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ぼくが
しおりを挟む『トェル』
聞きたくてたまらない声が、聞こえた気がした。
僕の胸からあふれる紅いひかりが、いかずちの空に溶けてゆく。
「おとーた!?」
声のほうへと駆けた僕は、天から落ちてきた精霊に、目をみはる。
いつも月のひかりにきらめく身体が、真っ暗なもやにつつまれ、消えてしまいそうに淡くなっていた。
真っ暗な小さな石をにぎりしめるリィフェルの指が、ふるえてる。
「おとーた……!」
夢中で手をのばしたら
「トェル……!」
かきいだかれる。
おとうさんの香りに、つつまれる。
「あぃ、た、かった……!」
あふれる涙で、あなたが、見えない。
「……トェル……最期に……逢え、て……よ、かっ……た……」
微笑んだリィフェルが、僕の腕のなかで、崩れ落ちた。
「おとーた──!」
僕の胸から噴きあがる紅いひかりが、リィフェルを包み、舞いあがる。
「うさちゃん、おとーたが──!」
ほとばしる悲鳴に、うさぎの紅い瞳がリィフェルを見つめた。
「きゅ」
うさぎの前足が、空を指す。
「え?」
うさぎの後ろ足が、てしてし大地を叩いて、首をふる。
ふわふわの前足が、天を指す。
「ここにいたら、だめ。空の向こうの世界へ?」
「きゅ!」
「でも僕は、飛べない……!」
話す間にも、リィフェルの力が弱まってゆくのを感じていた。
ここがほんとうに魔界なら、おとうさんはいるだけで衰弱してしまうのかもしれない。
──死に至るほどに。
リィフェルをたすけるためには、この世界を出るしかない。
僕はおとうさんを抱きしめる。
抱きあげられるかと心配になりながら、ちいさな腕に力をこめる。
そっと抱きあげたリィフェルは、思っていたよりずっと、軽かった。
「……おとーた……」
こんなになるまで、さがしてくれた。
最期の力をふり絞って、僕に逢いにきてくれた。
祈りのひかりを打ちあげていた自分は、なんて愚かだったのだろう。
「ごめんなさい……!」
くやしく、情けなく、唇を噛んだ僕は、羽ばたいた。
──悔やむのも、哀しむのも、泣くのも、後だ。
懸命に、翼に力をこめる。
激痛に貫かれた。
左の翼が軋んだ。
開いた穴は、まだふさがっていない。
大気がもれて傾く身体に、僕はぎゅっと力をこめる。
いらないから捨てられたのだとしても、ほんとうのおかあさんと、ほんとうのおとうさんがくれた力はこの身に宿り、僕を救ってくれた。
緑の精霊の拘束から、火矢から、矢の嵐から、リヴァリゼの攻撃からも。
──きっと今も、たすけてくれる。
紅いひかりが、噴きあがる。
開いた穴を埋めるように、紅いひかりの羽が連なってゆく。
リィフェルを抱きしめた僕の身体が、舞いあがる。
「うさちゃん、ありがとう!」
「きゅ!」
輝く瞳で、うさぎは前足をあげてくれた。
ふあふあの大きなうさぎが、きらめくちいさな角が、遠くなる。
身を裂く痛みをこらえ、僕は飛んだ。
飛べなかったことが、幻のようだった。
紅いひかりが穴をふさいでくれるだけではない、僕の身体に力を与え、導いてくれる。
「おとーたは、僕が、たすける!」
ぎゅっと、腕のなかのリィフェルを抱きしめる。
リィフェルが救ってくれたように、僕もリィフェルをたすけたい。
紅いひかりにつつまれた僕の翼が真っ暗な天を超え、遥か高く舞いあがる。
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