【完結】きみの騎士

  *  ゆるゆ

文字の大きさ
83 / 152

畏れ多い!

しおりを挟む



「リイに意地悪したら、許さないから!」

 星の海の瞳を吊りあげて叫んでくれるレミリアに、熱い頬で笑う。


「レミリアさま」

 つながろうとした指の間に、レイティアルトが割って入る。


「わかったから、もう行け」

「兄さまの、いじわる」

 頬をリスのように膨らませたレミリアが、レイティアルトを越えてリイの指を握る。


「リイは、私の騎士。
 誰にも渡さない」

 星の海の瞳に、心が軋んだ。


『俺は、ルフィスの騎士です』

 言えない唇が

『俺は、女です』

 打ち明けたい唇が、ふるえた。


 唇を引き結び、胸に手をあて膝をつくリイに、レミリアは花の唇を噛み締めた。


「……リイの、いじわる」


 離れた指が、ひるがえる。

 残り香が、心を刺した。






 レミリアがいなくなると、広やかな王太子執務室は、静けさに包まれた。

 初日に挨拶に伺った時と同じく、書の峻峰に囲まれたレイティアルトは、扉を見つめる。

「舞踏会の時は、人気のあるきみを跪かせるのが楽しいのかと思っていたが。
 これでは醜聞どころの騒ぎじゃない」

 黒髪をかきあげたレイティアルトは吐息した。

「レミリアのためを思うなら身を引けと言いたいが。
 ──レミリアは泣くだろう」

 長い溜め息が、音のない部屋を揺らした。

「レミリアは千年光国レイサリアが王女。
 しかるべき大国の王太子と結ばれる身だ」

 氷の瞳に射抜かれた。

「醜聞は避けろ。
 光国の顔に泥を塗るな」

 秘めるなら、花のきみとの逢瀬を黙認すると言ってくれたも同義だった。

 痛いほど目を瞠ったリイは、首を振る。


「…………俺は……ルフィスの、騎士です」

 絞り出す声が、ふるえた。


 亜麻色の髪に、蒼と碧の瞳に、逢いたくて

 もう一度、笑って欲しくて
 もう一度、名を呼んで欲しくて

 きみの騎士に、なりたい。


 きみが、もう、忘れていても

 きみだけの騎士に、なりたい。


 正式な光騎士となれたのは、すべてあなたのおかげなのに。
 
 …………ごめんなさい、レミリアさま。

 唇を噛み締めて俯いたリイに、レイティアルトは吐息した。


「…………ルフィス、か」

「時間があれば調べてくださると仰いました……!
 何か、手がかりは──!」

 縋るように聞いたリイに、レイティアルトは首を振る。

「調べてみたが、公には残らぬ名らしい」

 縋る希望が、消えてゆく。

「…………隠し子」

 リイの呟きにレイティアルトは頷いた。

「だろうな。
 レイサリアには、いないのやもしれぬ」

 絶望に染まるリイの肩を、レイティアルトの掌が叩いた。
 分厚い手には、鍛錬の痕が見える。

 これだけ執務に励んでいながら、どこに鍛錬する時があるのか謎だったが、見るとレイティアルトは鍛えあげられた身体をしていた。

 光騎士たちのように、筋肉の塊ではない。
 しなやかな黒豹のようなレイティアルトに息をのむ。

 リイの目を覗き込んだレイティアルトの、深い翠の瞳が閃いた。


「歳近い者が傍に来るのは初めてだ。
 ……義弟になるのかと思っていたがな」

「そそそそそそんな、おおおお畏れ多い!」

 燃える頬で首を振るリイに、レイティアルトが唇の端をあげる。


「こき使うのは嘘じゃない。
 覚悟しろ!」

「はい!」

 紙の海で、笑った。





しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された聖女リリアナの庭には、ちょっと変わった来訪者しか来ません。』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
王都から少し離れた小高い丘の上。 そこには、聖女リリアナの庭と呼ばれる不思議な場所がある。 ──けれど、誰もがたどり着けるわけではない。 恋するルミナ五歳、夢みるルーナ三歳。 ふたりはリリアナの庭で、今日もやさしい魔法を育てています。 この庭に来られるのは、心がちょっぴりさびしい人だけ。 まほうに傷ついた王子さま、眠ることでしか気持ちを伝えられない子、 そして──ほんとうは泣きたかった小さな精霊たち。 お姉ちゃんのルミナは、花を咲かせる明るい音楽のまほうつかい。 ちょっとだけ背伸びして、だいすきな人に恋をしています。 妹のルーナは、ねむねむ魔法で、夢の中を旅するやさしい子。 ときどき、だれかの心のなかで、静かに花を咲かせます。 ふたりのまほうは、まだ小さくて、でもあたたかい。 「だいすきって気持ちは、  きっと一番すてきなまほうなの──!」 風がふくたびに、花がひらき、恋がそっと実る。 これは、リリアナの庭で育つ、 小さなまほうつかいたちの恋と夢の物語です。

【完結】悪役令嬢は何故か婚約破棄されない

miniko
恋愛
平凡な女子高生が乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった。 断罪されて平民に落ちても困らない様に、しっかり手に職つけたり、自立の準備を進める。 家族の為を思うと、出来れば円満に婚約解消をしたいと考え、王子に度々提案するが、王子の反応は思っていたのと違って・・・。 いつの間にやら、王子と悪役令嬢の仲は深まっているみたい。 「僕の心は君だけの物だ」 あれ? どうしてこうなった!? ※物語が本格的に動き出すのは、乙女ゲーム開始後です。 ※ご都合主義の展開があるかもです。 ※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしておりません。本編未読の方はご注意下さい。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します

天宮有
恋愛
 私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。  その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。  シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。  その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。  それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。  私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。

異世界で悪役令嬢として生きる事になったけど、前世の記憶を持ったまま、自分らしく過ごして良いらしい

千晶もーこ
恋愛
あの世に行ったら、番人とうずくまる少女に出会った。少女は辛い人生を歩んできて、魂が疲弊していた。それを知った番人は私に言った。 「あの子が繰り返している人生を、あなたの人生に変えてください。」 「………はぁああああ?辛そうな人生と分かってて生きろと?それも、繰り返すかもしれないのに?」 でも、お願いされたら断れない性分の私…。 異世界で自分が悪役令嬢だと知らずに過ごす私と、それによって変わっていく周りの人達の物語。そして、その物語の後の話。 ※この話は、小説家になろう様へも掲載しています

【完結】転生白豚令嬢☆前世を思い出したので、ブラコンではいられません!

白雨 音
恋愛
エリザ=デュランド伯爵令嬢は、学院入学時に転倒し、頭を打った事で前世を思い出し、 《ここ》が嘗て好きだった小説の世界と似ている事に気付いた。 しかも自分は、義兄への恋を拗らせ、ヒロインを貶める為に悪役令嬢に加担した挙句、 義兄と無理心中バッドエンドを迎えるモブ令嬢だった! バッドエンドを回避する為、義兄への恋心は捨て去る事にし、 前世の推しである悪役令嬢の弟エミリアンに狙いを定めるも、義兄は気に入らない様で…??  異世界転生:恋愛 ※魔法無し  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆

処理中です...