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勅命
しおりを挟む「ぐはっ」
腹を押さえ倒れ込む老爺が叫ぶ。
「殺せ!
ふたりとも殺してしまえ!!」
飛び蹴りに吹き飛んだ青年が起きあがる。
白銀のつるぎを抜いた。
「許せ」
今までとまるで違う速度で駆け込む青年に目を細めたリイは、すぐ傍の樹の幹を蹴って宙へと跳びあがる。
貴族を傷つけたら、平民は殺される。
一族郎党すべて、皆殺しだ。
父ちゃんも、殺されてしまう。
でも、ここで剣を抜かなかったら、リイもルフィスも殺される。
父ちゃんなら、きっと自分で生き延びてくれるはず!
幸い、隣国へと逃げたいなら、山を越えればすぐだ。
父を信じたリイは、短剣を抜いた。
迫りくる白銀の刃を睨みつける。
「でやあ!」
「リイ――――!!」
ルフィスの身体から放たれる蒼と碧の光を擦り抜けるように、突撃する剣を見つめたリイは、微かに笑った。
遅い。
驚くほどの速度で突進する鹿や猪、突撃してくる熊をいつも相手にしているリイにとって、人間は遅かった。
それが鍛えあげられた騎士であってもだ。
一撃で急所を仕留めないと殺される獣を相手に日々闘っているリイにとって、人間は急所を曝しながらのんびりゆっくり向かってくる的にしか見えない。
短剣を構えたリイは、息を詰める。
一撃だ。
急所を狙う。
頸だ。
短剣の刃が閃き、白銀のつるぎが迫る。
「リイ――――!!」
ルフィスの悲鳴を裂くように、ビリビリする声が響き渡る。
「剣を引け!
誰の許しを得てこのような暴挙に及んだ!!」
突撃していた青年が、ガチリと止まった。
深夜の山を掻き分け現れたのは、小山のような騎士だった。
銀の鎧が、月明かりに浮かびあがる。
銀の騎士の片手で首をねじり上げられた老爺は、げほげほ咳き込みながら枯れ木のような手足をばたばたさせた。
「ぐ、は……!
わ、儂は、王帝陛下の勅命を以て――」
「勅命書を見せよ」
「そ、そそそそれは…………」
うろたえる老爺を庇うように、青年が叫ぶ。
「我らは確かに王帝陛下から、内々の勅命を――!」
「勅命書を見せよ」
青年は唇を噛んだ。
「……ありません」
小山のような騎士は、鼻で嗤った。
「こちらには王太子殿下の勅命書がある。
ルフィス様のお命を決して害するな、丁重にお迎えせよという勅命書がな」
騎士が掲げる勅命書のなかで、王太子の署名なのだろう不思議な文字が、月明かりにきらめいた。
「お前らは王太子殿下に弓引く気か」
「くっ――――!」
「め、滅相もない――――!!」
騎士が翳す勅命書に老爺は膝をつき、青年は項垂れた。
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