【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  ゆるゆ

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強制力?

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 さっさと出発したいのに、皆の明るい未来を阻むのは、目に見えない、なんか硬い壁だ!

「何ですか、この壁」

 ぐりんと後ろを振り向いたら、透夜の背中でユィルは首をひねる。

「おそらく我が国、違うな、バギォ帝国を守るための結界か何かだと思うが──」

 ユィルが伸ばした指が硬い何かにふれて、コツリと止まる。
 確かにあるのに、触れられるのに、見えない。
 不思議そうに壁をコツコツしたユィルは、首をかしげた。

「犯罪者などを通さぬようにする結界はあったと思うが、我らは登録されていないと思う。登録して脱出を阻止するほどでもないから」

 なるほど。
 腕を組んだ透夜は、うなる。

「じゃあもしかしてゲームの強制力なのかな? ユィルと俺たちは帝都で死ななければならない、ロロァは悪役令息にならなければいけない?」

「きょーせーりょく?」

 首をかしげるロロァが、ごちんしたおでこを自分で緑の光で癒しているのに、ユィルが目をみはる。

「き、きみは治癒魔法が使えるのか!」

「首、痛くした? 治す? 精霊さん、おねがい!」

 ぽわぽわロロァの掌からあふれた光が、ユィルの首に降りそそぐ。

「おお! 痛くなくなった! ありがとう!」

 手をにぎられたロロァの藍の瞳が、まるくなる。
 うつむくロロァのさらさらになった藍の髪が、頼りなげに揺れた。

「……あ、あの、あの、きもちわるく、ない……?」

 そうっと上目遣いで見あげるロロァに、ユィルは氷の目をむいた。

「まさか! 奇跡の子だぞ!」

 叫んだユィルが、つぶやいた。

「そうか、奇跡の子、治癒魔法が使える民を、帝都から出さぬように結界が設定されているのだ。きみに仲間として認定された者も、出られなくなってしまうのかもしれない」

「結界なら、解除方法がある?」

「……ある。王族の伴侶となると、自由に行き来できるようになる」


 …………………………。


「え、それって、ユィル×ロロァ、もしくはロロァ×ユィルってこと!? え、俺じゃないの──!?」

 泣きたい。

 せっかくの異世界転生なのに、せっかく主が見つかったのに、見守るだけの脇役か──!

 絶望に膝を折った透夜の肩を、ユィルがぽふぽふする。


「おそらく私は王族として認定されていないから、ロロァが帝太子の伴侶となるなら帝都を出られる、ということだと思う」

「絶対いや」

 断言する透夜に、ユィルのほうが引いてる。

「……え……?」

「ロロァと将来を約束してたのに、主人公がかわいーからってケツ振って、ロロァを踏みにじって主人公と結ばれるような王子なんか、最低だ──!」

 BLゲームマスターなのに『どき☆ワク☆イケメンパラダイス♡』を全否定する絶叫を放ってしまった。
 いや、自分が主人公の時は、美青年ハーレムカモンだよ。
 逆ハールート最高だよ。
 ゲームの中ならな!

 現実で、やってみて?
 ドひんしゅくだから。
 あれはゲームの中だからこそ尊い。
 現実でやったら、めちゃくちゃ、きらわれる!
 ぴんくの髪の主人公叩き、こわい! オンラインBL小説で、感想欄が、すごいことになってるよ!

「……トゥヤの言うことは、時々理解不能だな」

 ユィルが遠い目になってる。


「癖だと思ってくれ」

 うむうむした透夜は、確かにあるのに見えない壁を見あげた。





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