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幻想の向こう
しおりを挟む「わあ! ダルムのお菓子!
どうしたの、リイ?」
噴水の庭で目を輝かせてくれるレミリアに、リイの方がうれしくなる。
「レイティアルトさまのお付きで、光都に降りました。
おすきだと伺いました」
秋のはじまりの風に金の髪を揺らし、朝焼けに染まる世界で、レミリアが笑ってくれる。
「リイも、食べて」
きゅ、と唇に、やわらかな菓子が触れる。
熱くなる頬は、きっとレミリアの紅い頬と、おそろいだ。
レミリアの手から頬張ったセレネの花は、とろけるようになめらかに挽かれた木の実と、セレネの花の香りをくゆらせて、唇のなかで淡雪のように溶けた。
「……!」
目を瞠るリイに、レミリアが笑う。
「ね? 太ってもゆるせるでしょ?」
「ふくよかなレミリアさまも、星のひめです」
微笑むリイに、レミリアは紅い頬で笑った。
折角レミリアさまに直接伝えられるから、とリイは民の思いを告げる。
「レミリアさまが救護院をおつくりになられたと伺いました。
民がとてもレミリアさまに感謝していました。
ご挨拶をお伝えしてくださいと。
レミリアさまがお健やかで、おしあわせであられますようにと」
微笑むリイに、レミリアは目を伏せる。
「……そう、ありがとう」
うれしそうじゃないレミリアに、リイは首を傾げる。
「感謝されるのは、おいやですか?」
レミリアは首を振った。
「みな、私の顔に幻想をいだくから。
『花のきみ』そう呼ばれるたびに、ゾッとする。
私はそんな女じゃない……!」
抑えた悲鳴に目を瞠ったリイは、レミリアの手を握る。
「苦しい民や移民のために、お心を砕いてくださり、支援してくださるレミリアさまだから、皆がお慕いするのです。
顔面だけのひめなど、10年経ったらお終いです」
笑うリイに、レミリアは目をまるくする。
「……10年で終了……」
喉を鳴らして笑ったリイは頷いた。
「30代の美人と戦ったら、10代の美少女は多分圧勝するんです。
40代になり、より円熟味を増して、思考は豊かに、性質はやさしくなったとしても、顔面だけの戦いなら、その場に上がることさえ難しくなるのです」
日本のアイドルの世界では、たぶん!
「そんな一瞬の若さを崇拝して何になりましょう。
レミリアさまは、お年を召されても、きっと輝くようなひめさまです」
息をのんだレミリアが、紅くなる頬を隠すように目を逸らす。
「……リイの言葉は、不思議ね」
「思ったことしか言えません」
笑うリイに、くすぐったそうに笑ったレミリアが、リイの手を握る。
そっと握り返したら、白雲の頬がさらに朱を増した。
……ルフィスとレミリアを、重ねてしまうからかもしれない。
星の海の瞳に魅入られてしまったのかもしれない。
毎日お逢いしているのに、毎日逢いたい。
逢えたらうれしくて、楽しくて、傍で笑ってくれたら、しあわせだ。
……ルフィスと一緒にいるみたいだ。
思うたびに首を振る。
ルフィスにもレミリアにも失礼で、申し訳なくて、なのに逢いたいだなんて。
…………あなたを、あざむいている。
思うたび、リイの心は軋んだ。
「レミリアさま、俺は──」
声が、ふるえた。
こぼれかけた言葉は、レミリアの指に止まった。
リイの唇に、レミリアの花の指がふれる。
「……ルフィスの騎士だなんて、聞きたくない」
ちいさな声は、ふるえてた。
すがるように繋がれた指は、鳥の羽ばたきの音に、幻のようにほどけた。
書が嶺になるレイティアルトの執務室は、張りつめる戦場だ。
レイティアルトの署名ひとつで、千年光国レイサリアが動く。
その覚悟が、深翠の瞳に漲る。
レイティアルトは、迷わない。
迷いが失策を生むことを、誰よりも知っている。
決断を繰り返すレイティアルトの傍に仕えることは、リイの喜びと誇りとなった。
暗算、暗算、また暗算! の日々だけど、暗算しまくってたら速度が異様に上がってきたみたいだよ。
……こっそりチートかな? びみょうなチート!
時間ができたら書類整理もさせてもらえるようになってきた。
希望の星、魔道具研究室のメデュが、さくっとパソコンを作ってくれると思っていたけれど、そう簡単にはいかないらしい。
…………無茶苦茶なことお願いしたからね。
たぶん前世のパソコンでも、スキャンして自動で検算とか緊急性の判断、過去の天候と事例を鑑みて税率調整までできないよね……?
できるとしたら、スパコン? あのものすんごく巨大なの? 国の威信を懸けて造ってるのだよね?
……ひとりで造れるものなのかな?
でも必要なんだよ──!
泣いて頼むリイに頷いてくれたメデュは、真っ暗な部屋でパソコンの研究をしてくれている。
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