【完結】きみの騎士

  *  ゆるゆ

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そうだったのか!

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「レイティアルトさまじゃないですか!」

「お元気ですか、レイティアルトさま!」

「レイティアルト兄ちゃん!」

 街を歩けば降り注ぐ笑顔に、リイの口が開く。

「……えぇえ!?」

 手を振り返し、挨拶を返し、肩を叩かれて笑う、気さくすぎるレイティアルトに仰け反った。

「…………光国議会の重鎮が見たら、噴火しますね」

「だから折角の外出時に言うな!」

 叫ぶレイティアルトに、街中から明るい笑顔が降ってくる。

 身なりの粗末な者も、臆することなくレイティアルトに声をかけて笑う。
 応えるレイティアルトはいつもの威光を削ぎ落とし、やわらかな笑みで手を振った。

「お兄ちゃん、ダルムの新作だよ!」

 レイティアルトと手を繋いで歩くサラが焼き菓子を指して、店の奥から声が飛ぶ。

「いらっしゃい、レイティアルトさま!」

 菓子職人の桃色の帽子をのせた店主が、まるまるした腹を揺らし、手を振った。


 店に入ると、甘い香りで胸が満ちる。
 目を細めたレイティアルトは、宝玉のようにきらめく菓子に破顔した。

 何の作為もなく子どものように笑うレイティアルトを、初めて見た。
 つやをまとい鎮座する菓子を目を輝かせて選ぶレイティアルトは、極甘党だ。

 この凄まじいイケメン、氷の王太子、『最高位の貴族さえ容赦なくブッ潰すぜ』なレイティアルトは、執務の合間に菓子を頬張る時だけ、顔が溶ける。

「今度の新作は、セレネの花をかたどったんです。
 レミリアさまにお作りしたんですよ!」

 焼き菓子が薄紅の粉砂糖で彩られて並ぶ様は、咲き誇る花の苑だ。

「レミリアはダルムの菓子じゃないと食わないからな。
 太ってもゆるせるのは、ダルムの菓子だけだと」

「張りきる甲斐がありまさあ!」

 桃色の帽子を揺らして、店主がうれしそうに破顔する。

「セレネのお花、ふわっふわなの。
 ほっぺ落ちるよ!」

 サラがレイティアルトの手を握って、レイティアルトは『うむ』といかめしく頷いた。

「十個買おう。サラも食うな?」

「わあ!」

 輝いた水色の瞳は、すぐに伏せられた。

「でも叱られる、から──」

 サラの顔を覗きこみ、レイティアルトが微笑む。

「ここで食え。俺とリイしか知らん。
 ダルムは何も見なかったな?」

「もちろんでさ!」

 片目をつぶって笑うダルムが出してくれたセレネの花の菓子を受け取ったサラが、とろけて笑う。

 サラの栗色の髪を撫でるレイティアルトの瞳は、見たことがないほどやわらかだ。

「……レイティアルトさまは、ちいさな方がおすきで?
 だから同じ年頃の方には興味ない?」

 サラと一緒に目を輝かせてセレネの花の菓子を頬張っていたレイティアルトが、盛大に噎せた。

「ご、ごほ……!
 お、お前なあ! それは犯罪だろう!」

「純粋なら問題ないじゃないですか!
 ははあ、なるほど、だから頻繁に外出を──」

「曲解すぎる!!」

 目を剥いて憤慨するレイティアルトに、サラの水色の瞳がしょぼんと伏せられる。

「……お兄ちゃん、サラに逢いたくないの?」

「あ、逢いたいよ、サラ!」

 あわあわしたレイティアルトがちいさなサラを抱きしめて、リイは鬼の首をとったように笑った。

「ほーら!」

「脳みそを一回洗え!!」

 真っ赤な顔で叫ぶレイティアルトの隣で、数多の菓子を箱に詰めていたダルムが声をたてて笑う。

「いやあ、レイティアルトさまがこんなに無邪気に人を叱るの、初めて見ました」

 目を瞬いたリイが、レイティアルトを見つめる。

「光栄です、レイティアルトさま」

 横を向いたままのレイティアルトは、お菓子に夢中で聞こえなかったことにしたようだ。

「──レミリアの分も買うか?」

 計30個ご注文ですが、ぜんぶ自分用ですか──!

 仰け反るより、リイは財布の紐を握った。

「れ、レミリアさまの分は俺が買います! つ、包んでください!」

「うわ、お前もうちょっと密やかに慕え!」

 物凄くいやそうに顔を顰めるレイティアルトに、リイの唇が拗ねる。

「いつも大変、大変! お世話になっている御礼です。
 ……俺は、レミリアさまのおかげで、光騎士になれたから」

 申し訳なさを潰すように、ちいさな財布を握る。

「あまりお金持ってないですが、足りますか」

「レイティアルトさまにつけとくね!」

「俺持ちか!!」

 目を剥くレイティアルトに声をたてて笑ったダルムは、リイに大きな菓子箱をふたつ持たせてくれた。

 レイティアルトの後に続き店を出る前、リイはダルムを振り返る。

 ──望みは薄い、けれど、聞かずにはいられない。

「あの、ルフィスという人を知りませんか。
 亜麻色の髪に蒼と碧に輝く瞳の、俺と同じ歳くらいの貴族なんです」

「……ルフィスさま?
 知らないねえ。少なくともうちに買いに来てくれたことはないよ」

「…………そうですか、ありがとう」

 肩を落としたリイは、レイティアルトの後を追った。





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