【完結】お義父さんが、だいすきです

  *  ゆるゆ

文字の大きさ
61 / 90

ぼくが

しおりを挟む



『トェル』

 聞きたくてたまらない声が、聞こえた気がした。

 僕の胸からあふれる紅いひかりが、いかずちの空に溶けてゆく。


「おとーた!?」

 声のほうへと駆けた僕は、天から落ちてきた精霊に、目をみはる。
 いつも月のひかりにきらめく身体が、真っ暗なもやにつつまれ、消えてしまいそうに淡くなっていた。

 真っ暗な小さな石をにぎりしめるリィフェルの指が、ふるえてる。


「おとーた……!」

 夢中で手をのばしたら


「トェル……!」

 かきいだかれる。

 おとうさんの香りに、つつまれる。


「あぃ、た、かった……!」


 あふれる涙で、あなたが、見えない。



「……トェル……最期に……逢え、て……よ、かっ……た……」


 微笑んだリィフェルが、僕の腕のなかで、崩れ落ちた。







「おとーた──!」

 僕の胸から噴きあがる紅いひかりが、リィフェルを包み、舞いあがる。


「うさちゃん、おとーたが──!」

 ほとばしる悲鳴に、うさぎの紅い瞳がリィフェルを見つめた。


「きゅ」

 うさぎの前足が、空を指す。

「え?」

 うさぎの後ろ足が、てしてし大地を叩いて、首をふる。
 ふわふわの前足が、天を指す。

「ここにいたら、だめ。空の向こうの世界へ?」

「きゅ!」

「でも僕は、飛べない……!」

 話す間にも、リィフェルの力が弱まってゆくのを感じていた。


 ここがほんとうに魔界なら、おとうさんはいるだけで衰弱してしまうのかもしれない。

 ──死に至るほどに。

 リィフェルをたすけるためには、この世界を出るしかない。



 僕はおとうさんを抱きしめる。

 抱きあげられるかと心配になりながら、ちいさな腕に力をこめる。
 そっと抱きあげたリィフェルは、思っていたよりずっと、軽かった。


「……おとーた……」

 こんなになるまで、さがしてくれた。

 最期の力をふり絞って、僕に逢いにきてくれた。

 祈りのひかりを打ちあげていた自分は、なんて愚かだったのだろう。


「ごめんなさい……!」

 くやしく、情けなく、唇を噛んだ僕は、羽ばたいた。

 ──悔やむのも、哀しむのも、泣くのも、後だ。


 懸命に、翼に力をこめる。

 激痛に貫かれた。
 左の翼が軋んだ。

 開いた穴は、まだふさがっていない。
 大気がもれて傾く身体に、僕はぎゅっと力をこめる。


 いらないから捨てられたのだとしても、ほんとうのおかあさんと、ほんとうのおとうさんがくれた力はこの身に宿り、僕を救ってくれた。

 緑の精霊の拘束から、火矢から、矢の嵐から、リヴァリゼの攻撃からも。

 ──きっと今も、たすけてくれる。


 紅いひかりが、噴きあがる。

 開いた穴を埋めるように、紅いひかりの羽が連なってゆく。

 リィフェルを抱きしめた僕の身体が、舞いあがる。


「うさちゃん、ありがとう!」

「きゅ!」

 輝く瞳で、うさぎは前足をあげてくれた。

 ふあふあの大きなうさぎが、きらめくちいさな角が、遠くなる。


 身を裂く痛みをこらえ、僕は飛んだ。

 飛べなかったことが、幻のようだった。

 紅いひかりが穴をふさいでくれるだけではない、僕の身体に力を与え、導いてくれる。


「おとーたは、僕が、たすける!」

 ぎゅっと、腕のなかのリィフェルを抱きしめる。

 リィフェルが救ってくれたように、僕もリィフェルをたすけたい。


 紅いひかりにつつまれた僕の翼が真っ暗な天を超え、遥か高く舞いあがる。







しおりを挟む
感想 76

あなたにおすすめの小説

【完結】かわいい彼氏

  *  ゆるゆ
BL
いっしょに幼稚園に通っていた5歳のころからずっと、だいすきだけど、言えなくて。高校生になったら、またひとつ秘密ができた。それは── ご感想がうれしくて、すぐ承認してしまい(笑)ネタバレ配慮できないので、ご覧になるときはお気をつけください! 驚きとかが消滅します(笑) 遥斗と涼真の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから飛べます! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】もふもふ獣人転生

  *  ゆるゆ
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 もふもふ獣人リトと、攻略対象の凛々しいジゼの両片思い? なお話です。 本編、舞踏会編、完結しました! キャラ人気投票の上位のお話を更新しています。 リトとジゼの動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントなくてもどなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 『伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします』のノィユとヴィル 『悪役令息の従者に転職しました』の透夜とロロァとよい子の隠密団の皆が遊びにくる舞踏会編は、他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きしているので、お気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 ジゼの父ゲォルグ×家令長セバのお話が『ずっと、だいすきです』完結済みです。 ジゼが生まれるお話です。もしよかったらどうぞです! 第12回BL大賞さまで奨励賞をいただきました。 読んでくださった方、応援してくださった皆さまのおかげです。ほんとうにありがとうございました! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

【完結】奪われて、愛でられて、愛してしまいました

  *  ゆるゆ
BL
王太子のお飾りの伴侶となるところを、侵攻してきた帝王に奪われて、やさしい指に、あまいくちびるに、名を呼んでくれる声に、惹かれる気持ちは止められなくて……奪われて、愛でられて、愛してしまいました。 だいすきなのに、口にだして言えないふたりの、両片思いなお話です。 本編完結、本編のつづきのお話も完結済み、おまけのお話を時々更新したりしています。 本編のつづきのお話があるのも、おまけのお話を更新するのもアルファポリスさまだけです! レーシァとゼドの動画をつくりました!(笑) もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから飛べます! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

【完結】双子の兄が主人公で、困る

  *  ゆるゆ
BL
『きらきら男は僕のモノ』公言する、ぴんくの髪の主人公な兄のせいで、見た目はそっくりだが質実剛健、ちいさなことからコツコツとな双子の弟が、兄のとばっちりで断罪されかけたり、 悪役令息からいじわるされたり 、逆ハーレムになりかけたりとか、ほんとに困る──! 伴侶(予定)いるので。……って思ってたのに……! 本編、両親にごあいさつ編、完結しました! おまけのお話を、時々更新しています。 本編以外はぜんぶ、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

神子の余分

朝山みどり
BL
ずっと自分をいじめていた男と一緒に異世界に召喚されたオオヤナギは、なんとか逃げ出した。 おまけながらも、それなりのチートがあるようで、冒険者として暮らしていく。 途中、長く中断致しましたが、完結できました。最後の部分を修正しております。よければ読み直してみて下さい。

【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者

みやこ嬢
BL
【2025/01/24 完結、ファンタジーBL】 リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。 ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。 そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。 「君とは対等な友人だと思っていた」 素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。 【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】 * * * 2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!

処理中です...