【完結】きみの騎士

  *  ゆるゆ

文字の大きさ
85 / 152

チート?

しおりを挟む



 交代の光騎士がすぐに扉を守り、騒然とした執務室に静寂が戻る。

 何事もなかったかのように仕事を続けるレイティアルトに驚嘆したリイは、ためらいながら唇を開いた。

「……あの……新人の俺の計算を、よくお信じになりましたね」

 属国貴族の動向の報告書に目を通していたレイティアルトは、眉をあげた。

「新人光騎士のリイが、嘘をつく必要がどこにある?」

「……やな態度されたから、むかついちゃったなーとか?」

 首を傾げるリイに、レイティアルトは吹き出して笑った。

「初日に食堂で衛士をぶっ飛ばしたリイが何を言う。
 リイがむかついた瞬間、相手は吹き飛んでるだろう」

「な、なんでそんなことまで知ってるんですか!」

 仰け反るリイに、レイティアルトの深い翠の瞳が閃いた。


「傍におく者を調べないと思うのか?」

 氷の瞳に、息をのむ。
 自然と頭が下がる威圧なんて、初めてだ。

 ……じいちゃんのは吹っ飛ぶからね。威圧の域を超えてるよ、あれ!


「……ノゼのことも、お調べでしたか」

 ちいさなリイの声に、レイティアルトは吐息した。

「調べていたが、監査院まで腐敗していたとはな。
 俺の目は節穴だった」

 自嘲が滲んだ。


『ノゼはよくやってくれている』

 微笑んだレイティアルトを覚えている。


「……レイティアルトさまに信頼されていながら、どうして……」

 うつむくリイに、レイティアルトの凛々しいかんばせが微かに歪んだ。

「長く仕えてくれたことに感謝したことが、少しくらいならという増長に繋がったのかもしれぬ。
 俺の気に入りという特権を振り翳すようになってきていた。
 長年の労を思うと処断できなかった俺が甘かった」

 漆黒の髪を掻きあげるレイティアルトは、まだ18歳だ。

「レイティアルトさまが国のすべてを負われるなど、無茶苦茶です!」

 叫んだリイに、微かに目を見開いたレイティアルトは微かに笑う。


「それが、王だ」

 凍てつく瞳だった。


「レイサリア光国は強大になり過ぎた。
 近年は刃向かう国も少なく、属国になりたいという国で溢れている。
 平和になると上は腐敗する。
 止めるのは、王だ」

 冴え渡る瞳に、溢れる威厳に、思わず騎士の礼をとり、頭をさげた。
 眉をあげたレイティアルトが、微かに笑う。

「しかし、リイが計算が得意だとは知らなかった。
 あれほど細かく書かれた項目を、よくあの短時間で暗算できるな」

 感嘆したようなレイティアルトに、リイはちょっとうれしく胸を張った。

「暗算は得意なんです」

 前世の記憶は曖昧だが、そろばんと習字に行かされた記憶と技能は継承したらしい。

 確か前世の親が言ってた。

『皆がそろばんと習字に行ってて、皆と同じが厭だったから行かなかったのを、めちゃくちゃ後悔した。
 数字の感覚は意外と大切だし、理系の試験の時は計算が苦手だと泣くしかないし、暗算ができると買い物に行くのも便利だ!
 デジタル全盛だからこそ、ちょっとしたメモやお礼状の字がきれいだと、頭と性格までよいと思ってもらえる!
 ちっちゃい時に頑張れば一生使えるから、がんばれ!!』

 顔も名も朧気なのに、めちゃくちゃ励まされて塾に通った記憶があるのだ。

 暗算を頑張ったおかげで、かなりな桁の暗算ができるようになったが、今までは饅頭売りのおつりの計算くらいにしか使わなかったよ!

 ………………も、もしかして、こ、これがチートなのかな?
 いや、チートじゃなくて、前世の自分が頑張った結果じゃない……?
 さすがしょっぽい異世界転生!

 うれしいのか哀しいのか解らない!


「長年仕えてくれたノゼを信頼し過ぎた我が不徳を恥じた。
 リイのおかげで、横領された民の血税を取り戻せる。
 ありがとう」

 ふうわり微笑むレイティアルトは呼吸が止まりそうなほど、きらきらだった。

 さ、さすが花のきみの兄さま!
 顔面力が半端ない!
 まわりにお花が飛んでるみたいに、輝いてる。

 …………ちょっとだけ……ルフィスに、似て、る…………?

 ──まさか。

 思いながらも食い入るように見つめるリイに唇の端をあげたレイティアルトは、どさどさ書の山をリイの前に積み上げた。

「我が国の貴族と属国の収支報告書、我が国の各部門の収支報告書だ。
 おかしなところがないか、確認してくれ」

「…………ぜ、ぜんぶですか……?」

「勿論だ」

 とってもイイ笑顔だった。






しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

【完結】記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

異世界で悪役令嬢として生きる事になったけど、前世の記憶を持ったまま、自分らしく過ごして良いらしい

千晶もーこ
恋愛
あの世に行ったら、番人とうずくまる少女に出会った。少女は辛い人生を歩んできて、魂が疲弊していた。それを知った番人は私に言った。 「あの子が繰り返している人生を、あなたの人生に変えてください。」 「………はぁああああ?辛そうな人生と分かってて生きろと?それも、繰り返すかもしれないのに?」 でも、お願いされたら断れない性分の私…。 異世界で自分が悪役令嬢だと知らずに過ごす私と、それによって変わっていく周りの人達の物語。そして、その物語の後の話。 ※この話は、小説家になろう様へも掲載しています

処理中です...