2 / 42
ふたりで
しおりを挟む僕は、ムニャのお家の玄関の近くに捨てられたらしい。
それは、あの人の『誰かが気づいて拾ってくれますように』願いだったのかもしれない。
最後の、やさしさだったのかもしれなかった。
ムニャは雪に足を取られながらも、僕を抱いて運んでくれた。
3歳のわりにちいさい僕はガリガリだから、ムニャの負担も少ないかもしれない。
水浴びするのがせいぜいだったから、きれいな服を着ているムニャには匂うかもしれなかった。
「ごめ、なしゃ……ぼく、くしゃい……?」
「そんなことない」
やさしく抱き寄せてくれる、あたたかな腕に、うっとりする。
ガリガリで、風呂にも入れてもらえず、今にも千切れそうな服を着て売られた僕には、誰も買い手がつかなかった。買ってもすぐに、はかなくなってしまうと思われたのかもしれない。
「ぼく、ちゃんと、はたらく、かりゃ……」
ふるえる声に、夜の瞳を見開いたムニャはささやいた。
「今は、生きることだけ、考えて」
ムニャの声は、今までかいだこともないような、やさしい香りをふりまくようだ。
あたたかな腕につつまれると、鼓動がとくりと音をたてた。
雪の降り積もる広やかな庭を抜けると、こぢんまりしたお屋敷が建っていた。
ギィイイイ
きしみながら、扉が開く。
雪明かりに照らされた邸は、ほこりまみれで、ひと気がなかった。
寝室の暖炉には不思議な赤い石が燃えている。
「……あったかぃ……」
「お風呂を沸かすから、ちょっと待ってね」
僕を暖炉の前に置いたムニャが、寝室の奥の扉を開ける。
不思議な水色の石にムニャがふれると、湯船に水がたまり、赤色の石にふれると、湯気が立ちのぼった。
……魔法みたいだ。
ぽかんとする僕の頭を、ムニャの大きな手がなでてくれる。
「急に熱いお湯に入るのは、身体によくないのかな? ちょっと、ここで、あたたまろうね」
冷え切った僕の手を、やさしくムニャの手が、こすってくれる。
水仕事であかぎれだらけの僕の手と違う、なよやかな手だった。
ごつごつの、あの人の手とも違う。お店のお兄さんの手とも違った。
「きれぃね」
うっとり、ムニャの指をなでたら、夜の瞳が瞬いた。
「は、はじめて、言われた……!」
ふうわり、ムニャの目じりが朱くなる。
「むー、きれい」
「むー?」
僕は、こっくりうなずいた。
「むに? むーちゃん」
あかぎれの指を、そっと、ムニャの頬にのばす。
見開かれた夜の瞳が、揺れた。
「……皆、僕の目も、髪も、真っ暗闇で気もちわるいって……」
僕は、首をふる。
「ほしの、おめめ。よるの、かみ。
むーちゃん、きれい」
夜空の瞳が、ぐしゃりと歪んだ。
伸ばした手を、ムニャが、すがるように、にぎってくれる。
「……っ……」
お兄さんなムニャの肩が、揺れている。
星の瞳からこぼれる涙に、手をのばす。
「いいこ、いぃこ」
ちいさな手で、ムニャのちいさな頭をなでる。
「……っ……」
ちいさな腕で、ふるえるムニャを抱きしめる。
「ぼくが、ぃるよ。ぼくに、むーちゃんが、いてくれゆ、みたぃに」
「ぅ、あ……!」
しゃくりあげて泣きだすムニャを抱きしめたら、僕の目からも、涙がこぼれた。
「すてられゆの、つらかった、ね」
うなずくムニャを、抱きしめる。
ふたりで一緒にこぼれる涙は
せつなくて
やさしくて
ほのかに、あまい。
1,389
あなたにおすすめの小説
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
【完結】望まれなかった代役婚ですが、投資で村を救っていたら旦那様に溺愛されました。
ivy
BL
⭐︎毎朝更新⭐︎
兄の身代わりで望まれぬ結婚を押しつけられたライネル。
冷たく「帰れ」と言われても、帰る家なんてない!
仕方なく寂れた村をもらい受け、前世の記憶を活かして“投資”で村おこしに挑戦することに。
宝石をぽりぽり食べるマスコット少年や、クセの強い職人たちに囲まれて、にぎやかな日々が始まる。
一方、彼を追い出したはずの旦那様は、いつの間にかライネルのがんばりに心を奪われていき──?
「村おこしと恋愛、どっちも想定外!?」
コミカルだけど甘い、投資×BLラブコメディ。
転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。
星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。
前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。
だが図書室の記録が冤罪を覆す。
そしてレイは知る。
聖女ディーンの本当の名はアキラ。
同じ日本から来た存在だった。
帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。
秘密を共有した二人は、友達になる。
人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。
記憶を無くしたら家族に愛されました
レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない…
家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…
当て馬だった公爵令息は、隣国の王太子の腕の中で幸せになる
蒼井梨音
BL
箱入り公爵令息のエリアスは王太子妃候補に選ばれる。
キラキラの王太子に初めての恋をするが、王太子にはすでに想い人がいた・・・
僕は当て馬にされたの?
初恋相手とその相手のいる国にはいられないと留学を決意したエリアス。
そして、エリアスは隣国の王太子に見初められる♡
(第一部・完)
第二部・完
『当て馬にされた公爵令息は、今も隣国の王太子に愛されている』
・・・
エリアスとマクシミリアンが結ばれたことで揺らぐ魔獣の封印。再び封印を施すために北へ発つ二人。
しかし迫りくる瘴気に体調を崩してしまうエリアス……
番外編
『公爵令息を当て馬にした僕は、王太子の胸に抱かれる』
・・・
エリアスを当て馬にした、アンドリューとジュリアンの話です。
『淡き春の夢』の章の裏側あたりです。
第三部
『当て馬にされた公爵令息は、隣国の王太子と精霊の導きのままに旅をします』
・・・
精霊界の入り口を偶然見つけてしまったエリアスとマクシミリアン。今度は旅に出ます。
第四部
『公爵令息を当て馬にした僕は、王太子といばらの初恋を貫きます』
・・・
ジュリアンとアンドリューの贖罪の旅。
第五部(完)
『当て馬にした僕が、当て馬にされた御子さまに救われ続けている件』
・・・
ジュリアンとアンドリューがついに結婚!
そして、新たな事件が起きる。
ジュリアンとエリアスの物語が一緒になります。
S S
不定期でマクシミとエリアスの話をあげてます。
この2人はきっといつまでもこんな感じなんだと思います。
番外編
『僕だけを見ていて』
・・・
エリアスはマクシミのことが大好きなのです。
エリアス・アーデント(公爵令息→王太子妃)
マクシミリアン・ドラヴァール(ドラヴァール王国の王太子)
♢
アンドリュー・リシェル(ルヴァニエール王国の王太子→国王)
ジュリアン・ハートレイ(伯爵令息→補佐官→王妃)
※扉絵のエリアスを描いてもらいました
※本編はしばらくお休みで、今は不定期に短い話をあげてます。
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
すべてはあなたを守るため
高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる