87 / 90
うさちゃんとリルとトェルとももちゃんのしあわせ暮らし
ぷっくり
しおりを挟む「……月のきみは、いつも正しい。まっすぐで、ひかりに満ちて……そういうのが、つらくなること、あるだろう」
ウェザの声が、ちいさく消える。
首をかしげる僕に、ウェザはふくれた。
「あるんだよ」
こっくりうなずいた僕に、ウェザは続けた。
「正しいってわかってるのに、気もちが追いつかないってことがあるだろう?」
首をかしげる僕に、ウェザが、ぷっくりする。
「あるんだよ!」
こっくりうなずく僕に、ウェザが続ける。
「まっすぐで、やさしい精霊たちは、月のきみに賛同してる。陽のきみも。精霊たちも。
トェルのこと、何にも知らなくても、それでも暴虐はひどい、仲よくしたいって思ってる精霊も、また、いるんだ」
目をみはる僕に、ウェザが微笑む。
「ひどいのばっかり、目につくけど。やさしいのも、いるんだ。……そういう精霊たちは、すくなくて……魔族をずっと憎んで、忌みきらってきた今までを、急激に変えられない精霊たちが、ほとんどだ」
さみしくうなずく僕に、ウェザはささやく。
「そういう精霊たちを切り捨てるのが、かわいそうだって。……だから地のきみは、わざと月のきみに対抗して、変われない精霊たちの受け皿になろうとしてるんだ。……ほんとうは、やさしい精霊なんだ。うちひしがれていた俺を、慰めてくれた」
ちらちら水のひかりに揺れるウェザを見つめた僕は、微笑んだ。
「だいすきなんだね」
ぱちりと、水のひかりが弾ける。
「……うん」
こっくりうなずくウェザが、水の飛沫で、きらきらしてる。
「変われない精霊たちを守ってあげようとする地のきみを、至高五天のなかでひと精にしたくなくて、それで、うーは、地のきみに賛同してるんだね」
「……え……?」
水の瞳が、瞬いた。
「うー、水のきみ、でしょう?」
見開かれた水の瞳が、揺れる。
「……どうして」
「力の強い精霊じゃないと、魔界の底まで降りられない。消えてしまう。
ももちゃんが守ってくれているとはいえ、ちょっと瘴気もあるここで、平気な顔をしてるから」
微笑んだら、ウェザはちいさく笑った。
「トェルは、かしこいな」
ふるふる首をふる。
「勉強、にがて」
ウェザは笑った。楽しそうに。
「……お茶を、ありがとう」
立ちあがるウェザを、見あげる。
「僕を、殺そうとしないの?」
ふり返ったウェザは、微笑んだ。
「トェルを殺したら、きっと精霊界はほんとうに崩壊をはじめる。
……よく、わかったよ。
リィフェルが、トェルを想う気もちも。
月のきみが、あんなにトェルをかばうわけも」
「……おばあちゃんが……?」
「それ、言ったらリヴァリゼが噴火するから」
あわあわ口をつぐむ僕に、ウェザは声をたてて笑った。
「……ひどいことばかりを、すまなかった。
変わってゆけない精霊たちを擁護するのではなく、憎しみを助長するのではなく、やさしい方へ、皆で向かえるよう、がんばってみる」
胸に手をあて、謝罪してくれたウェザが、つぶやいた。
「……ミーレは……元気で、やっているか。……あの魔族に、逢えただろうか」
ちいさな、ちいさな声だった。
僕は、微笑む。
「ふりむいて」
「…………え…………?」
ふり返るウェザに、ミーレの顔がゆがむ。
「……ひいおばあさま」
「そう呼ぶから、お前のことが気にくわないんだぞ。わかってるのか!」
叫んだウェザの、ちいさな顔がゆがんだ。
「……無事で、よかった……!」
水のひかりが、揺れる。
ミーレのひかりも、揺れている。
魔界の空から舞い降りたリィフェルが、僕を抱きしめてくれた。
「よくがんばったな、トェル」
おとうさんの顔で、笑ってくれた。
670
あなたにおすすめの小説
【完結】かわいい彼氏
* ゆるゆ
BL
いっしょに幼稚園に通っていた5歳のころからずっと、だいすきだけど、言えなくて。高校生になったら、またひとつ秘密ができた。それは──
ご感想がうれしくて、すぐ承認してしまい(笑)ネタバレ配慮できないので、ご覧になるときはお気をつけください! 驚きとかが消滅します(笑)
遥斗と涼真の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから飛べます!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】もふもふ獣人転生
* ゆるゆ
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
もふもふ獣人リトと、攻略対象の凛々しいジゼの両片思い? なお話です。
本編、舞踏会編、完結しました!
キャラ人気投票の上位のお話を更新しています。
リトとジゼの動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントなくてもどなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
『伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします』のノィユとヴィル
『悪役令息の従者に転職しました』の透夜とロロァとよい子の隠密団の皆が遊びにくる舞踏会編は、他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きしているので、お気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
ジゼの父ゲォルグ×家令長セバのお話が『ずっと、だいすきです』完結済みです。
ジゼが生まれるお話です。もしよかったらどうぞです!
第12回BL大賞さまで奨励賞をいただきました。
読んでくださった方、応援してくださった皆さまのおかげです。ほんとうにありがとうございました!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】奪われて、愛でられて、愛してしまいました
* ゆるゆ
BL
王太子のお飾りの伴侶となるところを、侵攻してきた帝王に奪われて、やさしい指に、あまいくちびるに、名を呼んでくれる声に、惹かれる気持ちは止められなくて……奪われて、愛でられて、愛してしまいました。
だいすきなのに、口にだして言えないふたりの、両片思いなお話です。
本編完結、本編のつづきのお話も完結済み、おまけのお話を時々更新したりしています。
本編のつづきのお話があるのも、おまけのお話を更新するのもアルファポリスさまだけです!
レーシァとゼドの動画をつくりました!(笑)
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから飛べます!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
【完結】双子の兄が主人公で、困る
* ゆるゆ
BL
『きらきら男は僕のモノ』公言する、ぴんくの髪の主人公な兄のせいで、見た目はそっくりだが質実剛健、ちいさなことからコツコツとな双子の弟が、兄のとばっちりで断罪されかけたり、 悪役令息からいじわるされたり 、逆ハーレムになりかけたりとか、ほんとに困る──! 伴侶(予定)いるので。……って思ってたのに……!
本編、両親にごあいさつ編、完結しました!
おまけのお話を、時々更新しています。
本編以外はぜんぶ、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
神子の余分
朝山みどり
BL
ずっと自分をいじめていた男と一緒に異世界に召喚されたオオヤナギは、なんとか逃げ出した。
おまけながらも、それなりのチートがあるようで、冒険者として暮らしていく。
途中、長く中断致しましたが、完結できました。最後の部分を修正しております。よければ読み直してみて下さい。
【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者
みやこ嬢
BL
【2025/01/24 完結、ファンタジーBL】
リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。
ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。
そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。
「君とは対等な友人だと思っていた」
素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。
【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】
* * *
2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる