【完結】お義父さんが、だいすきです

恋しい

　昼も夜も暗い世界で、僕はうさぎと暮らしてる。


「きゅ」

　リィフェルを想う僕の涙を、ふわふわの毛で抱きしめてくれる。


「ありがとね」

　鼻声で笑ったら、うさぎの額の角が、きらきら瞬いた。

　いつも薄暗い世界は、樹々や草花や鳥や獣が大きくめずらしい形をしていて、おひさまが紅くてふたつあるくらいで、人間界や精霊界とそれほど違わない。

　ここが魔界なのかどうかも、僕にはよくわからなかった。


　おとうさんに逢いたくて、穴の開いた翼を何とか治したくて、うさぎが見つけてくれる木の実や果物をかじると、僕の手足には力が満ちた。

　あのおそろしい『尻から出る』があるかと戦慄した。


　どきどき、どきどき、どきどき待った。


　………………なかった、みたい？

　涙がこぼれるほど、ほっとした。

　いや、これからあるかもしれないけれど、今は、ない──！


　でも、くちゃくなってしまっても、リィフェルなら抱きしめてくれる気がする。


　──……魔族にならず、リヴァリゼに貫かれる前の僕なら。


　自分をたすけ、リィフェルを守ってくれた翼を、力を、かなしく思うだなんて。



「きゅるる！」

　うさぎが、ぺっしてくれた草の傷にしみる痛みに、さみしい思いが遠くなる。

「うぅ……」

「きゅるる」

　ぽふぽふの前足で慰めてくれる。
　ふわふわのぬくもりに、癒される。


　僕が草を噛んで吐きだして傷口に塗りつけてみても効果がなかったから、うさぎの唾液に不思議な力があるのかもしれない。

　草も何でもいいわけではなく、ぎざぎざの葉の、涼やかな鼻に抜ける香りの草をうさぎは選んでかじってくれた。

「いつも、ありがとう」

「きゅ！」

　紅い瞳がくるりと回って、ちいさな頭を向けられる。

『なでて』

　おねだりまで、かわいい。


　いつまでも、なでなでしていたいうさぎを抱っこして、洞窟の外を探検だ。

　僕も食べられる木の実や果物や薬草を見つけたら

「きゅ」

　ふわふわの前足で、うさぎが教えてくれる。
　今日の分を集めたら、僕はそっと目を閉じる。


　あふれる僕の想いに応えるように、胸の奥から紅いひかりが噴きあがる。

　僕をとりまき、天へと昇ってゆく。



　──あなたに、逢いたい。

　おそばに、いきたい。


　……翼が治ったら、飛んでいってもいいですか。

　答えはきっと──否だ。



　僕は、災いだ。


　だから舞いあがる紅いひかりを偶然見かけて、不思議に思ってほしい。

『逢いたくなんて、なかった』

　言われるかもしれなくても、それでも、どうか


　もう一度、おとーたに、逢えますように


　もういちど、あなたに、逢えますように



　キュアァアア──！

　僕の祈りをのせた紅いひかりが、真っ暗な空へと翔る。


　真っ暗ないかずちを超えて、はるか、はるか、高みまで


　どうか、あなたのもとへ


「精霊界まで、届くかな？」

「きゅ！」

　うさぎが聞いてくれるから、話すのは上手になってきたと思う。


　それでも、あなたを呼ぶのは


「おとーた」


　恋しさが、紅いひかりとなってほとばしり、はるかな天へと昇ってゆく。