【完結】お義父さんが、だいすきです

  *  ゆるゆ

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いきたい

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 迷惑になるから

 ふさわしくないから

 禁忌だから。


 ふりかざす言いわけが、僕にはたくさんあって、ほんとうは、リィフェルに飽きられて、捨てられるのが怖かった。

『もういらない』

 氷の瞳で、氷の声で、捨てられるのが、おそろしかった。


 ……もう二度と、帰ってきてくれなくなったら?

 すべてを捧げて愛して、切り捨てられたら?

 ──しんでしまう。


『おとうさんに捨てられた絶望がふたたび自分を殺す前に、リィフェルが頭をなでてくれるうちに、リィフェルが笑ってくれるうちに、しあわせなまま息絶えたい』

 なんて身勝手で、なんて浅ましい願いを、いだいてしまったのだろう。


「ごめんなさい……!」

 泣く暇はなかった。

 この身に魔族の血がほんとうに流れているのなら、びっくりするような力があるはずだ。


 いらないから、捨てたのだとしても。

 ほんとうのおかあさん、ほんとうのおとうさん。どうか、力を貸してください。


 蔑まれ、おぞましいと言われる力でも。

 桃の樹が救えるかもしれないなら。


 あなたに、もういちど、逢えるなら。


 ──どうか……!


 視界が、真紅に染まった。


 渾身の力をこめた手足が、荒縄を引き千切る。

「な──!」

 僕を取り囲む緑の精霊たちの驚愕が聞こえた。

 懸命に僕が伸ばした手が、緑焔の矢をつかんだ。


「できた……!」

 その瞬間、緑の焔が、噴きあがる。


「──……っ!」


「残念だったな、トェル。
 清らな火は、不浄を祓う。
 刺さらなくとも、ふれるだけで」

 凍てついたフォスァルトの声が、炎の向こうで揺れる。

 緑の火が、僕をのもうと、爆発した。


 ……僕は、ほんとうに、不浄なの……?


「……おかあさん……おとうさん……」

 視界が、燃えてゆく。


「……おとーた……」

 こぼれる涙も、燃えあがる。



 ……不浄なのだとしても。


 あなたを慕う、あまやかに切なく、狂おしい想いが、禁忌なのだとしても。


 ……もういちど、逢いたい……


 何の抵抗もしなかった、できなかっただなんて、一度きりで充分だ。


 魔族の血が、この身に流れているのなら。



「おねがい……!」

 祈りに応えるように、僕の胸から、紅いひかりがあふれてく。


 ドォオン──!

 立ち昇る紅いひかりの柱が、精霊界の天を割る。


「魔族──!」

 緑の精霊たちの、悲鳴が聞こえた。


「チ──!」

 舌打ちしながらアライアが剣を抜く。

 ふりおろされた刃を、掲げた僕の真紅の爪が、ドロリと熔かした。


「化け物め──!」

 憎々し気に吐き捨てるアライアの蔑みに、僕は燃える唇をひらいた。


「……どちらが……?」

 顔を歪めるアライアの後ろから飛びだしたノォナが、緑の焔の矢を放つ。


「しね──!」

 緑の精が一斉に放つ火矢が、僕を指した。



 ──……世界の誰もに、死を願われても。


 この身が、魔族となろうとも。



 あなたに、もう一度逢えるなら。

 ──生きたい。



 僕の想いに応えるように、胸の奥から紅いひかりが噴きあがる。


 ゴォオァアオオ──!

 清らかなのだろう無数の緑の焔が、僕を取りまく紅いひかりにのみこまれ、霧散した。



「な……!」

 愕然とする精霊たちを背に、僕はそっと桃の樹にふれる。


「どうか、長生きできますように」

 桃の樹を守るようにあふれる紅いひかりが、次々と降りそそぐ緑の火矢をのみこんだ。


 僕を見つめる精霊たちの顔から、色が消えてゆく。



 紅いひかりが、緑の焔を駆逐した。

 僕の髪が、肌が、よみがえる。




 緑の炎など存在しなかったかのような手足と真紅の爪で、僕は夜へと舞いあがる。


 背には真っ暗な翼が、広がっていた。







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