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輝きの君
しおりを挟むレイティアルトが向かったのは、下町の中心にある広場だ。
王太子殿下が来てくれたと、民で溢れかえる広場で軽く手をあげたレイティアルトは、集まった皆の顔を見渡した。
「暮らしはどうだ? 不自由はないか」
しわと骨の手があがる。
継ぎ接ぎだらけの衣をまとう老婆が、口を開いた。
「レイティアルトさま、薬がないのです……!」
悲壮な嗄れ声に、レイティアルトは重々しく頷いた。
「負担を掛けてすまない。
旱魃でバゼヤ公国からの薬草が急騰したのが原因だ。
当面は何とか凌ぐが、光王直轄の薬草苑を各地に造成する予定だ。
安定供給できるよう尽力する。
緊急に入り用な薬は、救護院に申告してくれ」
「ああ……! ありがとうございます!」
微笑んだレイティアルトが首を振ると、ちいさな女の子がレイティアルトに駆け寄った。
「お兄ちゃん、あのね、あの……あたし、字を習いたい、本を読んでみたいの。
──でもお母さんがだめって……お金ないからって……」
「お金がない人は無料で学び舎に通えるから、大丈夫。本が読めるようになるよ。
家の仕事の手伝いをしなくちゃならない時は、救護院に相談して。
光国の民、皆が、字が読めて、計算ができることは、とても大切だから。
きっと叶える」
少女のちいさな頭を撫でて、レイティアルトが笑う。
詰めかけたどんなに身なりの粗末な者にも、年端のゆかぬ子供にも、レイティアルトは真摯に答えた。
あまりに身なりが酷く、体調の悪そうな者へは、すぐに救護院に行くよう告げる。
「あ、あの、でもレイティアルトさま、俺っちは移民で……レイサリアの民じゃないんでさ」
リディリア大陸共通語を不思議なアクセントで話して肩を落とす、ボロボロの服の民にレイティアルトは微笑んだ。
「光国に暮らす者は皆、レイサリアの民だ。
救護院は病や怪我で働けぬ者、保証人がおらず住居を借りられぬ者、働きたいのに働かせて貰えぬ者、働いても働いても満足な糧が得られぬ者たちを救うためにレミリアが建立したものだ。
遠慮なく使ってくれ。
不正で私腹を肥やす貴族から金を奪い返して財源にする」
深翠の瞳がギラリと光り、広場に集まった皆が歓声をあげた。
「レイティアルトさま、ありがとうございます!」
「救護院を作ってくださったレミリアさまに感謝をお伝えください!」
「花のきみに、ご挨拶を!」
「どうかあのおやさしき花のきみが、お健やかでおしあわせになられますように!」
皆の歓声と拍手に、レイティアルトはやわらかに微笑んで手を挙げた。
次々に降る質問に、レイティアルトはよどみなく答える。
原因と対策を明示し、皆に解るように話した。
陳情のうちレイティアルトが把握していないことは、殆どない。
それでも民の顔を見て、民の声を聞き、街の活気を肌で感じる。
それが千年光国を動かす力となるのだろう。
激務に黒い隈を刻むレイティアルトの胸で輝くのはきっと、ダルムやサラの笑顔だ。
「……レイサリア光国王太子殿下と思えない」
茫然と呟くリイに、レイティアルトは眉をあげた。
「褒め言葉か」
「もちろんです!」
断言するリイに、レイティアルトが笑う。
レイティアルトの手を、サラのちいさな手が握った。
「お兄ちゃん、また来てね。絶対ね。
今度はもうちょっと早くね!」
陽の光のように笑うサラの幼い手を握りかえし、レイティアルトがやわらかに笑う。
「頑張る」
夕焼けのなか少女と手を繋いで歩くレイティアルトの背が、金に染まる海のようにきらめいた。
この方が、次期レイサリア千年光国、光王陛下だ。
レイティアルトを戴ける国は、光に満ちてる。
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