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首は洗っておいてください
しおりを挟む透夜と仲間たちが屋根に張りついて一刻経ったころ、竪琴が奏でられお茶会が始まった。
来客が誰が誰なのか解らないという重大案件は、帝宮の従僕が解決してくれた。
「ギビェ筆頭公爵家が長子、ドド・ギビェ殿、ご来臨!」
ギビェ家の長子はロロァのはずだが、いなかったことにしたらしい。
ふんと鼻を鳴らした透夜は、ざまぁ待ってろよと吐き捨てながら紹介された子どもを見る。
視力、たぶん今世は5.0くらいあると思う。
ばっちり鼻毛まで見えるぜ!
……おいおい、帝太子とのお茶会なんだから、切っておけよ……
突っ込みつつ見た子どもは、ぶっくり太ましい、だんだん腹で、この世界上位貴族あるあるだが風呂に入ると身体に悪いと信じていて髪がべったり固まってくちゃくなってる、唇に嘲笑が張りついているような子どもだった。
ロロァと同い年くらいだろうか。周りの子と比べても巨漢だ。
…………………………。
なんか、思ってたのと違うけど、これはこれで悪役っぽい。うん。
「さあ、ドドちゃん、帝太子殿下にご挨拶しましょうね」
隣でにこにこするケバい人が、ロロァの継母らしい。
BLゲームの世界なので、おかあさんも男性だ。魔法でさくっと産めるんだって。さすが異世界だ。ジェンダーフリーで子どもが産めるよ!
お茶会の最奥の上座には、白い天幕が設えられ、ちいさな子どもが座っていた。
天幕の影になってよく見えないが、帝太子殿下がいるらしい。
「ふん! 帝太子って言ったって、大したことないんだろ? ギビェ家の後ろ盾がなかったら、太子になんてなれない癖に!」
ダミ声で叫ぶドドに、びっくりした。
トドみたいだ。
ちがう、それじゃあトドが可哀想だ、あんなに愛らしいのに!
ちがった、帝宮のお茶会で、帝家に喧嘩売るなんて、頭沸いてやがる──!
茫然としたのは透夜だけらしい。
「まあまあ、ドドちゃん、ほんとうのことを言ったら傷つくのよ。ホーホホホホホ!」
笑う姿がすっかり悪役の継母だ。堂に入ってる。
控える騎士や従僕たちが心底呆れたように睨みつけているのに気づかないらしい。
ああ、そうか、これがギビェ家の通常運転だから、誰も叱責しないし、睨むだけなのか。一応、筆頭公爵家だから。このままじゃ、すぐに筆頭じゃなくなりそうだけど。
帝家としては鼻摘み者だろうが、即刻殺す訳ではないらしい。
しかし当然だが帝太子からのお言葉はなかった。
ドドも天幕に向かわない。
お互い、挨拶もしないようだ。
……何のために来たの?
そうか、厭味を言うためか──!
「これはないな。しかし報告はせねばならん」
透夜は名前と言動を報告書に書き留めた。
次にやってきたのはさらさらの長い水の髪を後ろで水のリボンで束ねた、銀縁眼鏡の子どもだ。
「ゾンデ公爵家が長子、キァナ・ゾンデ殿、ご来臨!」
胸に手をあて、やわらかに天幕に向かって膝を折る。
おお、キラキラしてる──!
透夜は目を瞠る。
この子をおっきくしたら、間違いない、攻略対象だ──!
「ゾンデ公爵家が長子、キァナ・ゾンデにございます、帝太子殿下」
「よく来てくれました、ありがとう」
ちいさな声が答えた。
印象は、まずまず、かな?
透夜は事実と印象を書き添えた。
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