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間違ってるよ
しおりを挟むレイティアルト付きの侍従ノゼが胸を張る。
「レイティアルト様付きの光騎士には、通常の光騎士とは違い、政務を手伝って戴きます。
主な仕事は、書類の整理です!」
…………言われなくても解るよ、ノゼ。
遠い目になりながら、リイは頷いた。
何がどうなって、こんなに書の嶺が形成されるのかの謎は、すぐに解けた。
レイティアルトとノゼの驚異的な処理能力で駆逐してもしても、次々にレイサリア光国中、属国中から書類が提出されるのだ。
領地の収支や、天候予測、農産物の収穫状況、鉱山の稼働状況、金や貨幣の相場、敵国の情報、属国の動き、王宮で使用されるペンやインクを買いましたの報告までもが集まって来るのに仰け反った。
「いや、これ、王太子殿下に報告することじゃないでしょう!」
叫んだリイに、レイティアルトは盛大な溜め息をついた。
「王宮の雑費の金額が大き過ぎてな。
雑費で全て括りやがる。追及しても雑費としか言わぬ。
仕方がないから何に使ったのかすべて詳細に報告せよと通達した結果だ」
ノゼの顔が僅かに青くなって、リイは上げそうになった眉をあわてて制した。
騎士に大切なのは、平常心!
鉄面皮だ!
「……なるほど」
リイの目の前にあるのは、経費として計上された書類の山らしい。
ぺらりぺらりと捲ったリイは、首を傾げた。
「これ、間違ってますよ」
「…………は?」
ノゼがきょとんとして、レイティアルトが眉をあげる。
「説明しろ」
「は」
頷いたリイは、書類の束を持ってレイティアルトの傍へと移動する。
近づくと、涼やかな中にも仄かに甘い香りがして『うわ、さすが王太子だ』と仰け反った。
「……なんだ?」
「王太子さま、すごいなーって」
深い翠の瞳がまるくなる。
「…………は?」
「めちゃくちゃかっこよくて、オーラがあって、いー匂いがします!」
拳を握るリイに、
「……おーら?」
レイティアルトの目が点になって、ノゼは目を吊りあげた。
「ふ、不敬ですぞ!!」
「失礼しました」
ぺこりと頭を下げるリイに、レイティアルトが吹き出して笑う。
いつも怜悧な相貌が崩れると可愛さ満点とか全力でイケメンだ──!
「楽しいのが来た。
説明を聞こう」
イケメンすぎるレイティアルトを拝みそうになりながら、平常心を装って頷いた。
「は。
こちらの経費ですが、すべて合計すると108972セクレとなります。
ですが、計上されているのは208726セクレ。水増しされています。
この書類だけではありません。
王宮の経費として計上される書類すべてに、僅かずつ水増しが行われています」
レイティアルトの眉が跳ねあがる。
「どういうことだ、ノゼ」
真っ青になったノゼは、ぶんぶん首を振った。
「わ、私は提出された書類をまとめただけで、何も──!」
「提出された書に不備がないか最終確認していたのは、ノゼだったな」
静かな声に、ノゼが俯く。
レイティアルトが手元の小さな鐘を鳴らした瞬間、扉の外で控えていた光騎士たちが駆け込んだ。
「御前に、殿下」
膝をつく光騎士たちに、レイティアルトが命じる。
「侍従ノゼを連行、監査院を閉鎖、すべての書を差し押さえろ。
提出されたすべての書類を再計算させる。人員を掻き集めろ。
不正が露見次第、資産を差し押さえる。勘づかれると資産を売却、隠匿されるぞ。
箝口令を敷く。極秘に動け。
光騎士による王侯貴族の連行を、王太子レイティアルトの名を以て認可する。
王族だろうと捕縛せよ」
勅命書にレイティアルトが署名する。
うやうやしく書を戴いた光騎士が、ノゼの腕を掴んだ。
「わ、私は長年御身にお仕えして参りました……!
レイティアルト様──!」
悲壮なノゼの叫びに、レイティアルトは頷いた。
「長年仕えてくれたことに感謝し、信頼し過ぎたのは我が不徳だ。
申し開きは機密院が聞く。
容疑は王宮経費の横領と収賄だ。連れていけ」
「は!」
光騎士たちに両脇を掴まれたノゼは、真っ青な顔で項垂れた。
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