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いきたい
しおりを挟む迷惑になるから
ふさわしくないから
禁忌だから。
ふりかざす言いわけが、僕にはたくさんあって、ほんとうは、リィフェルに飽きられて、捨てられるのが怖かった。
『もういらない』
氷の瞳で、氷の声で、捨てられるのが、おそろしかった。
……もう二度と、帰ってきてくれなくなったら?
すべてを捧げて愛して、切り捨てられたら?
──しんでしまう。
『おとうさんに捨てられた絶望がふたたび自分を殺す前に、リィフェルが頭をなでてくれるうちに、リィフェルが笑ってくれるうちに、しあわせなまま息絶えたい』
なんて身勝手で、なんて浅ましい願いを、いだいてしまったのだろう。
「ごめんなさい……!」
泣く暇はなかった。
この身に魔族の血がほんとうに流れているのなら、びっくりするような力があるはずだ。
いらないから、捨てたのだとしても。
ほんとうのおかあさん、ほんとうのおとうさん。どうか、力を貸してください。
蔑まれ、おぞましいと言われる力でも。
桃の樹が救えるかもしれないなら。
あなたに、もういちど、逢えるなら。
──どうか……!
視界が、真紅に染まった。
渾身の力をこめた手足が、荒縄を引き千切る。
「な──!」
僕を取り囲む緑の精霊たちの驚愕が聞こえた。
懸命に僕が伸ばした手が、緑焔の矢をつかんだ。
「できた……!」
その瞬間、緑の焔が、噴きあがる。
「──……っ!」
「残念だったな、トェル。
清らな火は、不浄を祓う。
刺さらなくとも、ふれるだけで」
凍てついたフォスァルトの声が、炎の向こうで揺れる。
緑の火が、僕をのもうと、爆発した。
……僕は、ほんとうに、不浄なの……?
「……おかあさん……おとうさん……」
視界が、燃えてゆく。
「……おとーた……」
こぼれる涙も、燃えあがる。
……不浄なのだとしても。
あなたを慕う、あまやかに切なく、狂おしい想いが、禁忌なのだとしても。
……もういちど、逢いたい……
何の抵抗もしなかった、できなかっただなんて、一度きりで充分だ。
魔族の血が、この身に流れているのなら。
「おねがい……!」
祈りに応えるように、僕の胸から、紅いひかりがあふれてく。
ドォオン──!
立ち昇る紅いひかりの柱が、精霊界の天を割る。
「魔族──!」
緑の精霊たちの、悲鳴が聞こえた。
「チ──!」
舌打ちしながらアライアが剣を抜く。
ふりおろされた刃を、掲げた僕の真紅の爪が、ドロリと熔かした。
「化け物め──!」
憎々し気に吐き捨てるアライアの蔑みに、僕は燃える唇をひらいた。
「……どちらが……?」
顔を歪めるアライアの後ろから飛びだしたノォナが、緑の焔の矢を放つ。
「しね──!」
緑の精が一斉に放つ火矢が、僕を指した。
──……世界の誰もに、死を願われても。
この身が、魔族となろうとも。
あなたに、もう一度逢えるなら。
──生きたい。
僕の想いに応えるように、胸の奥から紅いひかりが噴きあがる。
ゴォオァアオオ──!
清らかなのだろう無数の緑の焔が、僕を取りまく紅いひかりにのみこまれ、霧散した。
「な……!」
愕然とする精霊たちを背に、僕はそっと桃の樹にふれる。
「どうか、長生きできますように」
桃の樹を守るようにあふれる紅いひかりが、次々と降りそそぐ緑の火矢をのみこんだ。
僕を見つめる精霊たちの顔から、色が消えてゆく。
紅いひかりが、緑の焔を駆逐した。
僕の髪が、肌が、よみがえる。
緑の炎など存在しなかったかのような手足と真紅の爪で、僕は夜へと舞いあがる。
背には真っ暗な翼が、広がっていた。
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