【完結】お義父さんが、だいすきです

  *  ゆるゆ

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いのり

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 陽のひかりの満ちる最奥の宮に、リヴァリゼが足を踏み入れる。
 それだけで、球をえがく広やかな宮の半分に夜が降りた。

 息をのむリィフェルを、ヒメイアがうながす。

「こちらへ」

 ──……ああ、この二精は月のきみと、陽のきみだ。

 圧しひしがれるほどの力だった。

 夜と朝をたたえた宮に、月の力と陽の力が満ちてゆく。

 月の精として最高峰の力を誇るリィフェルの足でさえ、ふるえた。
 人間なら、息もできない。

「はやく」

 リヴァリゼにうながされ、リィフェルは懸命に足を動かした。

 あまりの力に、トェルがつぶれるかもしれない。恐れて、かきいだくトェルのちいさな身体は、息がつまるほど軽かった。精霊にとっての人間の命のように。

 精霊界の頂点に君臨する月のきみと陽のきみが、魔族の血が混じっているのかもしれぬ人間のために、禁術にも等しい秘儀を行ってくれる。

 月のきみを母として生まれたことを、母が自分を慈しんでくれることを、これほど心苦しく、ありがたく思ったことはない。

「おねがいします」

 トェルを掲げ、ひざを折る。

「そこに」

 ヒメイアが示す白石の祭壇に、そっとトェルを横たえた。


 リヴァリゼとヒメイアが、右手を右手に、左手を左手に、トェルを中心に円をえがくように指を重ねる。

 ドォオオオォン──!

 立ち昇る月の力と陽の力に、陽のひかりで編まれた宮が悲鳴をあげるように軋んだ。


 対象が精霊でも、成功する確率は一割を切る。

 消えゆく命を、呼び戻す法だ。

 月のきみ、陽のきみとなった者にしか秘術は伝えられず、二精の力を合わせ、心を合わせねば、発動さえしないという。

 なのにリヴァリゼとヒメイアは瞳を重ねるだけで、指をからめるだけで、最難の術を使役する。

 あふれる月のひかりと陽のひかりが、トェルの周りに重なる螺旋をえがきゆく。


 ──死を、生に。

 死界へと渡ろうとする魂を呼び戻し、滅びゆく身体をよみがえらせる、夢の秘儀だ。


『精霊界史上、至高の二天』讃えられる二精ならトェルの命を救ってくれるかもしれない。

 祈るリィフェルの前で、螺旋が揺れた。
 ちいさなトェルの身体へと注がれようとするひかりが、せき止められたように、ふくれあがる。


「だめだ、我らの力を受ける器がない!」

「壊れる──!」

「……っ……トェル──!」

 駆けこんだリィフェルを、陽のきみと月のきみ、至高二天の力が貫いた。

「ぐ……ぁ……っ」

 リィフェルでさえ弾け飛びそうな、すさまじい力をその身に取りこみ、負担にならぬよう細く細く紡いでリィフェルの力と混ぜ、トェルへと流す。

 トェルはリィフェルの月の力を受けて生きていた。
 リィフェルの力なら、トェルに馴染むはずだ。

「生きて、くれ……トェル……!」

 リィフェルの身体から、月のひかりが噴きあがる。

「……いけるか、リィ」

 心配のにじむリヴァリゼの言葉にうなずいた。

「つづけてください……!」

 ヒメイアとリヴァリゼが手を繋ぐ。
 螺旋をえがく光が、リィフェルへと流れこむ。


 万力で引き千切られそうな痛苦を耐え、リィフェルの力を混ぜ、すこしずつ、すこしずつトェルに注ぐ。

 荒れ狂うひかりの渦すべてをその身にうけるリィフェルが、力の海に溶けてゆく。


「リィ──!」

 母の悲鳴が聞こえた。

 激痛で辛うじて保つ意識で、トェルの生を繋ぐための力を、つむぐ。


 ……痛い。

 くるしい。

 息が、できない。


 そんなこと、きみの命の前では、どうでもいい。




 砕けゆくこの身を、いくらだって捧げるから。


 きみが生きてくれるなら。

 何もいらない。



「トェル……!」


 どうか、もう一度、目を明けて。


『おとーた』

 朱い頬で、笑ってください。














────────────────


 ずっと読んでくださって、ほんとうに、ほんとうに、ありがとうございます……!

 リィフェルの気もちを、めいっぱいこめて、動画を作りました。

 インスタ @siro0088 
 Youtube @BL小説動画 です!

 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

 ご心配、ご心痛をおかけして、ほんとうに申しわけないのですが、ふたりで必ず、しあわせになります!







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