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うさちゃんとリルとトェルとももちゃんのしあわせ暮らし
だいじなおはなし
しおりを挟む嘘をついていないことを確かめるように、僕の目をのぞきこんだウェザが唇を開く。
「異形に堕ちた魔精の骸が瘴気となって消えたと報告があったという。
そんなためしを聞いたことがない。
地のきみは、検証調査を阻害し、トェルを庇護するための虚偽報告だと月のきみを糾弾している」
「おばあちゃん、嘘、つかない!」
叫んだ僕に、ウェザは吐息した。
「魔族との融和を説く月のきみを、至天の位から引きずり落としたいんだ。……水のきみは、地のきみに協力を。だから、俺が来たんだ」
ウェザは顔をあげる。
「ほんとうに、骸は瘴気となって消えたのか」
「おばあちゃん、嘘、つかない!」
いつだってまっすぐな月の瞳を思いだす。
「トェルは、見たか」
重ねて問うウェザに、僕は首をふった。
「知らない。
おとーた、月のきみに呼ばれて、月の宮に行った、と思う。帰ってきた、おとーた、ちょっと、気もちわるそうだった、気がする。……あんまりおぼえてない、けど」
ずいぶん昔の話に思えた。
記憶はあいまいだ。
リィフェルがしてくれた抱っこは、おぼえてる。
「……トェルは、嘘はつかないな」
つぶやくウェザに、うなずいた。
「つかない。おばあちゃんも、おとーたも」
水の瞳をまっすぐ見あげる。
腕をのばしたウェザは、やっぱり引っこめようとして、そんな自分を恥じるように、指を突きだした。
ぐしゃりと頭をかきまぜられた僕は、首をかしげる。
ウェザは、真っ暗な僕の髪をかきまぜた手を見つめた。
「……瘴気、ないな。……きもちわるくも、ない」
真っ暗なのだろう僕の目を覗きこむ。
「魔族の目だ。……なのに、きもちわるく、ない」
ウェザは、目を伏せる。
「……水のきみは、陽のきみを……その……お慕い、していた。でも陽のきみは、月のきみに夢中だった。
月のきみは精霊界一うるわしくて、精霊界一強い。精霊たちにも信頼──じゃないな、崇拝されてる。
水の精たちに、もてはやされてた水のきみは、何にも敵わなくて……落ちこんでいるところを慰めてくれたのが、地のきみだった」
うなずく僕に、自嘲するようにウェザが笑う。
「こんな話、どうでもいいって言わないのか」
「うーの、だいじな、お話。ちゃんと聞く」
胸をたたく僕に、水の瞳が、まるくなる。
「うー?」
「うー」
ウェザを指す僕に、吹きだして笑ったウェザのちいさな顔が、くしゃりとゆがんだ。
「……トェルと、ひと言も話さないまま、俺たちは憎んで殺そうとしたんだな」
「今、話してくれるよ。ありがとう」
微笑んだら、ウェザのちいさな顔が、ぐしゃりと歪む。
水のひかりが、ちらちら揺れた。
涙のように。
「ひどいことを、してる。わかっていたんだ。なのに、精霊界が崩壊する恐怖に耐えられなくて、すべてをトェルに押しつけて、皆でトェルを殺そうとした。
あのときだけじゃない。
──今も」
ぎゅっとウェザが唇を噛む。
「……僕がしんだら、精霊樹は元気になると思う?
精霊界は、ゆたかによみがえると思う?」
揺れる瞳が、僕を見つめる。
ウェザは、しずかに、首をふった。
「思わない」
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