくの髪の主人公な兄のせいで、見た目はそっくりだが質実剛健、ちいさなことからコツコツとな双子の弟が、兄のとばっちりで断罪されかけたり、 悪役令息からいじわるされたり 、逆ハーレムになりかけたりとか、ほんとに困る──! 伴侶(予定)いるので。……って思ってたのに……! 本編、両親にごあいさつ編、完結しました! おまけのお話を、時々更新しています。 本編以外はぜんぶ、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

神子の余分

朝山みどり
BL
ずっと自分をいじめていた男と一緒に異世界に召喚されたオオヤナギは、なんとか逃げ出した。 おまけながらも、それなりのチートがあるようで、冒険者として暮らしていく。 途中、長く中断致しましたが、完結できました。最後の部分を修正しております。よければ読み直してみて下さい。

【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者

みやこ嬢
BL
【2025/01/24 完結、ファンタジーBL】 リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。 ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。 そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。 「君とは対等な友人だと思っていた」 素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。 【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】 * * * 2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!

処理中です...