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ひとのせかい
しおりを挟む「にんげん、の、せかい」
僕が生まれた世界は、森も陽も月も、何もかもが力弱く色あせて、淡くおぼろに、かすむようだった。
僕でさえそう感じるのだから、リィフェルが人間界で暮らすことは苦痛に違いない。
「おとーた、ごめ、なさぃ」
申しわけなく見あげるたび、僕の手をにぎってくれる。
「トェルが謝ることなど、何もない」
微笑んで、抱きしめてくれた。
血と汗と死が香る世界でも、リィフェルは問題なく精霊の力を使えるらしい。
精霊界の清浄な気がないと力をふるうのは難しいらしいのに、リィフェルは毎日僕に月の水を与えてくれた。
精霊界で汲んだ清水に、リィフェルの力を満たした水だ。
精霊界のものだが、水と養父リィフェルの力だけならと、至高五天も認可してくれたという。してくれなければ、大怪我を負った僕は、ほどなくしんでしまうだろう。
月のきみリヴァリゼが嘆願してくれ、緑のきみフォスァルトも許容してくれたという。
おかげで僕は、息をしている。
「人間界には季節があるんだ。トェルと出逢ったのは冬、今は夏のはじまり。あれは隼、いちばん速い鳥だよ」
リィフェルが僕をひざに抱いて、お話をしてくれる。
月の力がしみわたり、あんなに痛かったお腹の傷もふさがってゆく。
起きあがれるようになり、歩いても痛くなくなるまで、ずいぶんかかった。
「おとーた、あーと、です」
胸に手をあてる僕の頭を、リィフェルの手がなでてくれる。
「トェルが落ち着いたから、今宵は月の宮に参る。
魔精や悪しき者が来ぬよう月の結界を張ってあるが、しっかり扉と窓を閉め、留守番をするように」
「あい」
こくりとうなずく僕の真っ暗な髪が揺れる。
それは魔精を思いだす忌まわしい色なのかもしれないのに、リィフェルはいつもためらうことなく指を伸ばしてくれた。
僕の髪をなでて、笑ってくれた。
夜が降り、月が昇る。
人間界の淡い月の光にも、リィフェルはきらめくように瞬いた。
結界を確かめるようにリィフェルの指がふれると、月影を吸いこむように輝く。
「トェルと私は出入りできる。それでもしっかり戸締まりするんだよ」
「あい。
おとーた、おき、ちゅけて」
微笑んだリィフェルが僕の頭をなでて、天の月へと舞いあがる。
見あげるたび、僕は地上を這うように生きる己と、月へと至る父の違いを噛みしめる。
断崖がそそり立つようで、目をふせた。
「……とじまり」
僕の血は魔精にとっては美味しいものだったらしい。魔精を異形に変えたのかもしれないという。
口をふさごうとするリィフェルを制したアライアが教えてくれた。
「後で知るより、真実を知っておいたほうがいい。そのほうがトェルも警戒できる」
アライアはいつもトェルの、リィフェルのことを考えて言葉をつむいでくれる。
教えてくれたから、怪我をして血をふりまくことのないように気をつけるようになった。
しっかり、つっかえ棒をし、窓にかんぬきをかけた僕は寝台でまるくなる。
おとうさんが、はやく帰ってきてくれますように。
今、別れたばかりなのに、もう逢いたい。
恥ずかしさと、慕う想いで火照る頬で、僕はそっと目を閉じた。
庵の隙間からこぼれる月が、僕の指を照らしてる。
────────────────
ずっと読んでくださって、ほんとうに、ありがとうございます!
お気に入り、いいねやエール、ご感想に、応援してくださるお気もちに、とても励まされます。ありがとうございます!
切ない境遇にもめげず、ずっと読んでくださるあなた様に、感謝の気持ちでいっぱいです。
涙してくださる方もいらっしゃると伺って、ほんとうに申しわけなく……!
でもトェルとリィフェルのことを、それほど思ってくださるのかと、ふたりと一緒にとてもうれしいのが、さらに申しわけないのです……!
ちょこっとでも癒しになったらと思って、トェルとリィフェルの動画を作りました!
インスタ @siro0088
Youtube @BL小説動画 です!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
いつもはこんな感じのいちゃらぶで(笑)切ないのカケラもない暮らしを送っています(笑)
もしよかったら、ちょこっと笑ってくださったら、すこしでも癒されてくださったら、とてもうれしいです!
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