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うさちゃんとリルとトェルとももちゃんのしあわせ暮らし
……え……?
しおりを挟むももちゃんの下で、うさちゃんの毛づくろいをお手伝いしている僕の頭を、おとうさんがなでてくれる。
「ミーレが造ってくれた精霊の泉が素晴らしいから、精霊界の水と比べてみたい。
ちょっとくんで、すぐ戻る」
一刻で大変なことになってしまったから、リィフェルが精霊界にゆくときは、いつも極限まで時間を少なくしてくれる。
「はい。お気をつけて。
いってらっしゃい」
ちゅ
頬に口づけたら、月のひかりをきらきらさせて、笑ってくれた。
『いってらっしゃいのときは、ちゅうするんだぞ』
教えてくれたのは、ミーレだ。
おとうさんが、きらきらしてるから、正しかったみたいだ。よかった。
『はやく帰ってきてね♡ 抱っこつきだと、なおよい』
教えてくれたとおりに、リィフェルを抱っこする。
「はやく帰ってきてね♡」
ちゅうも、おまけにつけた。
ぱちりと月のひかりが、魔界を翔る。
「……行くの、やめようかな……」
ぎゅう。
抱きしめてくれる、おとうさんが、気に入ってくれたみたいです?
ミーレ、すごい!
「きゅ!」
うさちゃんの角が、きらきらして、振りかえった僕は、眉をさげた。
「うさちゃんが、ミーレの泉は、僕と、ももちゃんと、うさちゃんには充分だけど、おとうさんには、ちょっと瘴気が混じってるから、つらいかもって。
ミーレにも、ちょっとお水をくんできてあげてって」
「……そうか、わかった」
うなずいたリィフェルの、ふわふわの唇が、僕のおでこに降ってくる。
「ちゅ」
あまい音が鳴るたび、あなたと唇を重ねるたび、だいすきと、あいしてるが、あふれてゆくのです。
「いってらっしゃい!」
「すぐ帰る」
僕を抱きしめて、口づけてくれた月のひかりが、魔界の天へと舞いあがる。
見えなくなるまで、ずっと、ずっと手をふった僕が振りかえると、ふんぞり返るような、清かな水の気をまとう少年が立っていた。
「……え……?」
……精霊……?
落ちてきた?
びっくりする僕の前で、長い水の髪が、魔界の瘴気に流れる。
切れあがる水の瞳が、僕を射た。
「お前だな、精霊を異形に堕とす魔族の子!」
「……え……?」
ぽかんとする僕に、ちっちゃい子が鼻を鳴らす。
「聞いたんだぞ! お前の血を飲んだ魔精が、異形になったって。
あれから精霊界は、おかしくなったんだ。
お前の血が、精霊界を穢したんじゃないか?」
──ちがう。
言い切れない僕は、うつむいた。
……僕のおなかをえぐった、あの魔精は、異形になったの……?
おかあさんの精霊樹の思いは、はっきりと言葉にされたものじゃない。
僕が感じ取ったものだ。
もし、おかあさんの気もちを、僕が読み間違っていたら……?
「……わからない。……それを言いに、魔界まで? 危ないのに?」
力のある精霊ほど清浄で、魔界の瘴気はつらいらしい。
一刻で命を落としてしまうという。
「話を聞きに来たんだよ。
精霊界が、今、大変なのは知ってるか?」
「ちょっと?」
ミーレが話してくれた。
「お前が来てから精霊界はおかしくなって、お前がいなくなっても、おかしくなり続けてる。
起点がお前なんだ。
話を聞きたいと思うのは、当然だろう。
なのに、月のきみも、息子も過保護でな、話もさせてくれんのだ!
抜き打ちで来るしかなかろう!」
「おとうさんに、ないしょで来たの?」
水の精霊らしき少年は鼻を鳴らした。
「リィフェルがいない隙を狙って来たに決まってるだろう。
あんぽんたんみたいに強いんだぞ。
戦闘力のないのが多い水の精なんて、ビビって誰も近づけねえ。仕方ないから俺が来てやったんだよ。
月の精だって戦闘力ないはずなのに、なんだよあの化け物母子」
居丈高な物言いに、ぷくりとふくれる。
「おとーたと、おばあちゃんを、わるく言う精霊は、帰って、ください!」
……あ。
『おばあちゃん』言ったら、だめだった!
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